第九話:勇者二人で伝えに行く
さて、ラクライールの件を、どうやって陛下たちに伝えようか。
そんなことを考えながら歩いていたから、普段なら気づくはずのことに気づかなかった。
「さ・ぎ・さ・か・さーん!」
「ぐっ……!」
背中に衝撃が走り、非難も込めて、抱きついてきた張本人に目を向ける。
「……何の用かな、向島君。私は今、ものすごく痛かったんだけど」
「ああ、悪い。すまん」
そう言いながら、激突してきた張本人ーー向島君が離れる。
「それで、用件は」
「いやー、歩いてる途中で迷ってたら鷺坂を見つけたから、ついでに城内の案内でもしてもらおうかと」
「クリスさんたちは?」
「あいつらはほら、お前の仲間たちと一緒に、桐生たちに捕まってるよ」
つまり、一緒になって訓練してるわけだ。
「それで、君がここに居るってことは、一人サボったんだね。イースティアの勇者様」
「鷺坂もサボってんじゃん」
「私が出たら、みんなのやる気を殺ぐでしょ」
制限付きなだけで、本気だろうと無かろうと、戦えないわけじゃないし。
「それはそうかもしれんが、腕が落ちないか?」
「落ちてるかもしれないけど、それはそれで仕方ないよ」
「そういうもんかね」
この状況を甘んじているわけではないが、力のある者が下手に参加するのもどうかと思うのだ。
下手したら、パワーバランスにも問題が出る。
「じゃあ、久しぶりに手合わせするか?」
「断る。私が剣より魔法の方が得意なこと、知ってるでしょ」
「そう言っておきながら、俺に勝ち越してるだろ」
「一勝だけね」
あの時は偶然、勝ち越せただけだ。
「なら、魔法ありにするか?」
「制限付きとはいえ、周辺への影響が怖いんだけど」
そう返せば、向島君が何か言いたそうに、こっちを見てくる。
「つまり、やりたくないんだな」
「いや、知り合いしかいないのなら引き受けたと思うけど、今は他にやることがあるだけだよ」
「やること?」
「ほら、話したでしょ。ラクライールの奴が来たって。それをどう陛下たちに伝えようかって」
それで通じたのか、ああ、と納得する向島君。
「なら、執務室に行けばいいだろ。場所、知ってるんだろ?」
「まあ、知ってるけど」
「よし、じゃあ行くぞ」
「君が知ってるわけじゃないんだから、先行しない」
手を引っ張っていこうとする向島君に、溜め息混じりに突っ込んだ。
☆★☆
「失礼します、陛下」
「うん? 君たち二人だけか?」
執務室の扉の側に立っていた騎士に取り次いでもらえば、中から許可が出たので入ってみれば、意外そうに返された。
「まずは、遅れましたがご挨拶を。ノーウィストの勇者、鷺坂榛名です。この度は、ご迷惑をお掛けいたしております」
「うむ……まあ、何の手違いかは分からんが、まさか我が国の召喚陣に、他国の勇者が引っかかってしまうとはな」
「それに関しては、こちらも仲間と合流できたので、特に文句はございません」
「そうか。そちらがそう言うのなら、そういうことにしておくが」
さて、ここからが本題である。
「今回、私たちがこの場に来たのは、陛下にお伝えしておくべき情報があったからです」
「伝えておくべき情報?」
小さく頷いて、私は告げる。
「先日、魔王直属の配下にして四天王が一人、ラクライールより、この城の襲撃が予告されました。日時は不明ですが、確とお伝えしましたので、対策及び迎撃の準備の方をよろしくお願いします」
「ちょっと待て。四天王が来たのか?」
「わざわざ宣戦布告するためだけに、ここまで来たみたいですけどね」
陛下が難しい顔をしながら、頭を抱える。
「……勇者である君たちから見て、奴らの目的は何だと思う?」
「勇者ーー特に、桐生君たちの行動を封じることでしょうね。召喚されたばかりの彼らを狙って、こちらの戦力を減らした方が、彼らも楽でしょうし」
そもそも、いくら能力制限された私も居るからって、自分たちの目的のために、あいつが躊躇するはずがないのだ。
「そうか。情報提供、感謝する」
「もしもの場合は、私たちも迎撃させてもらいますので」
「分かった」
失礼します、と言って、執務室を出る。
「珍しく口出ししなかったけど、どうしたの?」
「うん? 特に口出しするようなことも無かっただけだが?」
つまり、本当に私を執務室に連れて行っただけってことになるんだけど。
「それにしても……何て言うか、やっぱり、その姿の方がしっくり来るな」
「そう?」
「らしい、っていうか。見慣れてるっていうか」
ふむ。今の私は勇者装束だからなぁ。陛下に会うからと執務室に行く前に、わざわざ着替えたし。
「ねぇ、向島君」
「何だ?」
「一緒に来てくれたお礼も込めて、手合わせしようか」
「え、マジで?」
マジですよ。
「もちろん」
「じゃあ、俺たちが本気出すとヤバいから……自分たちの裁量で調節、ってことで」
「了解。じゃあ私は、剣を取りに行ってくるよ」
「ああ」
向島君に見送られながら、使い慣れた剣を部屋に取りに行く。
さぁて、どこまで応戦してやろうか。
榛名視点なので、書きませんでしたが、勇者装束の時は髪をポニーテールにしています