直結
その頃、神を加えた四人は、島の中心地に向けて車を走らせていた。
舗装された道路を避け、悪路を進んでいると立ち並ぶ煙突と街の一角が見え始めてきた。
「街の中心に工場地帯がありますね」
「街のど真ん中に工場作るとか市長の嫌がらせね」
「公害まき散らして起訴だね」
「わかりませんよ、もしかしたらゼリーとかの工場かもしれませんし」
「ゼリーだって公害まき散らすかもしれないでしょ」
「この辺りで停めよう。市街地に車で入れば狙撃される危険がある」
神に言われて全員が車から降り、周辺を警戒しながら市街地へと入って行く。
「雪奈、今何人くらい生き残ってるの?」
「70人くらいだね」
「ファーストコンタクトで結構減りますからね」
「脱落したうちの6人があんたの手にかかってるってわかってるんでしょうね」
「最初の4人はほんとよくわかんないんですよね。多分手榴弾だと思うんですけど」
「実に頼もしきことであるな」
神が笑みを作った後すぐに真剣な眼差しにかわり、全員を制止させる。
「中にいるよ」
雪奈が一番近くの家に向かってシックスセンスを使用すると、家の中が透過され四人のプレイヤーが網膜に映しだされる。
「何人?」
「四人、家の中でアイテム漁ってるっぽい」
「まぁ、やっぱ固まって動いてるわよね」
「どうしましょうか、突撃するか、それとも……」
「良い、余一人で十分だ」
そう言って足音を消しながら、神は家の中に入ってしまう。
「ちょ、ちょっと!」
家の扉を開けた瞬間、当然敵プレイヤー四人と鉢合わせする。
向こうはこちらのことに気づいていなかったようで、慌てて銃を構えようとするが、その時には既に四人全員が倒れ、カタナブレードを鞘に納めている神しか生き残っているものはいなかった。
「なに、それ……」
「あの子、一瞬だけど加速したね」
「ええ、多分スキルを使ったんでしょう」
「なにそれ課金スキル強すぎでしょ」
ほんの一秒足らずで敵プレイヤー四人を斬り伏せてしまい、遼太郎たちはもうあいつ一人でいいんじゃないかという気になる。
神は刀を鞘におさめると、ふぅと息をつく。
「自身の時間を加速させるスキルを使っている。加速するのが余の体だけだから、銃を撃つより斬った方が速く近接武器しか効果がないというデメリットがある。しかしそれでも十分な効果を発揮する」
「弾丸より早く動いてるってことね……」
「多分簡単に言ってますけど、相当操作難しいですよ。このゲーム主観時間を止められませんから、本当にアバターを加速させてますね」
「いきなり時を加速してくる敵が出てきたら普通に皆殺しにされるわよ」
「見えない敵の正体はこれですね」
「そ、それより早く中入ろうよ、ボク服がほしい」
四人は倒したプレイヤーの所持品を漁っていくと、手榴弾やハンドガン、アサルトライフルなどの武器を見つける。
「なんで皆裸の大将みたいな格好してんのよ。着れる服がないじゃない」
「多分今から家探しするところだったんでしょう」
「リョウタロー、あんたアサルトライフル使う?」
「僕はいいですから桃火ちゃんと雪奈さん二人で持ってください。僕はハンドガンだけ貰っておきましょう。他に何かありました?」
「おっきいチェーンソーがある」
桃火の手には巨大なチェーンソーが握られている。あんなもので斬られたら即死は間違いないだろうと思う。
「ギガントチェーンソーの威力はカタナブレードを凌ぐが、何分重量が重いのと攻撃時の音がうるさすぎる為、敵に攻撃を与えることが難しいのだ」
「なるほど」
「そう? 結構軽いけど」
桃火はでかいチェーンソーを軽々と振っている。
「恐らくそなたのスキル、パワーアームの恩恵であろう。そのスキルがあるなら乱戦になった時役立つかもしれん」
「桃火ちゃん持っておいたら?」
「そうね、こういう悪役武器好きだし貰っておくわ」
「服あったよ!」
家の二階から雪奈は大きめのコートを二着持ってくる。
「よし、でかした! これでこの痴女スタイルともお別れできるわ」
そう思い桃火と雪奈は丈の長いトレンチコートを水着の上から着る。
「……なんでこれ前しまらないの?」
「さぁ……」
「あの、二人とも言いたくないけど言っていい?」
「「…………」」
「水着にトレンチコートって露出狂みた……」
パンと軽い音が上がると、遼太郎の腹に風穴があき、HPゲージがギューンと減る。
雪奈が死んだ魚の目で硝煙のあがる拳銃を握りしめていた。
「いくら遼太郎君でも言っちゃダメなことがあるよ」
「うん、今のはあんたが悪いわ」
またしても無駄な回復薬を使わされながら治療されるのであった。
「遼太郎君スラックスあったよ。着る?」
「はい、僕もさすがに白いパンツにネクタイというのは絵的にまずいと思いますので」
遼太郎がズボンをはきおわると、桃火と雪奈だけでなく神まで軽い笑いをかみ殺していた。
「変ですか?」
「まぁ変か変じゃないかっていうと変だけどさ」
「宴会中のサラリーマンが飲み過ぎてシャツ脱いじゃったみたいな感じ」
「しかしそなたそこそこ鍛えてある。アバター用に筋肉をいじっているのか?」
「いえ、そのままですよ」
「へー、じゃあ遼太郎君脱いだらこんな感じなんだ」
女子三人に囲まれてキャイキャイと胸を触られる。これが反対だったら永久アカバンされて、更に警察に被害届とか出されるんだろうなぁと遼太郎は世知辛い世の中を思う。
彼がそんなことを思っているなんて露知らぬ女性陣だったが、網膜に残り人数50と大きく表示される。
「半分切ったくらいになりましたね」
「多分どこも第二ラウンドが終わったってところなんでしょうね」
「探索も終わったし次いこっか?」
「そうですね」
四人が外へと出ると、砂煙を巻き上げて、一台のバギーが目の前を疾走してくる。
「敵だ!」
全員が銃とフライパンを構えるが、バギーは何かに追い立てられるようにして目の前を通り過ぎていく。
「あれ、行っちゃった」
「あたしたちに気づいてなかったのかしら?」
「いや、これ見よがしにいたからそれはないんじゃないかな?」
不意に神の動きが完全に止まる。
「どうかした?」
「シッ、静かに」
全員が黙ると、ズン、ズンと音に聞こえるほどの大きな地響きがする。
「!! 走れ!」
神が一目散に走ると全員がそれに続く。
「ちょ、なんなのよ!?」
「モンスターだ! さっきのバギーはモンスターに見つかってそれから逃げていたんだ!」
「モンスター!?」
音のする方を見渡すと、確かに何か巨大で二足歩行するものが近づいてくる。
背中に六つの電極をさし、バチバチとスパークさせている機械の肉食恐竜が迫ってくるのだ。
「なにあれ、モンスターってティラノサウルスじゃない!?」
「電竜だ!」
「機械っぽいね」
「あんたんとこのゲームにあんな奴いなかった?」
「やめてよ桃火ちゃんダイナソーシリーズはまだ構想中なんだから」
「そんなこと言ってる場合じゃないよ! めっちゃ早い!」
ズンズンと響く音は次第に大きさと速さを増していく。
桃火と雪奈が振り返りながらアサルトライフルを連射する。
だが、チュンチュンと軽い音をたてるだけで、恐竜の頭上に表示された体力ゲージは全く減っていない。
「なによあれ、あんなのインチキじゃない!」
「僕の聖剣エクスカリバーで奴を食い止めるしかないか」
「フライパン握りしめて何バカなこと言ってんのよ!」
「手榴弾投げるよ!」
雪奈が先ほど拾ったばかりの手榴弾を放り投げる。一瞬遅れて爆発音が響く。だが、機械の恐竜はものともせず突き進んでくる。
「なにあれほんとに倒せるの!?」
雪奈が珍しく声を荒げる。確かに理不尽なくらいの体力と頑強さである。
「やっぱり僕の聖剣デュランダルで」
「うっさいわね、次同じネタやったら殺すわよ!」
遼太郎がしょぼんとしてると、前に乗り捨てられた車が見つかる。
「車まで走れ!」
「ラッキー! これで逃げ切れるわ!」
桃火が運転席に飛び乗り、後部席に雪奈、神と続く。
「よし、これで!」
桃火がアクセルを踏み込むが、車はうんともすんとも言わない。
「えっ、なにこれ!? 遼太郎これどうやって運転するの!?」
「ハンドル握ってアクセル踏むだけだよ!」
遅れて遼太郎が駆け込む。
「来るぞ!」
機械の恐竜がマンションをぶち破って、その巨躯を現す。
だが、車は未だ動かない。
「桃火ちゃんアクセルだよ! ブレーキ踏んでない!?」
「ちゃんと踏んでるわよ! コンビニに突っ込む老人と一緒にしないで!」
桃火は荒々しくアクセルを踏みこむが、やはり車から反応はない。
「あっ、ガソリンないよ!」
雪奈に言われて燃料ゲージを見ると針はEMPTYを示していた。
「最悪!」
「誰かがガス欠で乗り捨てたものだったか」
「この近くガソリンスタンドあったよね。あそこにガソリン取りに行くのと新しい車見つけるのどっちが早い?」
「恐らくガソリンスタンドだ。新しい車を見つけてもまたガス欠では話にならない」
「そうだね。じゃあ誰かがあの機械の恐竜の気を引いて、他でガソリンを取りに行くってことで」
「余が注意を引こう」
「じゃああたしも……」
「僕が行きますよ」
「あんたフライパンしか持ってないでしょうが」
「あんな奴フライパンで倒してやりますよ」
そう言って遼太郎と神は車を降りる。
「そなたなぜこちらに来た? そなたの装備では確実に死ぬぞ」
「なぜって、そりゃ……」
遼太郎はわからんと首を傾げる神に笑みを返す。
「こっちの方が面白そうだからですよ」
「そうか、そなたとは良い関係が築けそうだ」
「先行きますよ」
遼太郎が駆けだすと、神はその後ろにぴったりとつき、牙だらけの凶悪な口を開き、背中の電極をスパークさせこちらを威嚇する機械竜へと駆けだす。
桃火たちは遼太郎たちと別れガソリンスタンドへ到着していた。
「ガソリン! ガソリンどこ!?」
「あった、これ!」
雪奈がガソリンの入ったポリタンクを見つけると、二人は踵を返して車の元へと戻ろうとする。
だが、突如した銃声とともに足元に弾丸が撃ち込まれる。
二人は動きを止め、ゆっくりと振り返ると、そこには装備が整ったでっぷりとしたプレイヤーがアサルトライフルを片手に近づいてきていた。
「ヌフフフフ、誰かと思えば拙僧が最初に声をかけた女子たちではないかドゥヒン」
「あんたは……」
「オゥフ、動くなであるぞ。銃を置いて手を上げるムフフフフ」
桃火と雪奈は所持していたアサルトライフルを地面に置く。
「なんで撃たないのよ」
「オゥフオゥフ、ストレートな質問キタコレですねムフフフフ。おっと失礼、キタコレなどネット用語が出てしまったドゥフフフフ。拙僧これでも慈悲深いとゲーフレからは有名でして、そちらに抵抗の意思がないのであれば見逃しても良いと思っているのですよドゥフフフフ」
桃火と雪奈はあまりの気持ちの悪さに、顔が引きつる。
「おっと失礼拙僧の自己紹介がまだであったな。拙僧真名を天空院疾風と申す 。しかしながらこのまま、タダで見逃すと言うのはできかねんですがね。今なら特別サービスで拙僧とフレ、フレンドになるだけで見逃してもいいのですよムフー、デュクシデュクシ」
「「えっ……やだ」」
二人の声が完全にシンクロする。
「おっと、ストレートな拒否キタコレ。拙僧の慈悲深さがわからんとは、人生の100割を損していると言っても過言ではゴザらんだろう。ゴザらんなどと、これでは拙僧オタクみたいでゴザルが、決してオタクではござらんよドゥフフフ、フォカポー」
常に気持ちの悪い笑みを浮かべる天空院に、桃火が我慢の限界をきたす。
サブウェポンのハンドガンを即座に抜き、その気持ち悪い顔に弾丸を叩きこんでやろうとするが、桃火の方が先に銃を抜いたはずなのに、天空院が持ちかえたハンドガンで彼女の銃を弾き飛ばす。
「甘い実に甘いですドゥフフフフフ。拙僧近距離のハンドガン勝負で負けたことがないとこのDSO界隈では有名ですので、その拙僧に早抜き勝負を挑んでくるというのは身の程知らずというか若さゆえの過ちというかドゥヒン、これは決してシャアアスナブルの名言から引用しているわけではないですのであしからずドゥフフフフフォヌカポー。ちなみにそちらがなぜ負けたかというと、拙僧の使うハンドガンMX9Aはシングルアクションアーミーであり、そちらのオートマチックAT3Sとは初弾の発射スピードが違い、本来実戦であればAT3Sの方がコンマ数秒早いが、そこはゲーム6連装のMX9Aに多少なりともメリットをつけたというのが開発者の憎い演出でもあり、そのことに気づいている拙僧はやはりこのゲームの玄人と言わざるを--」
天空院が長々と話していると、桃火は対面のビルに何か光るものを見つける。
「やばっ! 雪奈!」
桃火は雪奈の手を引き、背中を向けて走る。
「おっと、これはアグレッシブな逃走であるなドゥフフフフ。拙僧女子を背中から撃つ趣味はないでゴザるが、そちらがそのような強硬な手をとるのであれば--」
天空院が二人の背中に照準をつけると、その時ターンと長い銃声が響き、直後ガソリンスタンドが大爆発を起こしたのだ。
「ひでぶーーーー!」
立ち上るキノコ雲を眺めながらビルの上から舌打ちするものの姿があった。
「チッ、外したか。全く姉さんの目と勘の良さは野生を通り越してニュータイプレベルですね」
「普通あの位置じゃ視認できんはずでゴザルしな」
麒麟はスナイパーライフルのスコープから顔を離して、忌々しいと眉をよせる。
「姫、前にいたあやつは銃を突きつけて何をしてたんでゴザろうな?」
「どうせ直結中ですよ。姉さんと天城さんモテますから」
「ゲーム中によくやるでゴザルな」
「すぐにリアルで会おうとか、女の子とみると気持ち悪いくらい優しくなるけど、なびかないと逆ギレする困った輩でふね」
「それ椎茸殿のことではゴザらんのか?」
「ぼくは直結するけど逆恨みはしないでふよ!」
「直結しないでください。そのうち訴えられますよ。アバター制限のおかげで、リアルの性別を偽れませんからね。前は二人ともアバターいじってデブにしたりして誤魔化してたんですけど、遼太郎さんの前でいいカッコしたいからアバターいじくるのやめたんですよ」
「普通いいカッコしたいならアバターいじくるんでふがね」
「そりゃ姫も負けてられんでゴザルな」
「ほんとですよ、これでも実は胸少し盛って……って何言わせるんですか!」
「もはや秘密ですらないでふ」
三人で話していると、突如ターンと音が響き椎茸の眉間が撃ち抜かれる。
「椎茸さん!?」
「姫、奴まだ生きてるでゴザル!」
「くっそ、相手も長距離武器持ってましたか!」
麒麟と天空院のスナイパー合戦が始まり、両者で長距離戦が繰り広げられる。
「クソ、相手狙いが正確だな。岩城さん走りますよ!」
「了解でゴザル!」




