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グッドゲームクリエーター~VRゲームとらぶる開発記~  作者: ありんす
6thG 麒麟のバレンタイン作戦
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それぞれのバレンタイン

「ねぇ桃火、今年どうするの?」

「どうって何が?」


 会社の休憩室で雪奈はブラック缶片手にタブレットに目を落としている桃火に顔を寄せる。


「またまたすっとぼけちゃって。14日だよ、14日」

「14日? 誰かの誕生日?」

「違うよ」

「結婚式でもあったっけ?」

「君、もしかしてわざとかい?」

「リアルにわかんないんだけど」

「もぉ、バレンタインだよバレンタインデー」

「あー、そんなのあったわね」

「渡すんでしょ?」

「買って来たチョコでいいでしょ」

「君、もしかして昔も遼太郎君に市販のチョコあげてたの?」

「作ったわよ。でもあいつあたしの作ったやつ母親からのだと勘違いして、あたしになんにも言ってこなかったのよ。母親が手作りチョコなんか渡してくるわけないでしょうが」

「ククク、彼らしいね」

「ホワイトデーはめっちゃたかったから、おあいこだけどね」

「君のことだ、リボンに裸の自分をくるんでこれがプレゼントとか言ってそうだったんだけどね」


 雪奈は冗談めかして言うが、桃火は不自然に顔をそらす。


「………………」

「……えっ、まさかやったの?」

「………………しょうがないじゃん、あの時あたしたちバカップルだったんだもん」

「嘘、ボクそれやろうと思ったのに。ちなみにどんな風にやったの?」

「いや、裸ってわけじゃなくて胸にチョコ塗りたくって食えってやった」

「なにそれ、ボク初めて君を許せそうにないかもしれない」

「マジギレしないでよ! 昔の話だから!」

「昔ってほんの一年、二年前じゃん」

「そ、それはそうなんだけど」

「前々から思ってたけど、君よく別れられたよね」

「いや、あいつ基本なんでもできるから一緒にいるとダメ人間にされるとは思ってたのよね……」

「で、別れた今の気持ちは」

「あたしをもっと甘やかしてくれーーーー! カムバーーーック! って何言わせんのよ!」

「君やっぱりコメディアンの方が向いてるよ」


 雪奈は桃火の自爆っぷりに笑いながら、本気でバレンタインデーどうしようかと考えるのだった。



 翌週バレンタイン前日。


「私のボット絶殺セキュリティ、アンチボットチョコキラー君Ver2.22は正常稼働してますね」


 麒麟は自身の組み込んだプログラムでボットが次々に駆逐されていくのを見て満足げにウンウンと頷いている。


「よし、私のカカオ集めもあともう少しだし。平山さんにおっきなチョコプレゼントしよう」


 と思っていると、ふと何かに気づく。

 何か大事なものを忘れているような気が……。


「平山君いるかい?」


 その時コミュニティチームの斎藤が第三開発室にやってくる。


「今ちょっと席を外してますが」

「じゃあ彼に言っておいてくれますか? 一日早いけど彼宛にユーザーさんから大量のチョコが届いてるって」

「…………チョコ」


 麒麟の脳天に雷が落ちる。


「しまった! ゲームでカカオ集めしてリアルのチョコのこと何にも考えてなかった!!」


 天に向かって叫んだあと麒麟は両手で頭を抱えて蹲った。

 斎藤は第三のリーダーはなんて面白い人なんだろうと思う。


「ええええええ、どうする、どうする私! ライフカード!」


 麒麟の頭の中に三つの選択肢が浮かぶ。

 1市販のチョコを買ってくる。

 2チョコなんて溶かして型にいれるだけでちょろいから帰ってすぐ終わらせる。

 3何か他のことを考える。


「1はなし、市販のだと義理と本命の区別がつかないし、どっちかって言うと義理のイメージが強い。2もダメ、昔男もいないのに作ろうとしたけど、溶けたチョコに空気が入ってヘドロみたいなのが出来上がったからダメ。3は……何も思いつかないーーーー!!」


 麒麟はその場で床にヘッドバッドを繰り返す。


「うわーーーー誰か助けてーーーー!!」


 ゲームでバグが起きてもここまでパニックを起こすことはなかった麒麟だが、今はギャオーっと叫びながら開発室をのたうち回っている。


「姫はどうしたんでふか……」

「乙女の苦悩というやつでゴザろう」

「そうだ、高畑さん! この開発メンバーで唯一チョコ貰ってそうな人!」

「失礼だが当たってるでゴザル」

「ぼく貰ったことあるでふよ」

「どうせ風俗嬢でゴザろう」

「岩城君鋭いでふ。チョコをベロンとなめてから食べさせてく……」

「聞きたくない聞きたくないでゴザル!」


 麒麟は後転しながら、勢いよく腕をのばして飛び起きると、高畑を目指して走った。

 コミュニティチームと打ち合わせをしている高畑を見つけると、麒麟は襟首を掴んで休憩室に引きずっていく。


「な、なんすか!?」

「あの、緊急でお話がありまして」


 麒麟は高畑にコーヒー缶ワイロを差し出しながら頭を下げる。


「なんですか、バグでもおきたんすか?」

「あの、私を助けて下さい」

「はぁ……?」


 麒麟の話を聞いて、高畑はゲラゲラと笑う。


「そんなに笑うことないじゃないですか!」

「いや、笑いますよ。あの姫様がバレンタインデーどうしたらいいかわからないから教えてくれって、面白すぎでしょ」

「声が大きいです!」

「失礼。ちなみに市販は嫌なんですよね?」

「はい、お金より時間をかけたいんですけど、このことをすっかり失念してまして、時間もかけられない状況に……」

「チョコの手作りくらいすぐなんじゃないんですか? 男からの勝手な想像なんすけど」

「私、料理系からっきしで……」

「なるほど。まぁ大体事情はわかりました」

「あの、男の人ってバレンタインデーってどうすればいいんですか?」

「姫様、バレンタインデーはただ丹精込めたチョコを渡せばいいってもんじゃないんですよ。絶対にやらなければいけないことがあるんです」

「そ、そうなんですか!?」

「ええ、それは記憶に残ることです」

「記憶に……」

「いくらデキがいいチョコを手作りしたとしても、結局市販品の方が美味いし見た目も綺麗なんすよ」

「身もふたもない……」

「俺は逆に失敗してるチョコの方が凄く印象に残ると思いますけどね」

「でもそれは」

「わかります。さすがに女性に記憶に残るから失敗したもんもってけなんて言っても嫌ですよね」

「ええ」

「俺が昔やられた単純手軽かつ鮮烈な記憶に残るバレンタインデーの秘策を教えます」

「本当ですか!?」


 かぶりついてくる麒麟をどうどうとなだめて、高畑は秘密兵器を机の上に置く。


「これは、なんですか?」

「…………です」

「そんなものがこの世に!!?」



 遼太郎はコミュニティチームに渡されたチョコを持って仮眠用の個室で途方に暮れていた。

 どっさりと用意されたチョコの山はシングルベッドを埋め尽くし、これを全て食べれば糖尿病まっしぐらなことはわかった。


「皆さん丁寧に一つ一つ手紙付きなんですよね……さすがにこれを誰かにおすそ分けするのも気が引けます」


 手紙を開くと、送り主であろうホワイトナイツメンバーの裸エプロンのグラビア写真が付属している。1つだけかと思ったら全部についており、ヴェルティナの物に至ってはゴージャスな薔薇の花びらを模したチョコにアルバムかと言いたくなるくらい自身の写真が付属していて、もはやどちらが本体なのかわからない始末だ。


「う~ん、彼女達はバレンタインを何か勘違いしているのではないでしょうか」


 その中でひときわ大きいチョコがチョコ山からガラガラと崩れ落ちてくる。星条旗風の梱包紙に包まれたチョコはテキサスファイアのグレースからのもので、彼女の豪快な性格を反映する巨大なものだった。


「彼女達に血糖値という概念はないのでしょうか」


 グレースの巨大な箱を開けてみると、箱の中身はチョコまみれでヴェルティナのような綺麗なものではなかった。

 苦労して手作りしてくれたのかな? と思ったが、まんまるく膨れあがった餅のような形をしたチョコが二つあり、かわった型で作ったのだなと首をひねる。これも他に漏れず手紙つきだったので遼太郎は手紙に目を通す。


「Hey You ミーのおっぱいチョコ食べてくださーい!」


 何言ってんだろこの人……と思いながらも、やはり写真付きであり、そこにはグレースが自身のおっぱいで型を作り、その中にチョコを流し込んで作る、製造過程が写し出されている。

 かなり危うい写真もあり、こんなの流出したら大騒ぎになるんじゃないのかと爆弾を渡された気分になる遼太郎だった。


「まぁチョコの賞味期限は長いですから、ちょっとずつ食べることにしましょう」


 一応食べてることをアピールする為に、チョコをかじりながら自撮り写真を撮る。

 後で開発ブログにアップしようかなと思うが、これは後に岩城からモテないユーザーたちの反感を買うからやめろと言われるのだった。


[ドンドンドンドンドンドン]


 そんなことをしていると、突如借金取りみたいなけたたましいノックの音が聞こえ、遼太郎はなんだ? と内心ビクつきながら扉に向かう。

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