ウィッチ
岩城が興奮している間に、遼太郎の目の前からほとんどのユーザーはログアウトしていった。
「ご協力ありがとうございます!」
遼太郎の前からまた一人、また一人と消えていく。残るはギルドリーダーと、もう一組のギルドだけだ。
「まぁ、せいぜい期待させてもらうぜ」
「裏切ったら八つ裂きネ」
「戻ったら終わるまで昼寝じゃ」
「新型の動いているところを見てみたかったですわ」
「そ、それはまたゲーム内で」
言えない。今回のパッチではまだAI積んでなくて顔見せのイベントしかないってことが。
「皆様の期待に沿えるよう……」
遼太郎が声を上げた瞬間、突如爆発音が響く。
「なんだ!?」
「こちらはメタルビースト運営です。あなたたちをハッキングの主犯格として拘束します」
「な、なに言ってるんですか」
突如攻撃を始めたデスバットを見つけ、せっかく穏便に全員がログアウトしてくれそうだったのにと遼太郎は憤る。
「こちらはメタルビースト運営。あなたたちをハッキングの主犯格として拘束し警察へ通報します」
「なんだ、しかもこの合成っぽい声は」
「なんネ。もう早速手のひらがえしアルか」
「そりゃミーたちがやったことはいけないことだから、最悪アカバンくらいは覚悟してたけどよ」
「おんし、言ってることとやってることが違うのではないか?」
「信じてくれといいながら拘束とは少し姑息ではありませんか?」
「違います! 誰ですあなたは!? あんな人運営にはいない!」
「でも機体IDは運営が使用するものですわ」
「それにこの字幕と音声同時に出すのって運営しかできなネ。お前またたばかったか?」
「違います! こちらメタルビースト運営です。そちらのデスバットのユーザーさん、あなたがやっていることはユーザーを混乱させているだけです。ただちにログアウトしてください!」
だがデスバットは攻撃をやめず、各ギルドリーダーに攻撃をしかけていく。
「ふん、やめろ言いながら銃を撃つ日本人のやりそうなことネ」
「ほんとに上っ面と中身が違う生き物ですわね」
「違います!」
「ならあの攻撃してきてる奴をどうにかしたらどうなんじゃ」
そうしたいのは山々だがフロストタイガーを離すわけにもいかず。更に攻撃を受け被弾しているメタルウイングがまともに戦うことは難しかった。
しかも、よくないことは続く。
「やーはーり、本性をあらわしおったなこのクソ運営は!」
「間抜けなギルドリーダーどもと違い我ら地獄兄弟、もといギルドアウトローの目は騙せはせんぞ!」
うわ、地獄兄弟だ。めんどくさい奴らがでてきたと遼太郎は顔を引きつらせる。
「愚鈍なるギルドリーダーがやらぬと言うのなら、我ら地獄兄弟がその忌まわしき新型を屠ってくれるわ!」
「ゆくぞ、我らが地獄ギルドよ! 奴を討ち取るのであーる!」
地獄兄弟は再びアカウントを取得してゲームをやり直しているようでバズーカスパイダーとグレネードアリゲーターのレベルは以前と比べてかなり低い。
しかし同型の機体が次々に襲い掛かってくる。
更にデスバットまでもが攻撃をしてくるのだった。
「まずい、もう耐久度が……」
メタルウイングのクローがもうボロボロで、いつフロストタイガーが落下してしまってもおかしくない状況だった。
「この機体だけは絶対に守り通さなきゃいけないんだ!」
しかしメタルウイングにバズーカスパイダーの放った巨大なミサイルが迫る。
「直撃する!?」
即座に操縦桿を引き、スロットルレバーとアクセルを全開にするが、フロストタイガーの重量とウイングの破損によって出力が上がらない。
だがその時、目の前を小さな小さなワシが旋回している。
「レ、レイヴン!? なんで、実装はまだ先なのに!?」
レイヴンは雄々しく鳴き声を上げると、流星のようにその身を光らせ天高く舞い上がり、メタルウイングへと融合を果たす。
その瞬間、メタルウイングの全ステータスが回復し、破損した箇所が全て修復される。更にバーニアが通常の比ではないほどの炎を上げる。
「な、なんネ、あれは……」
「まさか、あれが新しい力なのか?」
突如出力が爆発的に増加したメタルウイングは全ての攻撃をかわし、ミサイルを撃ち落とす。
今ならあの地獄兄弟を撃つことができる。しかしそれは躊躇われた。遼太郎からすればどんなユーザーでも大切にしたいものであり、その手にかけていいのかと判断を迷わせたのだ。
だが、突然聞いたことのない声がコクピットに響いた。
「機体を下ろせ」
「えっ?」
通信ウインドウには、髪の長い眼帯をつけた美しい女性が映し出されている。確かこれは第一開発のリーダーのはずと思う。驚くべきことにこの通信は自分が今掴んでいるフロストタイガーから発信されていることに気づく。
「危険です。フロストタイガーにはAIもマニュアル操作も積んでないんです」
そう今のフロストタイガーはただのハリボテなのだ。それを落とせばどうなるかは言わずもがなだ。
「構わん下ろせ」
「ぼ、僕が構いますよ!」
「うるさい奴だ」
玲音がウインドウ越しに何かをいじっている。すると突如メタルウイングのクローが解放されフロストタイガーは海へと落下したのだ。
「なっ!?」
メタルウイングは即座に下降するが、低空を飛行していたのがあだになった。向こうが着水する方が早い。
だが、遼太郎の目は驚愕に見開かれる。
なぜならフロストタイガーが起動し、眼下の海を全て凍らせながら悠々と、まるで氷の王者のように歩き出したからだ。
「な、なんで!? フロストタイガーに操作系統はつまれてないはずなのに!」
そう叫ぶと、通信ウインドウが目の前に開き、岩城の姿が映し出される。
「無事でゴザルか平山氏」
「は、はい。でもフロストタイガーが!?」
「心配無用でゴザル。あれには魔女が乗ってるでゴザルから」
「えっ?」
約10分前、開発室は迫田が消えた後、突如データセンターが解放され困惑していた。
「データセンターが解放されてまたユーザーが流入しています!」
「なんで!?」
「絶対迫田の野郎だ、あいつユーザーデータが触れなくなったからデーターセンターを復活させやがった」
「データセンターをもう一度落として下さい!」
「ダメでゴザル、マスター権限パスワードが設定されてるでゴザル!」
「待ってください、今私がパスワードを割り出します!」
麒麟はすぐさまパソコンから人様には言えない解析ツールを使用しようとする。だが、玲音が一歩前に出る。
「どけ麒麟。遅い」
「ね、姉さん」
「データセンターの電源を落とせ」
「で、電源でゴザルか? し、しかしさすがに電源はハード障害を引き起こす可能性が」
「ダウンだ」
「ほ、本気でゴザルか」
「早くしろ」
「はいでゴザル」
データセンターはシステム的なシャットダウンを待たず唐突に電源を切られ、今ログインしてきたユーザーは唐突に虹色の砂嵐に襲われ、しばらくすると回線がシャットダウンされましたとヘッドギアに表示されていた。誰もが思ったはずだ。今かなりやばい落ち方したぞ……と。
しかしそのことが呼び水となり、迫田とは別の全世界のハッカーたちがグッドゲームズカンパニーの自社サーバーを攻撃し始めたのだった。
本社のサーバーが過重負荷により悲鳴を上げていく。
「や、やばいでふ、全世界のハッカーたちが締め出されたと思って腹いせにこっちを攻撃してるでふ!」
「おいクソメガネ、私が渡したセキュリティはどうした」
「す、すでに組み込み済みでゴザル」
「なら展開しろ」
「し、しかしこのセキュリティはかなり危険でゴザル。最悪アタックを仕掛けてるパソコンやVR機器が壊れ」
「何を加害者の心配をしている。奴らはただの犯罪者だ。何もしないからつけあがる。そのセキュリティは攻撃をそのままバックするだけのカウンタープログラムだ。自分の行いが自分に返って来るだけの良心的なシステムだ」
「し、しかし」
「やれ」
玲音の絶対零度の瞳に負け、セキュリティプログラムが展開される。直後サーバーの全機能が復旧した。
「クククク今頃自分のパソコンから煙が出て泡吹いてるバカたちが世界中にごまんといると考えると笑えてくるな」
「だ、大丈夫でゴザルかこれ。起訴にならないでゴザルか……」
「ふん、起訴になったとして私が負けるわけがない。かかってきても構わんが、そのかわりその分の賠償はしてもらう。そうだな、見せしめに何人か殺しておくか……」
「こ、怖いでふ……」
「一切の躊躇と、手心が一つもないでゴザル」
「ぼ、ボク第三で良かったと心から思ったかもしれないでふ」
「おいクソメガネ、あれは動くのか?」
玲音は地獄兄弟から攻撃を受けているメタルウイングとフロストタイガーを指さす。
「動かないでゴザル。あれには操縦系統もAIも積まれてないでゴザルよ」
「コクピットはあるのか?」
「それはあるでゴザルが。OSがないのと一緒で、ただのシートでゴザルよ」
「そうか」
そう言って玲音はヘッドギアを頭に被った。
「姉さん何する気?」
「ガキの遊びにこれ以上付き合ってられんのだ。クソメガネ。私をコクピットに送り込め」
「えっ、いや……」
「早くしろ」
「は、はいでゴザル」
「私がコクピットに入ったら機体を社内LANから私のシステムにつなげ」
「りょ、了解!」
そして玲音はVR装置を起動した。
「フロストタイガー出撃るぞ」




