プロローグ
女の子がスーパーボーイッシュです。
女子のかけらも会いませんので、気をつけて。
桜の散る頃、オレはアイツに出会った。
「オレ、槙 伸太郎。」
なんとなく入学式に話しかけた隣のそいつは、特にオレに興味もなさそうにこう言った。
「……村瀬 浩。」
その素っ気無さが楽で、オレはもっと村瀬について知りたくなった。
「数学は好きか?」
「好き。でも化学は出来ねえの。」
「そうそう! オレもだ。」
村瀬とはとにかく気があった。好きなアーティストとか、食い物とか。新学期が始まったその日、オレと村瀬は一緒に昼ごはんを食べた。
「オレ焼き蕎麦パン、好きだわー。」
「僕も。」
「あれ、村瀬。僕とか言うわけ。」
「……悪いか」
「別に。普通の一人称だし。でもなんか、意外だったんだ。」
村瀬は少し驚いたような顔をした後、いかにも面倒くさそうな顔を作った。
「お袋がさすがに……僕しか許してくれなくて。姉ちゃんが居るからいいじゃん、って感じだ。」
姉ちゃんと何が関係あるんだろうか、と思った。次の瞬間までは、そう思ってた。村瀬が次の瞬間、オレに衝撃的な言葉を言うまでは。
「僕、女の子扱いとか面倒くさくてさ。いくらモデルの姉が居るとしても……女も男も所詮人間なのに。」
そういえば男にしては綺麗過ぎる顔立ちだと思ったんだ。村瀬はそう、男子の制服を着た、れっきとした女子だった。
僕が私で。
女子?! 村瀬が? 聞いた瞬間俺の頭は真っ白になった。でも次の瞬間沸いたのは、こいつと友達でいたいって気持ちだった。
オレは、そんなに驚いた様子も無くこう言った。
「ああ、お前女子なの?」
すると村瀬はちょっと申し訳なさそうに俯いた。
「がっかり……したろ? 女子が男子の制服着てるとか、キモイよな」
その瞬間オレはそれを否定しないといけない気がした。
「んなことねえよ。女子の制服って動きにくいっぽいし。つうか、お前の姉ちゃんってモデル……なのか?」
「……!」
村瀬はあからさまに驚いたようだ。でもそこに突っ込まれたくないらしくすぐに体制を整えた。
「あ、ああ。自分で言うのもなんだけど、スッゲー綺麗。」
少し、見てみたくなった。
「にてんの、村瀬に」
興味本位で聞いてみたら、怒られた。
「ゼンッゼン、全くもって似てねえ!」
ベリーショートだから、制服だと常識観と一緒になって男子にしか見えないが、こいつも相当綺麗な顔立ちをしている。きっと姉ちゃんもこのタイプの綺麗さなのだろう。
そしてきっと村瀬は、姉ちゃんが好きだ。姉ちゃんの話をするときの村瀬はすごく楽しそうで、オレは今まで味わったことの無い不思議な感情に包まれた。
村瀬のスカート姿が見てみたいと思った。
ありがとうございました。
次回でもお会いできることを祈っております。