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&NEW GAME

 会社より三日間の療養休暇を言い渡された遼太郎は、せっかく貰った給料を使い欲しかったゲームハードとソフトを購入し、一人でゲームに明け暮れていた。

 すると玄関のチャイムが鳴り響き、新聞の勧誘だろうかと思いながら外へと出る。

 するとそこには紙袋をぶら下げた桃火の姿があった。


「あれ、桃火ちゃん?」

「その、この前迷惑かけたから……これ」


 手渡されたのは新しい携帯ハード機が三つほど入っていた。


「いいよいいよ、これ結構するでしょ?」


 一つ二万と見て、全て合わせると六万近くする。ぽんと受け取れるようなものではなかった。


「いいのよ、受け取りなさい」

「いや、でも」

「あんたお礼を渡しに来た人がいらないって言われたから、はいそうですかって品物を引っ込めると思ってんの?」

「それは、確かに……」

「プランナーなんだから、話題になってるゲームくらい触らないとダメよ。……じゃあ、あたしはこれで……」

「あっ、桃火ちゃん、その、よかったら入ってく? 何にもないけど」


 玄関の前で一瞬の沈黙後、桃火は小さく頷く。


「……うん」


 本当に何もない部屋で、あるのはストーブとゲーム機、本棚に数冊の本くらいのものである。

 恐らくこの物の少なさは火事によるものなのだろうと察し、桃火は何も言わなかった。


「あんた生活苦しい?」

「ん~、そんなことないよ、給料も貰ってるし」

「あんたインターンって聞いたけど大学どうしてるの?」

「一応在籍はしてるよ。帰ってこいってよく言われるけど。あんまり学校好きじゃないから」

「そうなの? あんたそこそこ友達もいたじゃない」

「ん、そうだね」

「そこそこ楽しそうにやってるように見えたけど」

「桃火ちゃんデリカシーないなー」

「なんでよ?」


 桃火は本当に意味が分からんと首を傾げる。


「だって、あそこは桃火ちゃんと別れた場所なんだよ」

「…………」


 それってつまり、自分と別れたことを今でも悲しいと思ってくれてるってことだろうか? そう思うとカッと頬が赤くなる。


「そ、そうだったわね」

「桃火ちゃんと後四年は一緒にいられると思ってたし、社会に入るまでは大丈夫かなって思ってたんだけど、桃火ちゃん一年の時にもう会社に連れ去られちゃうんだもん。行く意味見失っちゃうよ」

「そ、そう。あたしなんかいなくたって別に」


 ジトっとした目で遼太郎は桃火を見据える。


「ご、ごめん置き去りにして……その、何から何まで……」

「いいよ、僕もそのおかげで頑張ろうって思えたし」


 その時一際強く外で風が吹いた。すると締め切っているはずの部屋に肌寒い風が吹く。


「隙間風やばくない?」

「うん、テープとかいろいろ貼ってはみてるんだけどね、構造がなんかいがんでるみたいでどうしようもないレベルみたい」

「社宅に移りなさいよ。あそこなら綺麗だし」

「う~ん、あんまり家に帰らないからなぁ」

「ここ家賃いくらなの?」

「一万五千円」

「やすっ! 事故物件とかじゃないでしょうね」

「まぁ構造自体が事故みたいな作りしてるからね」

「誰がうまいこと言えっていったのよ」


 再びビューっと冬の冷たい風が吹く。


「さっぶ……あんたこんなとこいたら風邪ひくわよ。外と大してかわんないじゃない」

「う~む、段ボールハウスレベルとここの住人は言ってるから、あながちまちがいでもないね」


 遼太郎は布団をかぶり、途中で中断していた新しいゲームを再開する。


「なにそれ、あんただけずるくない?」

「さすがに僕の使ってた布団を桃火ちゃんに渡すのは抵抗あるよ。ちゃんと洗ってないし」

「そんなの気にしないわよ。寄越しなさいよ」


 桃火は遼太郎の羽織ってる布団をグイグイと引っ張る。


「う~やめてよ桃火ちゃん」

「あたしだって寒いのよ」

「ストーブあげるよ」

「後ろだけ熱くなって前は凍るわよ」

「そこまで酷くないよ。ごめんよ、布団一つしかないんだ」

「だからそれを……あっ、こうしよ」


 桃火は何か思いつくと、そのまま遼太郎の前に座る。


「ほら、一緒にくるんで」

「はい」


 遼太郎は桃火を同じ布団にくるんだ。

 その様子は二人羽織に見えなくもない。


「あーこれでいいわ、あんたの体温でそこそこ温いし」

「桃火ちゃんやる?」


 遼太郎は新しく買って来た対戦格闘ゲームを指さす。


「なにそれ、あたしに格ゲー挑んでくるとか正気?」

「よし、じゃあコントローラー挿して」


 二人は二人羽織スタイルで新しく買って来た格闘ゲームで遊ぶ。


「動きが滑らかよね、今時据え置き機のくせに」

「据え置き機でも面白いものは多いよ」

「あたしからしたら未だVRに移行できない、体力のないゲーム会社って感じだけど」

「こだわりがあるんだよ。それを言ったら未だに携帯ゲームだって需要あるし、ニーズと供給の問題だよ」

「ポジティブね」


 2P WINと画面にでかでかと表示される。既に遼太郎の連敗記録は20を超えていた。


「桃火ちゃん強すぎるよ」

「格ゲーはまぁ超高速じゃんけんだけど、ある程度相手を見切ったら次何出してくるか読めるから、あんたみたいな弱いけど格ゲー好きっていうのは一番カモよ」

「ひどいよ桃火ちゃん」


 クスクスと笑みを浮かべる桃火と項垂れる遼太郎。2人の学生時代での関係が戻って来たようであった。


「そうだ、罰ゲーム決めましょうか。昔対戦するときは大体決めてたでしょ?」

「そうだね、いいけど何にする?」

「そうね、昔なにやってたっけ?」


 そう昔のことを考えて桃火と遼太郎の頭に思い浮かんだのは。


「キスしかしてないよね」

「……そうね、ほんとそれしかしてなかったわよね」

「段々途中で罰ゲームとか関係なくなってたもんね……」

「しょうがないじゃん勝っても負けてもキスだもん。段々めんどくさくなってきちゃうし」


 しかし恋人関係を解消してしまった二人がさすがに罰ゲームでキスというのはよくないだろうと思う。


「他……なんかあったっけ」

「えーっとあれね……おっぱいコントローラー」

「やったね……そんなの」


 ゲームに負けた方はひたすらおっぱいを揉まれながらコンピューター対戦で全勝するという罰ゲームである。主に遼太郎が提案していたもので、逆パターンの場合は桃火のキス攻めに耐えながら同じくコンピューターに全勝するというものもあった。


「さすがにそれはまずいよね……罰ゲームはやめようか」

「いいわよ、それで」

「えっ?」

「おっぱいコントローラーで」

「いや、それはさすがに」

「あたしが勝てばいいんでしょ?」

「それはそうなんだけど、桃火ちゃんが勝ったらどうする?」

「あたしが勝ったら別に何もなしでいいわよ。あたし強いし」

「確かに、桃火ちゃんに勝つのが難しいもんね」

「よし、じゃあかかってきなさい」


 1P WIN!


「…………桃火ちゃん、手抜いたでしょ」

「抜いてないわよ、全力よ」

「接戦ですらなかったじゃん」

「たまたま読みがうまくいかなかっただけよ。ほら、始めなさいよ」

「うわ、男らしい」


 桃火はそのまま後ろの遼太郎にもたれかかると、コントローラーを入れ替えて一人用でCOM対戦を始めてしまう。


「桃火ちゃん……」

「なによ」

「僕が別れたからって遠慮するなんて思ったら大間違いだよ」


 遼太郎は後ろから桃火の胸をすくいあげムニムニと揉みしだく。

 ニットセーターの柔らかな感触とボリュームのある胸の感触がまるで崩れないプリンをこねているようで、いつまででもこうしていたくなる。


「ほんと遠慮なしね」

「…………」

「む、無言で揉むな!」

「ご、ごめん、久しぶりすぎて感動してる」

「そ、そう……あんたこの二年で女の子作らなかったの?」

「桃火ちゃん簡単に言うけど彼女ってそんなポンとできるもんじゃないんだよ」

「それもそうね」


 話しながらも全く手を緩めない遼太郎と、順調にCOMを倒していく桃火。


「AI雑魚すぎない」

「桃火ちゃんが強いっていうのもあるし、強すぎるAIはすぐ心折っちゃうからね」

「雑魚なんか倒して何が楽しいんだか。俺より強い奴に会いに行くんじゃないの?」

「違うよ、最近は俺より弱い奴を倒しにいくだから」

「ただのゲスじゃない。格闘ゲームは確かに敷居高いし、明確に上手い下手がわかっちゃうもんね」

「YOU LOSEって言われたらゲームからお前下手って言われてるのと一緒だしね」

「だからこそWINって言われた時が嬉しいんじゃない。負けが多い方が勝った時楽しいわよ」

「最近のユーザーはそんなにメンタル強くないんだよ」

「用意された階段の上にあるゴールをそのまま登っても楽しくないじゃない。階段になるのかよくわからない棒とかつかって頑張ってゴールに向かうのがゲームじゃないの?」

「人によって楽しみ方はそれぞれだしね、ストーリーだけ見たい人とか、ただ可愛いキャラクターを見てるだけでいいって人もいるしね」

「そんなのゲームじゃなくていいじゃない。確かに昔の2Dゲームってステージをクリアする以外に目的がなかったから、ユーザーの意識はクリアだけに注がれてたけど、今はステージを作ってもステージに入ってくれないユーザーが増えたもんね」

「ゲーム側がステージに入らなくても楽しめる要素を多く作っちゃってるからね」

「アバターの着せ替えとか生活系コンテンツでしょ? 戦闘狂のあたしとしてはそれいる? って感じなんだけどそんなこと言ったら怒られるんでしょうね」

「生活系は誰にも迷惑かけないからね。今のゲームは負けると味方から怒られちゃうの多いし」

「それはオンラインでのユーザー同士の衝突でしょ? 昔の狩場争いとか、高難度レイドボス戦とか。それはもう人間同士がやってるんだから仕方ないわよ、誰だって思考しながらゲームしてるんだから、そこに利益をあげたいって気持ちは絶対存在するはずよ」

「そこを公平にしないと怒られるんだよ」

「しょうがないじゃん月100時間プレイする人と10時間プレイする人だと、絶対100時間の方が資産が多くなるに決まってるじゃん」

「そこの格差をできるだけなくさないとコアとライトで差がつきすぎちゃってやる気をなくしちゃうんだよ」

「知るかそんなもん。ゲームの中にまで民主主義もってくんじゃないわよ」

「ゲームはまぁ資本主義というか時間主義だよね」

「課金がなければ時間最強ね。どんなユーザーだろうと時間さえかければコアユーザーになれるわ。昔あったスマホゲーは時間と課金のある種最強のハイブリットだったけどね」

「あったねー、ガチャ課金。ゲームの闇とも言われてたし」

「あれお金いれたら階段が出てくるやつじゃん」

「そうだね、お金を入れれば入れるほど豪華な階段が出てくる奴だね」

「あれを基準にしちゃうとゲームはお金で解決できるものとかゲームの概念が狂うわよね」

「日本人特有だけどね、あのカード集めに熱中するのは」

「オンラインなんか特にそうだったでしょ、ゲームは無料で当たり前って考えのユーザーが多すぎて。収入なかったらクリエーター全員のたれ死ぬわ」

「他社さんとの競争だしね。すごく良いものを無料でだされると小さい会社はたまらないよね」

「結果クオリティを上げて月額で利益上げるか、開発コストを最小限に抑えてプレイ無料にしてアイテム課金で儲けるかよね」

「でも利益的にはアイテム課金の方が高いんじゃなかったっけ」

「課金に限度がないからね、月額とアイテム課金のハイブリットならまた違うけど、月額は決められた料金以外は払わないって人がほとんどだし。アイテム課金はあんたのところがやらかしたのと同じで、もろ刃の剣よ。ユーザーはより強いアイテムを求めてくるし、それに応えてアイテムを出すとゲームバランスなんか無茶苦茶、結局インフレが始まれば別のところを絞らざるをえないし、結果ゲームの寿命はどんどん短くなってく。それに損益でてもそんな簡単にはサービス終了にはできないし。結果丁寧なゲームを作って固定客を作る月額の方が息は長いし、それにユーザーの質もよくなるわ」

「ユーザーの質?」

「今でもあるけどオンラインのガチャ課金なんてお金払っても望むものでないのよ」

「でもそれはそういうものって理解してガチャを回してるんじゃないの?」

「理解はしてるけど、回して出なかったら納得できないってのはわかるでしょ? そのユーザーは多分一番の目玉装備が欲しいのに、ゴミみたいなアイテム渡されたらなんじゃこりゃってなるでしょ。そんなこと踏まえてガチャなんだけど、何を担保にガチャを回してるかって言えばお金だからね。お金っていうのは明確に今この人ができることっていうのをわかりやすく数字にしたものだから、それが本来できるはずのことより大幅縮小されちゃったら文句が出るのは当り前よ」

「それがユーザーの質を悪くする?」

「ええ、あれはギャンブルに似てるわ。欲しいアイテムが出なかった時の緊張感と出た時の緊張の緩和。あれは確か心理学でも解明されてるはずよ。しかも大当たりの時は特に演出が派手だったりするでしょ、あれも脳に興奮を与えて快感神経を刺激してるの。あれは大当たりすれば嬉しいじゃなくて気持ちいいになっちゃってるのよ」

「なるほど」

「だから泥沼に陥る人とかいっぱい出てきちゃってるの。あれも規制されるまで時間かかったわね」

「そうだね、つい最近だもんね」

「そんなわけで、ガチャ中毒になっちゃった人はでなければ当然イライラするし、そのイライラの矛先はゲームに向かい、ある程度の限界額まで投資しちゃったユーザーは面白くないけど投資した分続けないとって思ったり、緊張の糸が切れてやめちゃったりする。そこでプレイヤーは今までの時間とお金に納得がいってない分強力なアンチとなって再び降臨するわけ。商業としてはよくできたシステムだと思うけどね、回すごとにパーセンテージ上げたりして射幸心をうまく煽ってる。本当にパーセンテージ上げてるのか、そもそも表示されてるパーセンテージが本当かもわからないところが詐欺っぽいけど。お金を落とすシステムだけはきっちり練られてるし。真似しちゃダメだけど見習うところはあるわ」

「なんか本筋からそれてるような気がするけど」

「ごめん、まぁそんなわけでユーザーが払った分のお金をゲーム会社がちゃんとリターンしないと、ユーザーさんは凶暴化しちゃうわけ。よくユーザーさんに噛みつかれますって他社から聞くけど、言っちゃ悪いけど自業自得って感じよ。あんたもたまに見るでしょ、そんな大したミスでもないのに異常なまでに炎上してるゲームとか」

「あるね。しかも無料ゲーだと、誰にでもできちゃうもんね」

「そ、月額だとそういったゲームは無料で当たり前と思ってるユーザーを弾いてくれるし、つまらなければ課金をやめればいいだけ。そこまで熱狂的なアンチはつきにくい。それに今お金を払って遊んでる人は楽しんでるってことだから、言い方悪いけど信者がいっぱいついてるからアンチをアンチだって言って追放してくれるのよ。自浄作用って言ったりもするけど。逆にアンチの言葉に説得力が出始めたらそのゲームは大分やばいわね」

「なるほどねぇ」

「まぁこれだけわかっててもゲーム作りっていくつもトラブルが起きるから、開発が間延びして開発費を銀行にすぐに戻さなきゃいけなかったりでお金作る必要があったり、上の突然の方向転換でダメな方向に進んで行っちゃったりするから難しいものよ」


 この会話をいてる間、全く手を止めなかった遼太郎と、COMにわざと負けるのを繰り返した桃火はすでに10回目のラストCOM戦をしていた。


「桃火ちゃんそろそろ勝ったら?」

「嫌よ、勝ったら終わるじゃない」

「やめないよ!」

「なんでそこ力強いのよ……ま、いいわ少し眠くなってきたから、そのまま触ってていいから目つむらせて」


 そう言って桃火はコントローラーを置いて目を閉じた。


「ねぇ遼太郎、昔もこんなゲーム談義よくしたわね」

「昔って言っても二年前だよ」

「そうね……またできると思ってなかったから」

「僕もだよ……」

「遼太郎……」

「なに?」

「ごめんね……思い出壊しちゃって」


 二人の頭の中には高校時代、電脳遊戯研究会で、ゲームをしながらゲームについての話に花を咲かせる姿が思いだされていた。

 それは二人にとって何よりも大事にしたい純粋なユーザーであった時の記憶。

 過去に戻ることはできない。彼と彼女には作り出すことしかできず、あの頃の純粋な気持ちにはもう戻ることが出来ない。

 それは二人の関係も同じ。新しい思い出と感情を作って二人はもう一度恋に落ちるしか関係は元に戻らないのだ。

 桃火は遼太郎の腕の中ならきっといい夢が見れるだろうと思ったが、デフォルメされた雪奈と麒麟に鎖をつけられて引きずられていく遼太郎を自分が必死に追いかけていく夢を見て、そんなに世の中甘くないと思うのだった。



桃火編   了

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