再会
再び四人揃った遼太郎たちは、後ろから迫る機械竜を振り切る為にアクセル全開で市街地を走り抜ける。
「なによあれ! あの恐竜火もふけるわけ?」
「あれ二体目なんですよ」
「はっ!? 二体目!? 一体目は?」
「倒しました」
「はっ!!?」
「苦労してガソリン手に入れたボクらの立つ瀬がないね」
「そう言うな、こちらも死闘であったからな」
「じゃああんた、あの火を吐くメカザウルスも倒して来なさいよ」
「無茶言わないで」
「さすがに火竜の火炎放射は斬り払うことができぬからな」
「どこかにまた弱点あると思いますけどね」
桃火がレースゲームでならした腕もあり、どうやら火竜はまいたようで、遠くの方でズシンズシンと足音が聞こえるだけとなった。
念のため、しばらくそのまま車を走らせる。
「そなた、先ほどのレアイテムは一体なんだったのだ?」
「なにそれ? アイテムとか手に入れたの?」
「はい、モンスターを倒したら手に入る報酬らしくて」
遼太郎は電竜の破壊報酬で手に入れた手のひらサイズのボックスを取り出す。
「なんでしょうね、これ?」
「銃やナイフ、防具の類がドロップするとは聞いたことがあるが、このサイズのものは見たことがない。というかそもそも討伐数が少なすぎて、攻略サイトにも情報が載っていない」
「あけますね」
遼太郎がボックスを開くと、中からバチバチと稲妻を放つ腕時計が出てくる。
「ただの時計ではなさそうですね」
「説明は?」
「えーっと、パーティーメンバーを除く全プレイヤーの電子機械類を90秒ショートさせる。レーダー、光学サイト、地雷、特殊ゴーグル、その他全ての電子機器を使用不能にする。また効果時間中に指定した電子機器をハッキングすることが可能」
「最強のハッキングとジャマーといったところか。装備が強い敵程有利になるものだな」
「そうね、後半戦敵の装備も整ってるからタイミングよく使えば凄く有利になるわ」
「そうですね。今残ってる敵の数は」
遼太郎が中空を撫でると現在の戦況情報が表示される。
「残りプレイヤーは後17人ですね」
「もう終盤戦だな。しかし妙だな、先ほどの電竜戦を見ていたプレイヤーの数を考えるともっと残っていてもおかしくないのだが」
「そうですね、30人くらい見てたと思ったんですが急に数が……あれ?」
「どうした?」
「いえ、残り人数が減って……」
「リアルタイムで更新されているから誰かに殺されているだけだろう」
「いえ、その、減るスピードが半端じゃなくて」
言われて神と雪奈も戦況情報を表示させると、残り14人から13、12、11と凄まじい勢いで数字が減っていく。
「さっきのモンスターにやられてるのかな?」
「いや、モンスターは一気に三人以上プレイヤーを倒すと、バリアを展開して一定時間止まる。このようなハイスピードでプレイヤーを駆逐したりしない」
「そりゃリミッターくらいかけてるわよね。一瞬でひき殺されたらクソゲーだもの」
「ちょっと待ってくださいね。バトルログ見ますから」
遼太郎はどのプレイヤーが誰を倒したかを記録しているバトルログを呼び出し、下からずっとなめていく。
「あー……ほとんど同じプレイヤーによるキルですね。凄いなこの人……20人以上倒してるんじゃないかな」
「外人の廃プレイヤー?」
「えっとHAYATEって人ですね」
その名前を聞いて、桃火と雪奈の顔が露骨に曇る。
「それ天空院ってやつじゃない?」
「上の名前まではわかりませんが……ってこの人椎茸さんキルしてる」
「多分あれだよね……ガソリンスタンドであった」
「ほぼ間違いないでしょうね」
「知りあいですか?」
「ゲーム始める前に言ったでしょ、気持ち悪いのにからまれたって」
「ガソリンスタンドでも会ったんだよ。拙僧とフレンドになったら見逃してやるって」
「うわぁ……生粋の直結ですね。それどうしたんですか?」
「ガソリンスタンド爆発させて逃げたよ」
「……桃火ちゃん、さすがにそれはやりすぎじゃない?」
「あたしじゃないわよ! こっちは他のスナイパーが狙ってたから逃げただけ!」
「このHAYATEって人、ちょいちょいPKしましたって書いてあるんですがPKって何の略ですか? プレイヤーキルじゃないですよね?」
「パーティーキルだ。仲間を殺している」
「えっ、確かにこのゲームフレンドリーファイアあるなと思ってましたけど、殺せるんですか?」
「ああ、運営側がゲームをせず放置するプレイヤーを追い出す為に残したらしいのだが、パーティープレイヤーを殺してもキル数にカウントされるから、スキルを発動させる為に意図的にプレイヤーを殺すユーザーがいるとは聞いたことがある」
「ゲームのグレーゾーンね。パーティーキルもあれば、最後一人倒せば強力なスキルを発揮できるとかで一発逆転させやすくする為にあえて残してたんでしょうけど、ユーザーが仲間を殺して当たり前として認識してるなら規制せざるを得ないでしょうしね」
「わりかし遊び心で残してるものってほんとにユーザーの良心にゆだねられるものが多いですから、悪用されると悲しいですね」
「システム的にできちゃうから悪用ではないけどね。それに仲間を殺して一発逆転っていうのもどうかと思うよ」
雪奈の意見に全員が確かにと頷く。
その直後車のサイドミラーが吹き飛ぶ。
「近くのコンテナの上にスナイパーがいますね。位置的にヘッドショットは狙えないと思いますが」
「腕の良いスナイパーだと当ててくる可能性もある。遮蔽物の多い工場地帯に入ろう」
「オッケ」
桃火は神の指示通り、車を工場地帯へとつけると全員が素早く下車し、工場の中へと入っていく。
中はカラフルな溶鉱炉が並んでおり、一体ここが何の工場なのかイマイチよくわからない。
進む道は全て網目の鉄板になっており、足下を赤熱した溶けた鉄が流れている。
下から吹き上げる熱気が強くオーブンの中を歩いているような気分になる。
「あっついわね……」
「熱を感じられるってゲームの進歩を感じますよね」
「ほんとあんたゲームバカよね」
しみじみとしている遼太郎を半眼で見据える桃火と雪奈。
「溶鉱炉に落ちたらどうなるのかな?」
「一度落ちたことがあるが、ぬるいお湯くらいの熱さだった。ただ即死したが」
「やっぱり即死ですか、アイルビーバックごっこはできないんですね」
遼太郎がバカなことを言っている隣で、桃火は自分を手で仰ぎながらもう限界とトレンチコートを脱ぎだす。
「う~、あっつい脱ごう!」
「ボクも脱ぐ」
二人はせっかく着ていたトレンチコートを脱ぎだし、水着姿になる。
「あぁ、ちょっとマシ」
「あの、二人とも目のやり場に困るからできれば着ててほしいんですけど」
「嫌よ、暑いし。どうせあんたしかいないし」
「ボクも暑いの苦手、溶けちゃうよ」
「普通は脱ぐ方が暑くなるはずなんですけどね……」
現実で溶鉱炉の隣を水着姿で歩いてたら頭おかしいと思われるのは間違いないだろう。
神を含めた女性陣の肌に玉のような汗が曲線を描いて落ちていく。
「三人ともあんまり人目は気にしない方ですか?」
「するに決まってんじゃん」
「当たり前じゃない。こんなとこ見られたら死んじゃうよ」
「余もさすがにいっぱしの恥じらいくらいはもっている」
遼太郎は目の前で揺れる三つのお尻を眺めながら恥じらいとは一体なんなのかと考える。
「少し姑息かもしれないが、数が絞られるまで引きこもらせてもらうとしよう」
「FPSで引きこもりは基本よね」
「そうですか? 僕は突っ込んで派手に散りたいタイプですが」
「あんたは派手にひき殺して最後自爆する最低なタイプよね」
桃火が呆れていると、全員の耳にバラバラバラとヘリコプターのローター音が聞こえてくる。
「何、この音?」
「空爆の音だな。一定時間ごとにランダムでどこかに爆撃が行われる。マップを見ればどこに行われるか範囲が表示されるはずだ」
神に言われてマップを表示させると、大きな円形の範囲がいくつも表示されている。
「ここ空爆範囲だよ! 逃げないと!」
「大丈夫だ。空爆は屋根は貫通しないから、どこかの建物に入っていれば範囲の中にいてもやりすごせる」
「なんだ、良かっ……」
「良くないわよ」
桃火が苦い顔をしてマップを見ている。
「どうかしたの?」
「この辺りで屋根のある建物ってここだけよ」
「ってことは……」
「生き残ったプレイヤーが集まってくると」
全員が梯子を上り工場の二階から入り口に銃口を向ける。しかし入り口が北、南、東と三つもある為どこからプレイヤーがなだれこんでくるかわからない。
トリガーに指をかけて待つが、誰も来る様子はない。
爆撃が始まり、工場の外にドッカンドッカンとミサイルが直撃し爆発が巻き起こっている。
「意外と来ない?」
「近くにプレイヤーがいなかったのかもしれないな」
遼太郎は再びバトルログを表示させると、爆撃で数名お亡くなりになったらしくプレイヤーの残り数は十人となっていた。
「おっ、あと十人ですよ。トップテンですね」
「やった、勝てるんじゃない?」
「あのHAYATEという人物は生きているのか?」
「…………死亡履歴にはいないですね。多分生き残ってます」
「ならそいつが大ボスってわけね」
「四人いるからきっと大丈夫だよ」
雪奈は既に勝利が決まったように喜んでいるが、その時ターンターンと銃声が響き渡る。
「銃声、近い! 東側から来るぞ!」
全員が銃と弓を東側の入り口に向ける。
神の言ったとおり二人のプレイヤーが、爆撃の中工場の中へと走り込んできた。
覗き込んだスコープに人影が見えた瞬間トリガーを引こうとする。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
遼太郎がストップをかける。
「なんだ!」
「あれ、麒麟さんと岩城さんですよ!」
言われてスコープを覗き込むと、スナイパーライフルを持って泥だらけになりながら走っているのは麒麟で間違いなかった。その後ろを岩城がヒィヒィ言いながらついて行っている。
「追われてるよ! 後ろに二人ついてきてる!」
遼太郎はすぐさま矢をつがえ、麒麟を追いかけているプレイヤーに向けて矢を放つ。
一人は頭に命中したが、もう一人は工場内のパイプに刺さり外れてしまう。
「遮蔽物が多い! これじゃ助けられません!」
「あたしが行くわ!」
そう言って桃火は銃を捨て、巨大なチェーンソーに火を入れる。
そして、そのまま階下へと飛び降りたのだった。
「ひっ、なんだこの女!?」
麒麟たちを追っていたプレイヤーの前に突如現れたチェーンソー持ちの桃火は、そのまま振り向きざまにチェーンソーで斬り裂く。
「桃火! 後ろまだいるよ!」
雪奈のシックスセンスで隠れていた敵を見つけ出し、場所を指示する。
桃火はそのまま敵に向かって突進する。当然敵はアサルトライフルで迎撃するが、それを全てチェーンソーの刀身で受けると、かすり傷は無視して、そのまま斬り裂いたのだった。
「さすがチェーンソー、ホラー物によくでてくるだけあって強いわね」
ふぅっと桃火が息をつくと、麒麟と岩城を含めた全員が集まる。
「こんなところで会えるとは、助かったでゴザルよ」
神が刀を構えかけたが、遼太郎は「大丈夫、友人です」と遮る。
「ひどい目にあったでゴザル。平山殿がここにいて助かったでゴザルよ」
「生き残ってたんですね」
「そんな簡単にはやられぬでゴザルよ。ただ拙者も姫もほとんど弾が残ってなくて逃げるしかなかったでゴザルが」
「麒麟さんも残ってて良かったですよ」
そう言うと麒麟は涙目で遼太郎に抱き付いてきた。
「うわ~ん遼太郎さん会いたかったですよ!」
「ほんと良かったです」
麒麟はおーいおーいと泣きわめくと、ピタッと止まり桃火と雪奈に指を指す。
「そこの二人、後でフレンド欄見せて下さいね。パーティーわけで不正行為があった容疑がありますから」
「それはキノセイダヨ麒麟ちゃん」
「気のせいよ気のせい」
麒麟と岩城に神の紹介を行う。
「私たちは遼太郎さんたちの同僚です。っていうか上司です」
「拙者は同僚でゴザル」
「うむ、余はZINと呼ばれている」
「ZINさんってネットで見たことあります。その、物凄い課金量だとかでネットニュースで取り上げられてたり。巷では石油王だとか……」
「ははっ、よく言われている。余はゲームを愛しているからな、まずクリエーターにお金を払い敬意をはらうところからゲームを始めることにしている」
「なんていい人なんだ……」
「まさしく神でゴザル」
クリエーターたち全員がグズグズと涙を流す。
「ってかなんで皆水着なんですか。遼太郎さんなんか完全に変態紳士じゃないですか」
麒麟がようやく全員の水着や裸ネクタイのおかしな格好に突っ込む。
「暑いからに決まってんでしょ」
「むむむ、これは眼福でゴザル。このようないやらしい体ポルノ雑誌でしか」
パンっと乾いた音が響き岩城は腹を撃たれてもんどりうった。
雪奈がハイライトの消えた目で、硝煙の上がる拳銃を握りしめていた。
「それは岩城さんが悪いですよ」
「はい、岩城さんはこれ被って下さい」
岩城は麒麟にサーモグラフィーゴーグルを被せられる。
「ひ、姫これでは柔肌が見えぬでゴザル。全部赤と緑の人型にしか見えぬ!」
「見なくていいです」
麒麟はチラリと他の女性陣を見て、ボインと突き出た胸とお尻を見てぐぬぬぬと唸る。
そして何を思ったか装備を脱ぎだしたのだった。
「なんで脱ぐんですか!?」
「あ、あああああ暑いからに決まってるじゃないですか! 他に意味はありませんよ!」
どうやら麒麟も持っていたらしい水着に着替えると、四人の水着女性が並ぶ。
「麒麟、あんた胸盛ってるでしょ」
「盛ってません!」
「えぇ、麒麟ちゃんその胸ちょっと不自然だよ。明らかに重力無視してるもん」
「あ、あなたたちがおかしいだけです!」
麒麟がプンスカと怒っていると、網膜に残り七人と表示される。




