第一章~出会いと夢~
どうも皆さんこんにちは!白ごま次郎です。
今回が初の投稿ということで至らないところが多くあると思いますが、温かい目でご覧になり、厳しい指摘もらえることを心より願っています。
どうぞ、よろしくお願いします!!
何時ものように目覚ましを止め、5分だけの二度寝。
大学生になった今でも二度寝の誘惑には勝てない。
この誘惑のせいで何度遅刻をしそうになったことか…
そんなことを考えているうちに再びアラームが鳴り、僕は重たい瞼をこすり開ける。
窓からはカーテン越しでも眩しいほどの朝日が降り注ぐ。
ふあぁ~、と僕は間抜けな顔で大きなあくびをし、夢見心地で大学へ行く支度を始めた。
準備をしているうちに眠気もさめ、天気を確認するためにテレビをつける。
「今日は昨日と打って変わって青空が広がる一日となるでしょう。」半そでの気象予報士が透き通った声で言う。ここ数日のあいだ雨だったから、青空を見れるのはなんだか嬉しい。
天気がいい日は、不思議と元気が出るような気がする。
僕は何かいいことが起こるような気がして、鼻歌を歌いながら玄関を飛び出した。
外に出ると爽やかな風と共に、柔らかい日差しが僕を包んだ。
心地よい風と日を浴びながら、僕は自転車を取りに向かう。
住んでいるアパートには駐輪場がないので、近くにある公民館の倉庫を使わせてもらっている。
公民館はほとんど使われておらず、人が出入りすることもめったにない。
はずなのだが、今日は珍しく倉庫の前に大きめの車が止まっていた。
僕は自転車が出せないので、動かしてもらおうと運転席のほうに歩み寄る。
エンジンはついているが席には誰も乗っていない。
後ろのドアも覗いたが、なぜか外側から見えない窓になっている。
急いでいる僕は思い切って後ろのドアに手をかける。ガチャ…。開いてる。
「誰かいませんかー?」そう言いながら僕は中を覗き込む。あ、涼しい。
冷房はついているが、中は暗い。返事もないし誰もいないのかな~
そう思ったとき、「誰!?」と高い声が聞こえ、電気が付く。
僕は驚いて一番後ろの席を見た。リンゴ!?あ、いや、女の子だ。
女の子はリンゴの着ぐるみ?のようなものを大事そうに抱えている。
急に多くの情報が入ってきて、ぽかーんとしている僕に彼女はおーい、と声をかける。
はっ!と僕は我に返った。説明しなくちゃ!
「あ、ちがっ、ちょっと車をどけてもらおうと、人がいないか覗いただけで...怪しいものではなくて!!」やってしまった、もう十分怪しい。焦りすぎて自分でも何を言っているのかわからない。
どうしようかと思っていると、彼女が突然ぷっと吹き出すように笑う。くしゃっとした笑顔に僕は少しドキドキした。
「大丈夫だから落ち着いてーな」と言いながらまだ笑っている。僕は少しホッとした。
やっと笑いやんだ彼女に事情を説明する。
「なんやそう言うことなら先にいってや~、いま運転手さん呼ぶな」彼女はそう言い、携帯を取り出す。
彼女の語尾はすべて音符が付いたかのようで、やわらかく頭の中で響き渡った。
「あ、もしもし今ですね…」彼女は運転手に電話をかけ事情を話す。
電話になると対応が変わる人は結構いるが、標準語を使う彼女はなんだかすごく大人びて見えた。
「はい、お願いします。失礼します。」電話が終わったようだ。
「運転手さんすぐ来るって!!やっぱ標準語なれへん!!」ひょこっと顔を座席の隙間から覗かせ、彼女が言う。
なんか彼女も苦労してるみたいだな~なんて、知ったようなことを思う。
「あ、この辺に住んでるん?」不意の質問に少し驚いたが、話を振ってくれて助かった。
「今年度に入ってから引っ越してきたんだ。今は一人暮らし。」
「へ~そうなんや!一人暮らしって大変ちゃう?」
「そうだね~でも最近慣れてきたかな。」
なんて他愛もない話しを五分ほどしたところで、「あ、まだ名前も聞いてないやん!普通これが最初やろ」とまた笑顔を見せる。
「うちは近藤彩音≪こんどうあやね≫いいます。大阪生まれで今は仕事でこっちきてます」よろしくーと音符が付いた声がいう。
「彩音ちゃんね。僕は木村圭≪きむらけい≫よろしく!」と返すと、ちゃん付けなんて恥ずかしいとまた音符付きの声が返ってくる。
それからすぐに運転手さんが来た。すみませんと言いながら運転席に向かうその背中を見つめながら、もう少し彩音との時間が続いてほしいと思った。残酷にも時間は過ぎていく。
僕は無事自転車を取り出すことができ、彩音と運転手さんに別れを告げた。「またいつかね~!」という声は音符と共に僕の頭の中を駆け巡った。
あ!やってしまった。一つだけ聞けなかったなぁ…あの着ぐるみ、なんだったんだろう。
ぎりぎり間に合うか。全力で自転車をこぐ。
彩音と出会えたのは嬉しかったけど、いつもより出発が20分遅れてしまった。
何とか大学に着き、急いで階段を駆け上がる。心臓の鼓動が激しくなるのがわかる。
なんでこんな日に限って最上階なんだ!なんて行き場のないちっぽけな怒りを抱きながら、なんとか講義室に到着。後ろの扉からそっと入ってみる。あれ…だれもいない!!??
もしかしてと思って携帯を開くと、友人からのLINEに休講の文字。
なんてこった、もっと早く気づいていれば…怒りというか虚しさというか、なんと言えばいいのかわからないような感情に僕は襲われた。
すっかりやる気を失った僕は、早めの昼飯を食べに重い足取りで食堂へと向かった。
休憩の場にもなる食堂は、お昼時でなくても混んでいる。
とりあえず座れそうなところを探していると窓際に見覚えのある三つの背中。
おはーと僕が気の抜けた声で言うと、三人も同じような気の抜けた挨拶を返してくる。
皆に休講を知らないで来たことを話すと笑われた。失敗を笑われるのは好きじゃないけど、こういうおバカ体験を笑ってもらえるのは嬉しい。
「相変わらずおっちょこちょいだな~」と言いながら友希が笑う。
「遅刻じゃなかったんだからいいじゃんか~」口いっぱいに菓子パンを頬張りながら亮太がいう。
「どんま~い、圭の分の限定プリン買っといたからこれ食って元気出せって!後でなんかおごれよ~」
文果、こいつは優しいんだけど抜け目ないし中身がおっさんなんだよな、それさえなければいい子なんだけど。この三人は大学に来て知り合ったんだけど、意気投合して今ではいつも行動を共にしている。
何でも話せるような関係だけど、僕は今朝あったことを秘密にすることにした。
誰かに話したら彼女の存在がどこか遠くに消えていくような気がして。
僕は頭の中のいろんなもやもやを振り払うかのように、大好きなカスタードプリンを口いっぱいに頬張った。
「そういえばもうすぐ夏休みじゃん??みんなどうすんの?俺は地元民だからこっちにいるけど。」友希がいう。
「俺は実家に帰省するかなー、ほら俺んち農家だから手伝いしなくちゃいけないし。」続けて亮太。
「私はこっちでバイトしようかなって思って今探してるとこ~」文果が答える。
圭は?だれがいったでもないが三人の心の声が聞こえた。
「俺は地元でやりたい事を探そうかな」僕は自分に語りかけるように言った。
僕は将来の夢とかやりたい事というものを持てていない。
小学生の時にスポーツ選手って言ったことがあったけど、太ってたからお相撲さんかなって馬鹿にされたっけ。それ以来馬鹿にされるのが怖くて人前で夢について話せなくなった。
中学では将来の夢を探したけど結局見つからなくて、高校で見つかるだろうって思ってた。
高校に入ってなんとなく過ごしているうちにあっという間に三年生になって、進路選択が迫って、大学で夢見つけようって進学した。
だけど大学に来て四か月近く経つのに、まだ何も得ることができていない。
僕は焦っていた。皆みたいに将来なりたい職業とか、学びたい学問とかそういうのが見つかってない、それが大きなコンプレックスになっている。。
だからがむしゃらに新しいことにばかり挑戦していた。何か得ることができるかもしれないって。でも駄目だった。だから一度地元に逃げることにしたんだ。
昼飯の後僕らは講義を受け、雑談をしたりして何時ものように過ごした。
気づけばもう六時、楽しい時間ってほんと過ぎるのが早い。
そろそろ帰ろうかと、四人そろって外に出る。「じゃ~ね、また明日」いつも通りの別れの挨拶をしそれぞれの帰路に着いた。
近くのグラウンドでは野球部が何時ものように大声を出して練習している。最近ずいぶんと日が長くなり、帰る時間でも外は明るい。
自転車をこぎながら、ふと彩音のことを考える。僕は彼女が好きなのかな。自分の心に聞いてみる。
正直まだ10分くらい話しただけだし、あちらに気があるとは思えない。
当然脈なしだろうなと、小さな恋を自分の中で終わらせ、悲しみの坂道をゆっくり下って帰った。
…あの日から一週間が過ぎ、いよいよ夏休みに入ろうとしている。
中学の時は高校に入る。高校のときは大学に入る。
なんとなく将来の目標のようなものが見えていた。
しかしいざ大学生になってみると、何の目標も持てないまま夏休みに入ろうとしている。
大学の夏休みは二か月間、人生の中じゃ短い時間だけど、僕の中では大切な時期の貴重な時間だ。
この夏休みで僕は変わるんだ。小さな希望と大きな不安を抱き、僕は自分にそう言い聞かせた。