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グッドゲームクリエーター~VRゲームとらぶる開発記~  作者: ありんす
1stG グッドゲームクリエーター編
1/82

ばぶみ勇者

「ですから、ここが新しいポイントなんですよ。恋愛ゲームでありながらアクティブタイムバトルシステムを採用し、並いる女の子をばったばったと打ち倒し、その倒した女の子からアイテムをはぎ取って新しい防具を作り、最強の関取系女子と恋愛するゲームなんですよ」


 事務机越しに新人企画マン平山遼太郎ひらやまりょうたろうの持ってきた企画内容を難しい顔をしながら眺めているのは、グッドゲームズカンパニー第四ゲーム制作室室長山田だ。

 彼は薄くなった頭をかきながら視線を企画書から必死に身振り手振りで説明する遼太郎に戻すと、深いため息をついた。


「平山君」

「ですからね、誰も体験したことない全く新しい、新次元の恋愛ゲームをですね」

「平山!」

「はい、なんでしょう」

「あのな、そもそも企画書の体裁が無茶苦茶で関取系女子というのもわけがわからんというのもあるが、世間様は猫も杓子もVR、VR、VRなの。みーんなヴァーチャルの世界で勇者になったり、配管工のヒゲ親父になったり、俺より強い奴にあいにいく路上格闘家になったりしてるの。それを今時据え置き機の恋愛ゲームの企画なんて通らないよ?」

「ですが山田さん、VRゲームとなりますと非常に初期投資が大きくなってプロジェクト自体の規模もでかくなるので、とても新人企画マンの企画なんて通らないんですが」

「かと言ってこんな”どす恋LOVE、恋の土俵は幕下”からとか通らないよ?」

「かなりの自信作だったのですが……」

「自信満々にこれを持ってくるお前に私は頭が痛いよ。とにかくVRの企画が欲しいの。VRのミニゲームとかさ、小さい企画作って、第一とか第二開発とかに売り込んでみたりできるじゃん」

「しかしそれでは第四開発が」

「いいのいいの、ウチは他の製作部署で使うツールとかアプリとかそんなのメインなんだから。大きい開発は第一、家庭用は第二、オンラインの第三ですみ分けができてるの」

「あの、ウチだけゲームじゃないんですが」

「何言ってんの、ゲームで使うツールなんだからゲームだよ? とにかく企画見直して。後、共有フォルダの中にある素材ちゃんと整理してね。一人が使用できる容量決められてるから。それオーバーすると管理課からすぐクレームのメール来ちゃう」

「わかりました」


 遼太郎は渋々自分のデスクに引き下がり、起ち上げられたパワーポインターを眺める。


「今時流行らないか……」

「どしたの平山ちゃん」


 隣のデスクから茶髪のヤンキーにしか見えない、遼太郎より一つ年上の高畑が顔を出す。


「企画がね、通らないんですねー」

「そりゃしょうがないよ。第四はツール制作メインだし。しかしよく企画持ってくよね。今月で何件目?」

「92です」

「よくそんなにアイディア出てくるよね。一日三っつ超えてるじゃん」

「斬新なものばかりだと思うんですが」


 高畑は遼太郎のPCに表示されている、どす恋LOVEを見て苦い顔をする。


「平山ちゃんの企画は毎回人類には少し早すぎる内容だと思うわ」

「そうでしょうか……」


 遼太郎はその後通常業務を片付けた後、新たな企画を考えるのだった。


 翌日

「見て下さい山田さん! 今度のはどうでしょうVRでおっさんが乳児に転生し、女神や美少女勇者のおっぱいを吸いながら徐々に成長していく”ばぶみ勇者 奥さんその勇者実はおっさんかもしれませんよ”これはかなりの自信作ですよ。なんといってもおっぱいを吸えば吸うほど赤子が成長し、最終的には元のおっさんの姿に戻るという乳リボーンAGEシステムを搭載して……あれ?」

「うぉっほん」


 事務机の前にはいつも通り冴えない中年の山田が咳払いする。その脇に遼太郎より若い、学生くらいにしか見えない少女が立っていた。

 長い髪を揺らしネクタイ付きのカッターシャツに短いチェックのスカートをはき、目つきは怒っているのか鋭く、なんじゃこいつ? と言わんばかりに腕組みしながら遼太郎のことを睨んでいた。


「えーっと、こいつが平山です」

「はぁ……、ばぶみ勇者ですか」

「す、すみません」


 山田はいつになく額に脂汗をかきながらぺこぺこと頭を下げている。


「えーっと、山田さん彼女はどなたでしょう?」

「第三開発室、メインプログラマー兼室長の真田麒麟さなだきりんさんだ」

「あっ、どうもどうも僕は平山遼太郎です。趣味はコミケで同人誌をだすことです」

「別に聞いてませんけど」

「好きなゲームはファイナルファイターと魂虎、あの硬派なところがいいんですよね」

「聞いてませんけど!」

「それはすみません。今度レトロゲーを本体ごとお貸ししますよ。何がいいですかねスーパーモンキーコングなんて面白いですよ。なんたって主人公がサルとチンパンジーなんです。今のゲームでは考えられませんよね……」

「平山!」

 

 山田の怒鳴り声で遼太郎はようやく目の前の少女が怒っていることに気づいた。


「平山、君平常運転すぎない?」

「そうですか? 自分では繊細な方だと思っているのですが」


 山田は頭を抱える。


「ほんとにこの人しかいないんですか?」

「まぁ、はい、すみません。プランナーはこいつだけです」

「どうかしたんですか?」

「いやね、三カ月ほど前に第三開発でVRのロボットモノのオンラインゲーム出たの知ってる?」

「あぁ確か委託した運営がやらかして盛大に炎上してた」

「シーッ! シーッ!」


 麒麟の眉がピクリと吊り上がる。


「それウチに運営権が返ってきてるの。でも今第一が開発でデスマーチしてる最中だから第三の大多数が第一の応援に行っちゃってるの。それで人がいないんだよ」

「はは~ん、それで泣きついてきたわけですね」

「シーッ! シーッ! 平山君お願いだからそういう火に油を注ぐようなこと言わないで!」


 麒麟はもはや敵を見る目で遼太郎を睨んでいた。


「それでウチからも応援だしたいんだけど、まともに動けるの君だけでしょ?」

「それは言い換えると仕事のない暇な奴ってことですよね?」


 麒麟がトゲのある言葉を放つ。それに対して山田はすぐさまフォローをいれる。


「い、いやぁ、彼は能ある鷹は爪を隠すというか隠しすぎて巻き爪起こしたって感じの男ですが、ゲームへの情熱は人一倍ですよ」

「そんなのゲーム会社にいる人なら当然でしょう。いいです、ボロ雑巾になるまで使い潰しますがよろしいですよね?」

「それはもう、帰ってきた時には時が見えてても構いませんので」

「では、できる限り早くかえせるようにしますので」


 トップ同士の奴隷売買は完了したようで、麒麟は遼太郎の腕をとって無理やり第四開発から出ていく。

 その様子を高畑が見送る。


「大丈夫なんですかあれ?」

「大丈夫じゃないよ、第三のゲーム、開発とは全く関係ないところで盛大にずっこけてるからね」

「なんでしたっけ、勝手にレベル上げるアイテムや最強武器の課金販売始めたんでしたっけ」

「そう、リリース前から強さに関係するアイテム販売はやりませんって言ってたのに、まさか開始三か月で手のひら返すなんてユーザーも作った開発も思ってなかったよ」

「委託の運営会社にクレームいれたんでしょ?」

「言ったけど、謝罪もせずドロンしたよ。大手の孫会社だと思って油断したみたい。産みの親である真田さんはカンカンだし、早くゲームを元に戻さないと開発資金ペイできないから上もカンカン。そんなわけで第三の空気は最悪だから皆逃げるようにして第一の応援に行ったってわけ」

「泥船じゃないっすか」

「第三の真田君開発者としては物凄いマンパワーを持ってるんだけどね……」

「天才真田麒麟か。考えようによっては第四にいるより、いい経験になるんじゃないですか?」

「どちらかという敗戦処理に近いから、生贄を捧げた気分だけどね。向こうメインプランナーが一回逃げ出したらしいから」

「えっ、じゃあもしかして平山ちゃん雑用とかじゃなくて?」

「そっ、プランナーで呼ばれたの。平山君考えだけは斬新だしめげない精神もってるから、そこだけに期待だね……」


 麒麟と遼太郎の二人はエレベーターに乗って上階にある第三開発室に向かっていた。

 少しくらいコミュニケーションをはかった方がいいかなと思うが、遼太郎は年下である麒麟の殺すぞオーラに若干びびっていた。


「あなた歳はいくつですか?」

「20です!」

「どいつもこいつも年上なのにいい加減な人ばっかり」

「真田さんはおいくつなんですか?」

「19です」

「お若いですね」

「1つしかかわりません」

「でもその歳ですと、まだ学生なのでは?」

「海外の大学を飛び級で卒業してますから」

「凄いんですね」

「少なくともあなたよりかは」


 初対面なのにすんごい噛みつかれてるなと思いながらも、遼太郎と麒麟は第三開発室へと入った。

 中は開発用の機材と、人一人が入れるくらいの巨大なVR用の専用筐体が複数のパソコンに囲まれていた。


「凄いですね、こんな開発機材第四にはないですよ」

「当たり前です。ウチは第四と違って実績を上げてるので」

「第三人いないんですか? 誰も見当たりませんが」


 開発室には人っ子一人おらず、聞こえてくるのは大型筐体からのファンの音だけだ。


「私が帰って来ると知って皆サーバー室に逃げ込んだんですよ。私嫌われてますから」

「なるほど、嫌われそうですもんね」

「…………」


 麒麟はちょっと不機嫌になりながらも、自分で言った事なので気にしないようにしながら遼太郎にVR用ヘッドマウントディスプレイ通称ヘッドギアを放り投げる。


「なんですか?」

「ヘッドギアです」

「それはわかります。はは~ん、さては見くびってますね?」


 バカにしたつもりだが、更にイラっとする返しをされて麒麟の頭部にビキっと怒りマークが入る。


「平山さん、第三のゲーム、メタルビーストはどの程度ご存知ですか?」

「確かロボゲーですよね? ガンニョムオンラインのパク」


 麒麟がすんごい怖い顔で睨んだので遼太郎は黙った。


「完全オリジナルです。あっちは据え置きでVR対応してませんから」

「はい」

「とりあえず私も一緒に入るので、少しこのゲーム勉強してください」

「任せて下さいやるのは得意です!」

「いつまでもユーザー気分なんですね」


 麒麟がチクリと刺すが遼太郎が気にした様子はなく、同じようにヘッドギアを被る。

 自身の頭をすっぽりと覆い隠すヘッドギアは被ると自動で半透明のアイカバーが下りてくる。

 遼太郎が側頭部にある電源ボタンを押し、目を閉じると、意識が夢の中に落ちるようにぼやける。

 その直後彼の体は別の空間へと移動していた。


 仮想世界専用ゲーム。約三年前に大手ゲームハードメーカーから販売されたPSVRXは従来のバーチャルとは一線を画すほどのマシンパワーを持ち、不可能と言われていた精神のデジタル化に成功、自身の意識をゲームの中へと送り込むことを可能にする夢のゲームハードであった。

 しかしながらゲームの開発は難航し、一つのゲームを作り出すのに膨大な費用と人員を必要とし、大手ゲーム会社以外からではとても開発に手を出せるような代物ではなかった。

 遼太郎の在籍するグッドゲームズカンパニーも昨年ぐらいからようやくVRゲーム開発が軌道に乗り始めていたのだった。


「VRのこの感じはいつまで経っても慣れないな」


 そう思いながら自身の体を見ると先ほどまでの私服ではなくなり、肌にフィットしたSF世界に出てくるようなパイロットスーツへと変化している。周りも会社の開発室ではなくなり、巨大ロボットの並ぶ格納庫が映し出されていた。

 慌ただし気に整備班らしきNPCが声を上げており、臨場感や迫力は据え置き機の比ではない。まさしくプレイヤーはゲームの主人公と化しているのだ。

 どうやらここが最初のチュートリアルステージのようだった。


「来ましたか」


 既に聞きなれつつある冷たい声に振り返ると、そこには真っ赤なスーツに着替えた麒麟の姿があった。

 片手にヘルムをもっており、そのぴっちりとしたスーツに少し戸惑う。


「真っ赤なスーツいいですね」

「課金装備です」

「……ちなみにおいくらですか?」

「2500円です」

「…………結構高いですね」

「これでも他社に比べればずっと良心的ですよ」

※この物語はフィクションであり実在の人物団体とは一切関係ありません

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