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グッドゲームクリエーター~VRゲームとらぶる開発記~  作者: ありんす
1stG グッドゲームクリエーター編
13/82

ビタースィート

 その頃遼太郎は第二開発の入り口で、おっとりした女性デザイナーを捕まえていた。


「あのすみません、わたくし第三開発の平山と申します。すこしお時間よろしいですか?」

「えっ、はい?」

「すみません、ご多忙のこととは思うのですが、第三開発より緊急でお仕事の依頼をさせていただきたく伺わせていただいたのですが」

「依頼ですか? 私個人では答えられないので第二の真田さん、桃火さんに話を通していただければ」

「わかりました、お忙しいところすみません」


 女性は礼をして通りすがっていく。遼太郎が思っているほど邪険にされているわけではなさそうで安堵する。

 そりゃそうだな、まず初めにリーダーに話を通さないとな。そう思い遼太郎は再びデザイナーらしき人を捕まえ桃火のことを聞き込む。


「すみません、桃火さんを見ませんでしたか?」

「お姉さまですか? お姉さまなら会議ですけど」


 お、お姉さま? と呼び方に疑問が残るが、話を進める。


「あのどれくらいで戻って来るかとかは?」

「あぁ、ちょっとトラブってるみたいなので、もしかしたら遅いかもしれません」

「すみません、ありがとうございます。あのぶしつけな質問で失礼なのですが、今第二開発のデザイナーさんってお忙しいのでしょうか?」

「ん~忙しいと言えば忙しいんですが、天城さんのキャラデザが変更になったんですけど、それが遅れていてお仕事がおりてこないので、止まってる状態ですね。なので後で雪だるま式に酷いことになるかもしれません」

「天城さんって第二のサブリーダーですよね? あの人デザイナーだったんですか?」

「ええそうですよ。もう天才としか言いようのない美しいデザインをされるんです。一緒にお仕事ができて本当に光栄なんですよ」

「なるほど、ありがとうございます。その雪奈さんはどちらに?」

「今日はずっと離席されてますね。多分お忙しいんだと思いますよ」


 話をしてくれた第二のデザイナーは、そのまま仕事へと戻っていく。


「う~む桃火ちゃんだけじゃなくて雪奈さんとも話し合いをする必要があるかもしれないな」


 しばらくどうするかと考えていると、会議を終えた桃火が肩を怒らせながらエレベーターから降りてくる。

 その様子を観察していると桃火は自動販売機で止まると硬貨を入れ


「あ~~ムカつくぅぅ!!!!」


 自販機のボタンを物凄いスピードのストレートパンチで押す。

 するとジュースが出てこなかったようで更にイラついている様子で、しまいに回し蹴りなんか入れ始めた。

 ドゴンと恐ろしい音が鳴り響く。

 このまま放っておくと自販機ぶっ壊すぞと思い遼太郎は走って近づく。


「桃火ちゃんダメだよ」

「誰が桃火ちゃんよ! 真田さんって呼びな……」

「ごめんね真田さん」


 遼太郎の顔を見て一気に冷静になる桃火。


「いや、別にあんたに言ったわけじゃ」

「桃火ちゃん、前々から言ってるけど物に当たるのは良くないよ」

「うっ……ごめん……」


 遼太郎は自動販売機が壊れてないことを確認すると、硬化を投入する。するとボタンに光が点灯し、遼太郎は缶コーヒーの練乳マックスゲロ甘Fireを購入し、桃火に手渡す。


「あれ、壊れて……」

「10円足りてなかったよ」


 桃火の顔にカッと赤みがさす。


「はい、桃火ちゃん甘いの好きだよね?」

「いや、うんありがとう……」


 二人が話している様子を第二開発室の人間がこっそりと見守る。


「ここじゃあれだから。なんか話あるんでしょ?」


 二人は会社の休憩室に場所を移し、ソファーに腰かける。


「あれ、まだ飲むの?」

「ん? これはまた帰ってから」


 桃火はもう一本ブラックのコーヒーを買ってプルトップを開ける。


「それで、どうしたの?」

「あの、申し上げにくいんですが」

「何よ、改まって」

「お忙しい中だと思うのですが、どうか第三開発にメカモデルができる方をお貸しいただけないでしょうか?」


 遼太郎は目の前のデスクに頭がくっつくほど深々と頭を下げる。

 それを聞いて桃火は小さく息をつく。


「無理」


 結論はあっさりだった。しかし遼太郎もすみません無理でしたとやすやすと引き下がるわけにはいかない。


「やはり忙しい?」

「忙しいっていうかそれ以前の問題よ。引き取って来た不良債権のせいでウチのエースがスランプおこしてんの」

「さっきイラついてたのってもしかして」

「ええ、それよ。あいつあたしに何の相談もなく勝手にキャラデザかえようとしてたのよ。あったまきたわ。そんで問いただしたら、桃火さんはデザインにうとそうなので、直接天城さんに言った方が早いと思いました。ですって、はぁ!? って感じよ。なにこっちの指揮系統完全無視してくれちゃってるわけ!」

「どうどう」


 ヒートアップしてく桃火をなんとかなだめる遼太郎。


「雪奈も真面目だから迫田の言うこと真に受けちゃって、デザインやり直してんの。そんで迫田の要望通りにやったらなんか違いますねこれ。とか言い出して、テメーは大物編集長か。なんだその上から目線はあたしの雪奈を何顎で勝手に使ってんだぶっ飛ばすぞ!!」

「どうどう落ち着いて」

「デザイン戻そうとしたら雪奈自分のデザインに自信もてなくなって、やりなおすとか言い出すし。デザインのところが突如白紙に戻るなんて前代未聞よ!」

「それで天城さんは?」

「別フロアで一人ガリガリ書いてるけど、ありゃ完全に自分が何描いてるかわけわかんなくなってるわね。あの子メンタル弱いんだから。ノってる時は異常な性能だすけど、躓くと元に戻すのに時間かかるのよ、どうしてくれんのよこの落とし前!」


 桃火はガクガクと遼太郎を揺さぶる。


「そ、そんなこと言われても困るよ」

「はぁ、そうよね悪い。当たっちゃった」

「いいよ、慣れてる」


 桃火は昔よく聞いたその言葉に安堵する。


「あんたも大変ね、こんなヒステリックな女のところに頭下げにいかなきゃいけないって」

「うううん、全然。凄く楽しいよゲーム作り」

「ピュアねぇ。あんたもそのうち暗黒面こっち側に落ちるのかしら」


 はぁっとため息をつくと、遼太郎は桃火の口をおさえる。


「ん?」


 あまりにも唐突に唇を触られて驚くが、これが昔彼氏彼女だった時代の名残であることに気づいた。


「桃火ちゃん、ため息をつくと幸せが逃げちゃうよ?」

「ん……ん」


 コクリと頷くと遼太郎は手を離す。ほんとにこの男は自分もよっぽど切羽詰まってるくせに人のことばっかり。

 昔からかわってないと思う。だからこそ……なぜあの日遼太郎が誕生日をすっぽかしたのか気になる。


「ねぇ、あんたさ……」

「うん……」

「いや、なんでもない。なんかあんたに全部毒気吸われちゃったわ」


 桃火が立ち上がり、思いっきり伸びをするとカッターシャツの第二ボタンが乳圧で吹き飛び、遼太郎の額に激しくぶつかる。


「いだい……」

「ご、ごめんね。てか昔もよくやったね」

「うん、桃火ちゃん胸おっきいからね」

「特に高校時代は成長期でしたから」

「うん、良かったね」

「何が?」

「元気になったから。ボタン吹っ飛ばすってことは胸張って生きてるってことだよ」


 言われて、あれ私なんかすっごい元気づけられてる? と気づく桃火。

 そうなんだよ、こいついつのまにかこっちの負の感情だけ抜いていくんだ。

 それで大体


「笑顔になったね」


 と自分のことのように嬉しそうにほほ笑むんだ。これで落ちるなって言う方が無理ってもんでしょ。

 おいバカやめろおさまれ、私の中にある封印されし乙女心や恋心、出てこようとするんじゃない、やめろ、やめてください。

 桃火は必死に頭を振る。


「あんたさウチが無理って言った理由わかる?」

「うん、天城さんがデザインやり直しにしちゃってるから進捗はリセットだし、いつ下に作業がおりてくるかわからないから他のデザイナーさんも動かせないってことだよね」

「うん。だけどさ、一つだけあんたに条件付きでデザイナー貸せるの」

「えっ?」

「天城雪奈をスランプから抜け出させなさい。あの子がメインのデザインを上げれば手は空くわ」

「でもそれってゲームのメインキャラのデザインだよね? 何キャラあるの」

「五キャラ分よ」

「それを書き上げて、こっちに手伝ってもらうのは……」

「あの子ならできるわ。本来それくらいマンパワーを持つ子なの。あたしが認めた数少ない天才の一人よ。できるわ」


 桃火は断言する。


「何をしてもいいわ。あの子にキャラデザあげさせて。そうすれば後は好きにしていいから。こっちも遅延でてやばいの。それが解消できるならなんでもいいわ」

「う、うんわかった。でも具体的にどうすればいいか」

「そうね……あの子の仕事はほぼ全てテンションで決まると言ってもいいわ。彼女のモチベーションを上げる方法を探して。どこかに連れ出すでもいい、ゲームさせるでもいい。とにかくあの子のテンションを上げさせるの」

「……うん、わかったやってみる桃火ちゃん」

「ふん、会社で桃火ちゃんはやめなさい」


 桃火は恥ずかし気に自身の長い髪を弾く。


「うん、わかった。ありがとう大好きだよ」

「…………」


 そう言い残して遼太郎は走り去った。

 そして残されたのは暴風雷雨津波のように巻き起こる封印されし乙女心と恋心に必死にふたをする桃火であった。

 彼女は遼太郎と別れてからはブラック以外のコーヒーは飲んでいなかった。人生とは苦く苦しいものであると、それを社会に入って忘れないようにブラックしか飲まなかった。

 だが、遼太郎と一緒だったときは


「甘いな……生き方も、人間も」


 彼の残したマックスゲロ甘Fireに口をつけ、胃もたれがしそうなほどの甘さに心地よさを感じるのだった。

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