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グッドゲームクリエーター~VRゲームとらぶる開発記~  作者: ありんす
1stG グッドゲームクリエーター編
2/82

メタルビースト

「さっきまでの私服がいきなりパイロットスーツになるとコスプレ臭が凄いですね」

「オフゲなら好きにいじくれるんですけどね、オンゲじゃしょうがないです。オンゲのアバター機能は法律で制限されてますし、アバターで顔が見えないと平気で他のプレイヤーを中傷する人が増えるので。そのかわりある程度太い人をスリムにしたり、細い人を筋肉質にするくらいのエディットはできますよ」

「なるほど。オフ会で出会うと実は憧れの姫ちゃんがピザだったってオチですね」

「顔はあまりいじれないんで、痩せれば美人になるってことですよ」

「あの、人が誰もいないんですが過疎ってるんですか?」


 過疎ってるという言葉に麒麟はむっとする。


「ここは開発サーバーだから人はいないんです」

「なるほど」

「そんじゃ適当に乗り込んでください」

「えっ?」

「ここ本当はナビゲートしてくれるNPCがいるんですけど、私がいるんでカットしました」

「その、乗り込むというのは?」


 そこに並んでるでしょう? と指をさす。その先には見た目の違う人型の巨大ロボットが何体か並んでいる。


「どれも初期段階で性能に大差ありませんが。アタッカー、ディフェンダー、SJと別れているのでそこだけ注意してください」


 全くそれ以外の説明をしてくれない麒麟であったが、長年ゲームをプレイしている遼太郎である、恐らくアタッカーは攻撃主体の機体で、ディフェンダーは防御であることはわかったがSJが何かわからなかった。


「あの、SJとはなんですか?」

「あぁすみません、ウチのゲームの造語なんで。サポート&ジャマーの略で主に支援機です。MMOならバッファーなどで呼ばれる機体ですね」

「なるほど」


 どうやら味方の能力を強化したり、敵を妨害することができる機体のようだ。


「機体のカスタマイズもできるんですが、まだ後のパートなんで。見た目で選んで結構です」

「わかりました」


 言われて遼太郎は大きな機械の羽を背中につけた鳥をモチーフにした機体を選択する。


「メタルウイングですか。ディフェンダーですね。敵の攻撃を背中のウイングで防御することができます」

「強そうですね」

「……アタッカーの方が強いですよ」

「いえ、これでいいです。いえ、これがいいです」


 遼太郎はメタルウイングの胸部にあるコクピットに座ると、中は意外にもシンプルで左右に操縦桿が一本ずつとAT車みたいなギアレバー、フットペダルにレーダーらしきサブウインドウ、0~9までの数字の書かれたボタンが右の操縦桿脇についているくらいだ。

 右側の操縦桿の親指が当たる位置に指と同じサイズのジョイスティックと〇、×、□、△の基本四ボタン、人差し指の位置にR1R2と刻印がされた二つのトリガーがある。

 左側の操縦桿は右とほとんど同じだが、〇、×、△の基本ボタンはなく、かわりに上、下、左、右のボタンがついている。

 どうやらこの二本のスティックでコントローラー一つ分の役割を果たしているようだ。

 戦闘機のようなゴテゴテとしたものを想像していたがすっきりとしたデザインになっている。

 遼太郎はよしと意気込んで、何も考えずにギアレバーを全開にした。

 その瞬間機体の背面ブースターが火を吹き、盛大に吹っ飛んで壁に激突する。


「なにやってんですか。あなた全く説明書見ずにゲームをプレイする方でしょ」


 目の前に通信モニターが開き、呆れた表情の麒麟の顔が映る。


「真田さんは説明書熟読するタイプっぽいですね。思いのほかスピードが出たので驚きました」

「ちゃんとヘルプが出てるでしょ?」


 確かに目の前のモニターには、スティックを握りスロットルレバーを1に設定しましょう。左側のスティックで頭部カメラを動かせますと大きくイラスト付きで解説されている。


「ほんとあなたみたいな人がいるから機体が動かないっていきなりサポートコール鳴らしてきたりするんですよ」

「はは、さすがにそこまでクレイジーじゃないですよ」

「どうだか、ヘルプ作ってるUI班が泣きますよ」

 

 ハンガーから麒麟の乗った真っ赤なモノアイの機体が動き出す。

 脚部に馬の蹄のようなものがついているのと、肩に一角獣の角が見える。恐らくユニコーンをモチーフにした機体なのだろうが、遼太郎には某有名アニメのライバル機にしか見えなかった。


「なんですかそれ、シャアザヌですか?」

「いちいちガンニョムに紐づけるのやめてください。ロボゲー作るとすぐガンニョムだマゾンガーだ、ゲッピーだって言われるんですよ」

「それは機体の差別化が出来てないのでは?」

「デザイナーにそのまま伝えておきます。新人が生意気言ってるって」

「すみません勘弁してください。でも角、赤、モノアイはやっちゃダメでしょう」

「そうですね、カラーリングくらいはデザイナーと相談します」

「あの、これどうやっておこすんですか?」

「右操縦桿スティックを引きながらペダルを踏みこんでください」

「了解」


 遼太郎は操縦桿を引きながらペダルを思いっきり踏み込んだ。

 すると背面のブースターが炎を上げ、後ろ向きに麒麟の機体に突っ込むと二機はまとめて格納庫の壁へと激突する。

 衝撃で二人の体は大きく揺さぶられる。


「何やってんですか! 」

「あれ、おかしいな」

「おかしいのは貴方です。いきなりこんな下手な人初めてみました」

「いやはやお恥ずかしいかぎりです」

「褒めてませんよ、なんで照れてるんです」


 二人はやっとの思いで格納庫から出ると、外は見晴らしの良い草原地帯になっており風が静かに吹いている。


「チュートリアルステージで特にギミックもありませんから」

「了解です、それでどうすればいいんですか?」


 答えが返って来るよりも早くセンサーがけたたましい音を上げる。


「敵ですね」

「はい、最初の雑魚なんで適当に倒してください」


 見ると虫の形をした多足型のロボットがわらわらとこちらに向かってくる。

 遼太郎が三角ボタンを押すとメタルウイングの武装がライフルに切り替わったので適当にそれを乱射する。

 するとドッカンドッカンと虫型ロボットは爆発し派手な炎が上がる。


「適当にやってるだけなのに爽快感がありますね」

「でしょう、爆発の効果や射撃の重さの調整なんかは時間をとってますから」


 麒麟は我が子が褒められたように上機嫌になった。

 一通り雑魚敵を倒し終わると、モニターに警告と書かれた帯が流れると共にアラームが鳴り響く。


「チュートリアルのボスですよ。頑張って倒してください」

「あの、操作説明らしきもの一切されてないんですが」

「大丈夫です、直感的に操作できるようにしてますから」


 確かに麒麟の言う通り、移動には少々癖があるものの目の前の光ったボタンを押したりトリガーを引くだけでも気持ちよく戦うことができる。

 機体のアイカメラが自動で動くと、ボスである機体が降下してくる。それは自機と同じメタルウイングであった。

 遼太郎はライフルを装備して対峙する。


「ビビらなくても大丈夫ですよ、そいつ強くないんで」

「そうなんですか?」


 遼太郎は適当にライフルを連射すると回避行動はするものの確かに動きが大分遅い。


「そいつルーチンがあってHP半分切ったら射撃攻撃当たらなくなるんで、格闘攻撃に切り替えてください。ほんとはこれナビゲーターが言ってくれるんですが、かわりです」

「わかりました」


 ライフルでちまちまとHPを削った後、メタルウイングはブレードに持ち替え、敵のメタルウイングへと迫る。

 遼太郎はガチャ押しだったが、機体は流れるように動き、連続攻撃まで勝手に決めてくれる。

 これは初心者に優しいと思うのだった。

 敵のHPが二割をきったくらいで今度は格闘攻撃も当たらなくなった。


「当たらないんですが」

「はい、それじゃあ操縦桿の脇にテンキーがありますよね?」


 言われてみると、そこには0から9までの数字が書かれたボタンがある。


「そこに9999と入れて下さい」


 遼太郎は言われた通り9を四つ入力すると機械音声が鳴り響く。


[FINAL ATTACK STANDBY]


「おっ? おっ?」

「はい、トリガー引いて」


 言われるままトリガーを引くと、装備していたブレードが光り輝き、勝手に敵をロックし派手なエフェクトと共に真っ二つに切り裂いてくれた。

 敵のメタルウイングはそのまま爆散する。


「メタルウイングの必殺攻撃飛翔斬です」

「おぉ、なんかわからんが凄かったです」

「これでチュートリアルは終わりです。大体ステージは雑魚戦からボス戦の流れで、一回約十分から十五分くらいのステージ戦闘で終わります。それが終わるとリザルトで経験値や資金、敵から鹵獲したパーツなどが表示され、自身を強化していくゲームです」

「う~む凄い」

「今回は出てきませんでしたが、コードをかえることによってメタルウイングはイーグル形態へと変形することができます」

「獣形態になれるのは全機共通ですよね?」

「ええ、メタルビーストの代名詞とも言えるビースト形態です。私のレッドホーンでしたらユニコーン形態へと変形することができます。また人型の形態をアサルトフォームと呼んでいます」

「なるほど」


 遼太郎はこれほどまでにリアルなロボット戦闘が出来るとは思っておらず、感動を覚えていた。

 正しく男の子の夢の体現と言っても過言ではないのではなかろうか。


「じゃあ一回ログアウトして下さい」

「わかりました」


 遼太郎と麒麟はログアウトすると、ゲームの格納庫画面から開発室へと戻ってくる。


「どうでした?」

「いや、凄かった。感動しました、ちょっと泣きそうです」

「えっ、なんで」

「正直VRってあんまり好きじゃなかったんですよ。ゲーム本来の楽しみが、視覚的体感的要素によって誤魔化されてるような気がして。でもこのゲームをやって痛感しました、これほど新鮮なゲームとは面白いのかと」

「なんか魚みたいな言い方しますね」

「すみません。やっぱり新しいって絶対面白いはずなんですよ。初めて触る経験って自分の中に知識がないので、そこを思考し良い道を導き出すのって楽しいんですよ。後から自分の趣向がついてきて、最終的な評価が確定しますけど、絶対にやってる間は楽しいはずなんですよ。このゲームにはそれがつまってました」

「でもそれってつまり新しいゲームならなんでも面白いってことですよね?」

「初めてのゲームは面白いですよ。ただ初めてのジャンルって多分もうプレイするのって難しいですよね?」

「確かに」

「でも、このメタルビーストはアクションゲームという名前をしていながらも、もはや別物です。体感シミュレーション、いやゲームのキャラクターの一員になっていることからロールプレイングといってもいいかもしれないです。このゲームは見事に世界を一つ作り上げ、プレイヤーを単純な操作でヒーローにすることに成功している。これはある種の快感と言ってもいいです。このゲームは素晴らしい、先ほど違うゲームで例えたことを謝ります。これは全く別次元のものです。過去に横スクロールをワリオゲー、ゾンビホラーをバイオゲーなどの言葉が生み出されたのと同じくメタルビーストというジャンルが新たに確立されたと言ってもおかしくないと思います!」


 麒麟に熱く語った遼太郎だったが、唐突に我に返る。


「す、すみません。産みの親に対して快感がどうとか言い出しまして、お恥ずかしいです」

「いえ、思ってたより使えそうだなと思いました」

「は、はぁ……」


 今のでなぜ? と思う遼太郎だったが、麒麟は先ほどとかわり上機嫌なようだったのでそのままにしておくことにした。

※オンゲ→オンラインゲーム


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