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グッドゲームクリエーター~VRゲームとらぶる開発記~  作者: ありんす
1stG グッドゲームクリエーター編
14/82

天城雪奈

 遼太郎は急いで雪奈が作業しているフロアへと入る。


「確かここのどこかに天城さん専用の個室があるって……」


 見渡す限り使用されていそうな部屋は一つしかなく、遼太郎は唯一扉が閉じられた部屋をそろりそろりと開く。


「あのぉ、すみませんわたくし第二開発の平山と申します」


 自己紹介をしながらゆっくりと部屋の中に入って行く。

 部屋の中は一人用の個室で、どうやらここは仮眠室を天城雪奈専用に作り替えた場所らしい。

 奥に進むと、明かりがついておらず薄暗い。さらに床には散らばった紙束やゴミが散乱している。

 見ると机の上で液晶タブレットを前にしながら固まっている雪奈の姿があった。


「あの……大丈夫ですか?」


 雪奈は無反応だ。いつもの凛としていながらも飄々としている雰囲気はない。

 かなり近づいてきて、ようやく雪奈が遼太郎に気づく。


「やぁ平山君、前のゲーム以来だね。すまないがちょっと煮詰まっててね。悪いんだけど一人にしてくれないだろうか」

「すみません、少しだけお話いいですか?」

「……仕事の話だよね」

「ええ、そうなんです」

「…………」


 話しかけようとしたが完全に反応がなくなり、不安になった遼太郎は近づいてく。


「大丈夫ですか? 大分お疲れみたいなんで一旦仕事やめて休憩にした方が……」


 仕事と聞いて、張り詰めていた雪奈の中の何かがキレる。


「一人にしてっていってるじゃない! 仕事ならしてるよ!!」


 頭に血が上った雪奈は大きな液晶タブレットを遼太郎に向かって投げつける。

 USBのコードが引っかかり、デスクの上に乗っていたPCが転がり落ちる。

 遼太郎の予想していたよりよっぽど不安定な状況のようだ。


「ハァハァハァハァハァハァハァ」

「すみません、まず落ち着きましょう。深呼吸しましょう、スーハースーハー」


 遼太郎は焦りながらもなんとか雪奈をなだめようとする。

 だが、雪奈は椅子の上で膝を抱いて固まってしまった。


「ごめんね。ボク少し不安定なとこあって、うまくいかないとこうやってキレて当たっちゃうことがあるんだ……だから個室で作業してるんだよ。あんまりこんなことないんだけどね……」


 雪奈は冷静さを取り戻し、今度は自己嫌悪の迷路に陥っているようだ。


「大丈夫です落ち着きましょう。大丈夫大丈夫ですよ。一旦休憩にしましょう。疲れてるといいアイデアも浮かびませんから」


 雪奈はそのまま固まってしまっているので、遼太郎は仕方なくおっかなびっくりしながら肩を叩く。


「だ、大丈夫ですか?」

「…………」


 全く反応がない。恐らくとても繊細な人なのだろう。もしかしたら昨日聞いていた、あの迫田とのやり取りは雪奈だったのかもしれないと気づく。


「少しだけ休みましょうね」


 遼太郎は雪奈の膝と背中に腕を差し入れ、そのままお姫様抱っこで仮眠用のベッドに寝かせる。


「何か食べた方が良さそうだな……」


 遼太郎はコンビニまで全力ダッシュしてサンドイッチと牛乳を買って、また戻る。


「天城さんご飯買って来たんで食べて下さい」

「…………」


 やはり反応はない。仕方ないので遼太郎は雪奈が散らかした部屋を片付けていく。

 その中で丸められた紙を開くと、可愛らしい女の子のイラストが描かれていた。


「うわ、うま……」


 これほど上手いのに一体何がダメなのだろうか。

 恐らく何かが気に入らなかったのだろうが、それを遼太郎が察することはできない。

 完全に部屋が綺麗になった頃、雪奈はもそもそと起き上がる。

 

「平山君……ごめんね」

「あっ、大丈夫です。そこ食べ物あるんで良ければどうぞ」


 雪奈がサンドイッチを取り出す。中身はツナサンドだ。


「ごめん、ボクツナ食べれない」

「買いなおしてきます!」


 やっちまったなぁ! と思いながら、遼太郎は外に出ようとするが、雪奈は首を振る。


「うううん、いいよありがとう。頑張って食べるから」


 そう言って雪奈は兎みたいにモソモソとサンドイッチを食べ始めた。

 サンドイッチを食べ終わり、牛乳を飲み終わったくらいで遼太郎はゆっくりと切り出す。


「あの、めっちゃ上手いと思うんですが、これじゃやっぱりダメなんですか?」

「わかんない。ボクにも何がダメかよくわかんないんだ」

「僕が逆立ちして地球一周まわったところでこんな上手い絵を描けないのでちょっとレベルがついていかないですが」

「そんなに持ち上げなくてもいいよ。絵は描いた線の数と頭の中のイメージがどれだけ鮮明かで描くから。多分今のボクには頭の中のイメージがぼやけきってるから、何枚描いてもうまくいかないと思う。どうしよう桃火にやり直すって言っちゃったのに、全然上がらない」

「あの、元の絵を使うって言うのは? その上がってた絵があるって聞いたんですが」

「えっ、ダメだよ。なんか違うって言われたもん……」

「そうですか? いいと思うんですが」

「うん、ダメだよ……昔ママに言われたの、なんだかあなたの絵は違うって……。何が違うか聞いても全然教えてくれないし、段々怒ってくるから、ボクわけわかんなくなっちゃって」


 遼太郎はう~ん、少し根が深そうだなと察する。

 しかもトラウマスイッチを押された気配がある。

 ただこのままここにいても一緒に暗い空気を吸うだけである。


「よし遊びに行きましょう!」

「えっ?」

「ここ暗いですから、パーッと」

「ダメだよ、デザインも上がってないのに」

「なに大丈夫です。怒られるときは一緒に桃火に頭下げますから。大丈夫です、すみません描けませんでしたー、って言えば怒る人はいませんよ」

「でも……」

「いいからいいから。会社からは出ませんから」


 遼太郎は一度個室の外に出ると、今度はヘッドギアとPSVRXを持って戻って来た。


「ここ社内LAN繋がってますよね?」

「う、うん。大丈夫だと思うけど」

「なら全てよし!」


 遼太郎はPSVRXにLANケーブルを挿し、ヘッドギアの用意をする。

 そしてノートPCをUSBで接続してゲームクライアントを起動させると、メタルビーストの文字が躍っている。


「空の旅はお好きですか?」

「えっ?」

「本当はまだ見せちゃいけないところなんですけど、次の次のパッチで実装される新しいイベントにご案内します」

「いいのかい?」

「内緒ですよ」


 遼太郎は悪戯っぽい笑みを浮かべ、雪奈にヘッドギアを装着する。

 そしてベッドに軽く押し倒すと「それではゲームの世界で」と雪奈のVR装置を起動する。

 それに続いて遼太郎も自身のVR装置を起動する。


「ん……」


 雪奈が見渡すと、そこは真っ青な空だった。


「えっ?」


 下を見渡すと美しい宝石のような輝きを放つ海と孤島が一つ見える。

 しかし雪奈の体はパラシュートもジェットブースターもついていないので、当然そのまま自由落下する。


「え~~~~~~っ!!?」


 唐突に凄まじい勢いで空を落ちると、すぐ隣に遼太郎のアバターが転送されてくる。


「ひ、平山君落ちてる! 落ちてる!」

「そうなんですよ、ここ天空機械城って場所からイベント戦闘の後に機体から放り出されるんですよ。凄い浮遊感だと思いますよね」

「えっ、これ大丈夫なの!?」

「いや、ここの運動曲線どうするかって話も揉めてですね。ファンタジー風にふわっと浮かせるか、こんな感じで急降下させるかで2時間も議論しましたよ。でもこの辺りはリアルな体感を優先したいよねって話で、こんなもの凄いスピードになってるんです。いやはや開発にスカイダイビングの経験者がいまして、それを元に」

「平山君! もう地面が近いんだけど!」

「あれ、おかしいなそろそろお助けキャラがくるはずなんですけど。……あっ一人用で調整してたので、多分お助けキャラ一人分しか来ないですね」

「えっ!?」

「ま、なんとかなるでしょう」

「平山君時たま狂気に満ちた冷静さになるときあるよね!?」


 二人の体は流星の如く煌めきながら、眼下に見える孤島へと真っ逆さまに落ちる。

 ドコンと凄い音が響いた後、ギャーギャーと木に止まっていた鳥たちが鳴き声をあげながら一斉に飛び立つ。


「だ、大丈夫平山君……?」


 雪奈の体は突如現れた機械の鳥が背中を掴み、ゆっくりと下降させていく。

 しかし、予想通り遼太郎の方にはお助けキャラクターが現れず、そのまま地面に巨大なクレーターを作り、どこぞのZ戦士のやられ役みたいな無惨な倒れ方をしていた。


「大丈夫です。見た目超怖かっただけで、アバターにダメージはないので」

「そ、そうなの?」

「しかしお前も薄情な奴だな……」


 遼太郎は雪奈の背中を掴んでいる鷲を半眼で見据える。

 鷲はピーっと口笛みたいな鳴き声を上げる。まるで知らんがなと言っているようだ。


「お知り合い?」

「一応僕の今調整しているメタルイーグルです。僕は羽が黒いんでカラスって呼んでますけど」


 カラスは雪奈を地上付近で離すと、止まり木をかえるように大きな翼をはためかせながら遼太郎の肩の上に止まる。


「カラスは可哀想だよ。せめてもっとカッコよく……そうだレイヴンとかどう?」

「レイヴンですか? ちょっとかっこ良すぎません?」

「君もそっちの方がいいよね?」


 雪奈がカラスの頭を撫でると、翼をはためかせながらピューイと大きく鳴き声をあげる。


「ほら気に入ったって」

「僕としては横文字より、小太郎とか隼丸とかの方がしっくり……」


 そう言うと、レイヴンは遼太郎の耳を突っついてくる。まるで余計なことを言うなと言っているようだ。


「こんな中二病に設定したつもりはないのですが。いいです、僕が呼ぶだけなのでレイヴンにします」


 レイヴンは喜んでいるのか、再び大きな鳴き声を上げる。


「こっちです。ついてきてください」


 遼太郎はメタルイーグルを肩に乗せたまま先へと進んでいく。

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