第七話:早くも再会する
どういうこと?
うちのメンバーはまだ良しとしよう。だが、イースティアの勇者一行も一緒に登城してきたとは、本当にどういうことだろう。
偶然、会った、とか?
それに、陛下はどうするつもり?
「そうか……では通せ。次にいつ謁見できるか分からんからな」
「畏まりました」
陛下の命に、兵士が勇者一行を通し始める。
「君たちも、これから他国の勇者とは会うことになるだろうが、もし今それが可能なら、先に顔合わせしておいた方がいいだろう」
それは間違ってはないと思うけど、私をちらちらと見ながら言われてもなぁ。
陛下の前まで歩くウィルたちだが、途中で私に気づいたのか、ぎょっとしていた。
彼らに続いて入ってきたイースティアの勇者一行には、一瞬ざわめきが起こった。
彼ら曰く、“永久詠唱”が帝国に、らしい。
どうやら、彼女のことは見た目も含め、この国にも伝わっていたらしい。でもまあ、彼女ぐらいの実力者なら、どの国も欲するのは当たり前か。それが能力目当てだとしても。
“永久詠唱”。
イースティアの勇者一行の一人、クリスフィア・フォードという少女の二つ名にして、称号。
その能力は、全てとはいかずとも、ほとんどの魔法の行使を可能とし、どんなに長い詠唱でも『永久』とある通り、途中で途切れさせても、言い終えていれば発動が可能。
また、通常なら一つずつ詠唱を紡ぐが、一人同時詠唱も可能となる(本人曰く、慣れるまでは何とも言えなかったらしい)。
「何て言うか、オーラが違うな」
「ああ……」
「“永久詠唱”……?」
そう小声で話しながらも、やや首を傾げる桐生君たちだが、私は彼らに“永久詠唱”について、教えるつもりはない。知りたければ、自分で調べろ。
そうこうしていれば、彼らは自己紹介を終えたらしい。
「ああ、そうだ。君たちの後ろにいるのが、我が国の勇者たちだ」
……陛下。わざとですか。まさかとは思いますが、狙ったりはしてませんよね?
ウィルたちと目が合ったけど、「後で合流して、事情説明しろ」と訴えられた。
イースティアの勇者一行も空気を読んでくれたらしく、何も言ってこない。
「……肝心の勇者不在ではあるが、ノーウィストの勇者一行の一人、ウィルハルト・ユークリウスだ」
「同じく、ララティアナ・グランドベルグ」
「同じく、勇者一行の一人にして、ノーウィスト王国第二王女、フィアーナ・ツヴァイ・ノーウィストです」
小さく溜め息を吐いて自己紹介を始めたウィルに倣うように、ララとフィアーナ殿下も自己紹介していく。
「じゃあ、次はこっちの番だね」
そう言いながら、イースティアの勇者一行が少し前に出る。
「イースティア帝国から来た勇者、向島椿樹です。よろしく。あと、名前で分かると思うけど、君たちと同じ召喚勇者だから、年齢も近そうだし、遠慮なく話しに来てくれて構わないから」
いや、確かに先輩勇者で話し相手にはなるけどさ。
主に、私や栗山さんの方を向きながら言うのだけは、止めてほしい。
もし、これで桐生君たちに私のことがバレたりしたら、許さない。
「“永久詠唱”こと、クリスフィア・フォードです。魔法に関しての相談になら、乗れると思います」
彼女の自己紹介は、向島君のを参考にしたんだろうな。
それにしても、二人がやや長めだったせいか、ウィルたちの方が内容的には短かった気がする(名前と地位ぐらいしか言ってなかったし、私も人のことは言えないが)。
「アスハルト・ディーゼルだ。ここに居る間、剣の相手なら出来ると思うから、遠慮なく声を掛けてくれ」
帝国騎士でありながら、銃も扱えるという『銃剣』使い(普通はどちらか片方)。
イースティア勇者一行内では最年長の二十歳で、良き兄貴分的な人でもある。
「……レアトリア・ノートン、です。よろしく」
口数が少ない神殿関係者で、今は緊張からかおどおどとしているけど、向島君を召喚したのは彼女(とのこと)。
さて、こうしてイースティアの勇者一行の自己紹介が終われば、必然と私たちが名乗る番となるわけで。
「……鷺坂榛名、です」
名乗る順番は陛下に名乗った順で名乗り、桐生君から始まり、栗山さんの後に自己紹介したわけだが。
演技だったなら良かったのだろうが、演技じゃないから、何かストレスになりそうだ。主にメンタル面の。
「では、勇者同士の挨拶も終わったようだし、今度こそ解散としよう」
陛下の声に、私たちは立ち上がり、偉い人たちも少しずつ去っていく。
「じゃあ、俺たちもそろそろ出るか」
桐生君の言葉に、吾妻君たちが頷く。
「……鷺坂さん?」
栗山さんに大丈夫? と心配そうに顔を覗かれる。
どうやら、何の反応もしなかったから、不思議に思ったらしい。
「ああ、ごめん。ちゃんと聞いてはいたから」
「なら、良いんだけど……」
だが、本当にこの先どうしよう。
そろそろ私がノーウィストの勇者であることを暴露するべきだろうか。エレンシア殿下には性別も含めて。
けど、下手に言って良いことでもないし、こればかりはタイミングの問題だろう。
「また後でな」
謁見の間から出る際、すれ違い様にウィルからそう言われる。
まあ、愛剣も勇者装束も彼らから受け取らなくてはいけないから、否が応でも会わなくてはいけない。それに私、このままだと魔法以外の防御方法が無いままだし。
とりあえず、ウィルたちとの接触方法を考えつつ、謁見の間を後にした。