第六話:少し時間を巻き戻して
仲間の魔導師視点です
サーリアン国・王都近郊。
「そろそろじゃないか?」
「そうだね」
王都を前に、騎士であるウィルに言われ頷けば、周囲を確認し、木々の合間に移動する。
そして、慣れた手付きで魔法陣を展開するのだがーー
「あれ?」
「どうしたの?」
「反応がない」
何度喚び掛けても、反応は無し。
さすがに周辺警戒していたフィアーナ殿下も、こちらの異変に気づいたらしい。
こんなことは今までに無かったから、どう判断すれば良いのか分からない。
「何かあったということか?」
「んー……」
「榛名のことだから、逃げ出したってことは無いとは思うが……」
向こうと行き来できるのなら引き受ける、と言った榛名なのだ。だから、彼女がそう簡単に召喚拒否するとは思えない。
「そういえば、この国も勇者召喚したみたいだけど、そっちに居るってことは無いわよね?」
「……」
「……」
思わず無言になった私たちは悪くない。
否定は出来ないけど、その可能性があることも確かなのだ。
「登城、するか?」
「もし、本当に召喚されていたら、居るかもしれないしね」
「あくまで確認よ。そう、確認」
うんうんと三人で頷きあった後、溜め息を吐く。
「……とりあえず、行きましょうか」
そんな殿下の一言に、私たちは移動を開始した。
☆★☆
「ん? 君たちは……」
「イースティアの、勇者? 何でここに?」
登城するために、王都に入った私たちは、そこで偶然か否か、イースティア帝国の勇者一行と会った。
「ああ、そうだ。ノーウィストの勇者一行」
思い出したかのように言われる。
「それで、肝心の勇者様が見当たりませんけど、どうなさったの?」
そう尋ねてくるのは、“永久詠唱”という二つ名を持つ魔導師、クリスフィア・フォード。
「あそこ」
私が代表して城を指差す。
「珍しく別行動中? 誰か一人は一緒かと思ったんだけど」
「いつも一緒に居るわけがないでしょう? 一人で居たいときだってあるのだし」
相手の言い方に反応したフィアーナ殿下が、そう言い返す。
「別に、俺たちは君たちの行動に文句を言うつもりはないよ。これまでと目的も変わらないしね」
目的、ね。
「そうですか。そちらは今から登城するんですか?」
「だね。一応、挨拶はしておかないと」
思わずウィルとフィアーナ殿下が顔を見合わせる。
「俺たちも同行しますよ。うちの勇者を回収しないといけないので」
「別に構わないよ。俺たちも久々に会いたいし」
「……」
ウィルの言葉に、俺たち、とは言っているが、どこか嬉しそうに笑みを浮かべるイースティアの勇者。
「それでは、行きましょうか」
こうして、フィアーナ殿下の一言により、私たちノーウィストの勇者一行とイースティアの勇者一行は登城するために、城へと向かうこととなった。
ねぇ、榛名。もし、城に居るのなら、どうか大人しく城に居てくださいね?