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グッドゲームクリエーター~VRゲームとらぶる開発記~  作者: ありんす
1stG グッドゲームクリエーター編
20/82

新人企画マンはお金がないⅡ

 まずい、非常にまずい。この会社はほぼ玲音が作り上げたといっても過言ではない。

 今時四つも開発室を作り三本も太いラインを走らせ、デザイナーもシナリオも外注せずに自社で作り上げるほどの力をもった会社だ。

 玲音はそのことにプライドを持っているし、開発をしやすい環境を作り上げた存在だ。

 しかしこの件はタチが悪い。傍から見ればあそこの企業インターンの学生を給料無しでこき使ってるんですよ、しかもメインのプランナーは逃げたらしいですよ、どこもやってることは一緒ですね。なんて主婦の井戸端会議みたいな噂が広まって見ろ、この会社の看板に傷がつく。

 今の時代些細な傷もあっという間に拡散し、たちまち大きな傷になりえる。そんなことになれば玲音の顔に泥を塗るのと同義。

 ただ玲音はそれよりも道義にこだわる。仕事には必ず見返りを与えるのが会社の義務であり、それを大企業であるウチが放棄しているという事実が許せない。

 恐らく今回の話は最初で最後の最終通告。玲音の呼び出した本当の意味は[お前らがこれ以上無給で使うつもりなら、あいつクビにするぞ?]ということである。

 まずいまずいまずい、これは知らなかったではすまされない。

 それに何より、最近遼太郎の顔色が優れないのは知っていた。多分ただの寝不足だろうと思っていたが、なぜそこで疑問をそのまま放置したのか、麒麟はその時の自分をひっぱたいてやりたい気分であった。


 第三開発室に戻ると、麒麟は急いで平山のフォルダを漁り中から勤怠表を発見する。

 中を開いて麒麟は絶句し、顔を覆った。

 こんなの労基に見せられるわけがない。


「この人、開発始まってから帰ってない……」


 月に何度かは帰っているがこれは恐らく着替えによるものだろう。確かに会社にはシャワー室も仮眠室もあるが、この勤怠表はマジもんのブラック企業のそれである。

 泊まり込むことはあれど、週の何度かは帰っているだろうと思っていた。確かに彼が麒麟より早く帰るのは見たことがない。しかしそれはリーダーである自分が早く帰らないと、下の開発者たちが帰れないからと思っての麒麟なりの配慮だった。しかしそれが完全に裏目に出ている。

 麒麟がしばらく茫然としていると隣から高畑と岩城の声が聞こえる。


「平山ちゃん大丈夫っすかね。だからおにぎりだけじゃ体崩すって言ってたんすけど」

「あの休憩室の冷蔵庫に入ってるおにぎりでゴザろう? 管理課から衛生面で苦情がきてるでゴザるから、確かにやめさせた方がいいでゴザルな」

「おに……ぎり」


 麒麟は高畑の前のデスクをダンっと勢いよく叩く。


「な、どうしたんすか?」

「平山さんって第四にいた時お昼ごはんどうされてたんですか!?」


 麒麟の鬼気迫る表情に高畑は気圧される。


「え、え~と確かお弁当作ってきてたんじゃないかな。あの時は家帰れてたんで。ただ平山ちゃん結構家計苦しいですって言ってたんで、まぁもしかしたらそれもあるかもっすけど」

「やっばい……」


 麒麟はへなっと腰から砕けた。

 完全にゲーム開発が原因で生活レベル落とすことになってるんだと気づいたからだ。


「まずいまずいまずいまずい、どうしようどうしようどうしよう」

「ど、どうしたでゴザルか姫。平山氏が何かやらかしたでゴザルか?」

「やらかしたのはこっちです!! 矢島さん、私今日早退します、後よろしくお願いします!」

「えっ、まだ朝礼も始まってませんよ!?」


 麒麟はコートを羽織って勢いよく開発室を出ていく。


「最悪だ、こんなのリーダー失格どころじゃないですよ。人の生活壊してることに半年も気づいていないなんて!」


 すぐさま遼太郎の自宅に向かおうと思ったのだが、姉の言葉が引っかかる。遼太郎のところに行ってすることはなんだ。謝罪するのか? 今まで無給の無休でこき使って二つの意味でごめんなさいって。

 そんな言葉だけの謝罪姉が一番嫌うところであり、恐らく遼太郎が怒ることはないだろう。

 だが、それでは何の解決にもなっていない。

 麒麟はエレベーターの下行のボタンを取り消し、上へのボタンを押す。

 しかしなかなか来ないエレベーターに苛立ち、しまいにはダッシュで階段を上り始めたのだ。


 十分後エレベーター待てばよかったとゼェゼェ息を切らしながら麒麟が睨む先には社長室と書かれている。

 バンっと大きな音が鳴り響き、中でゴルフのスイングをしていた社長の真田鉄也が振り返る。


「おぉどうしたのか麒麟よ? ワシと一緒にゴルフでもやる?」

「やりません。パパにお願いがあってやってきました」

「フハハハ、ワシはお前のお願いに弱いからのぉ」


 鉄也がゴルフクラブをスイングすると、クラブから「ナイスショット」と機械音声が流れる。


「パパ!」


 ダンッと豪華だが、あまり使われていない社長卓を叩き、娘の目が血走っていることに気づいた鉄也は、お、おぉと後ずさりながらゴルフクラブを捨てる。


「平山さんを社員にしてください! それと今まで払っていなかった給与をまとめて支払って下さい!」

「どうしたのだ、いきなり?」


 鉄也は困惑しながらも麒麟の話を聞く。


「それは無理だ、いくら麒麟の頼みであっても」

「どうしてですか!?」

「そもそもそ奴はインターンの学生、ウチのインターンは交通費しかでないことになっておる。学生は無給で働き現場の技術を吸収させてもらい、就職の際に役立てる。現場は技術を教えて、見込みがあるようであれば雇用に踏み切る。お互いそういう契約で就業しているわけだ。それを途中で変更することはできん」

「それは本人とのやり取りなんですか?」

「それは彼の通ってる学校とだが」

「じゃあウチがかえても問題ないじゃないですか」

「しかしだな、学校側が在学中の就業を認めておらんのだ」

「どうしてです。就業先に早く就職できるならそれに越したことはないでしょう」

「麒麟よ、学校とはな学費を貰って運営しておるから、学校の意義がなくなることは極力避けたいのだ。企業が実力だけを見て雇用していけば皆別に学校行かなくても、直接企業に就職してしまえばいいのではないか? と思ってしまうだろう。それに企業が若いのを学校から引っ張って行ったら、どんどん青田狩りになって就業年齢の若年化が進むことになる。もし仮に大学三年で就業してしまえば、残り一年の学費はどうなる? もう就職が決まった学生は支払わず、学校を辞めてしまうものだって出てくるやもしれん」

「そんなの学校側の都合でしょう! 本人の為を思えば早くに送り出した方が絶対に得です」

「それはあくまでお前の意見でしかない。誰もがそう思っていても、彼は誰のおかげでここにインターンで来れておるのだ? 学校の肩書であろう? わずらわしくなったからって学校を切り離すことはできん。それは麒麟のせいではなくて、あ奴がそういうしがらみにとらわれてるだけだからお前が気にする必要は全くない」

「それでも、給料出てないと気づかずに開発の中心に組み込んだのは私のミスです!」

「まぁそういうこともあるとそ奴には悪いが、教訓として生かさせてもらえばいい。麒麟はこういった特殊な人事の経験がなかったんだから。ミスというのはどんな人間でも存在する」

「仕方ないですむんですか!? 人一人の時間をこれだけ企業が食いつぶし、運営の基盤となる分野に貢献しもらった人に対して知らなかったから仕方ない、給料でないけどミスだから仕方ないって。それがこれだけ大きな企業で通るんですか!?」


 鉄也は麒麟の目に涙がたまっていることに気づき、彼女の責任感の強さに困り果てる。


「玲音姉さんが言っていました。私はこの会社をブラックにしたつもりはないと」

「案ずるな麒麟よ、例え奴が労基に駆け込んだところで所詮は学生の言い分。封殺することなんて簡た……」


 麒麟は強く、とても強く、机をたたき割る勢いで叩く。


「パパ、……怒りますよ」

「む、むぅ……」

「使いたくなかった手ですが……パパこれ以上ブラック企業の社長みたいなこと言うのでしたら、私……」


 鬼気迫った表情に鉄也はごくりと生唾を飲み込む。


「パパのこと嫌いになりますよ」

「認めよう彼の就業を」


 鉄也は麒麟のリーサルウェポンで一瞬で折れた。

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