第五十話:襲撃者たちの主に会いに行く
「ったく、たかだか冒険者だか旅人だかに対して、何をやってるんだ!」
港から見て、少し高台になっている場所に存在する屋敷の一角で、少しばかり裕福そうな男が、机に拳を叩きつける。
「申し訳ありません。しかし――」
「しかしも何もあるか! 見張るだけでいいと言ったのに、手を出した挙句、返り討ちに遭うとは……」
頭が痛い、と言いたそうに頭を抱える男に、報告に来た黒装束の男は困ったような表情を滲ませる。
「その上、私が主だとバレて、そいつらが会いに来るだと!?」
男が怒鳴るように問えば、「はい……」と黒装束の男は返す。
それに、まさかそのことだけを伝えるためだけに、その旅人たちによって、先に屋敷へと向かわされたなんて言えるはずもない。
もし、そんなことを言ってしまえば、自分たちの主が誰なのかまでバレてしまう。
「まあ、いい。いざとなれば握り潰せば良いだけだしな」
こちら側に不都合なことがあれば握り潰す。
何度かやって来たことだ。
「……」
「何だ。まだ何かあるのか」
「……いえ」
言いたいことがないわけではない。
けれど、今この場で言ったところで無意味なことになるのは、黒装束の男とて理解していた。
「――旦那様」
会話が終わったと判断したのだろう、男付きの執事が姿を見せる。
そして、告げる。
「お客様が参りました」
☆★☆
「事前連絡も無しに、いきなり訪れて申し訳ありません」
屋敷の主が姿を見せ、席に着けば、開口一番にそう謝罪する。
事前連絡については、彼の足であろう彼らが伝えているのかもしれないが、私たち自身では取ってないので、間違ったことは言ってない。
「それで、用件はなんだろうか? 君たちにしてみればこちらに出来ることなど、それなりにはあるが」
口調は優しいが、内心で怒っていることは想像しやすかった。
そもそも、一冒険者相手であれば、門前払いすることも出来たはずなのだが、それをしなかったということは、何らかの目的があるのだと考えてしまう。
――まあ、いざとなれば国側に相談するまでだけど。
ぶっちゃけ、屋敷の主からは本題に早く入れ。内容次第では金で解決してやるから――と言われているようなものだが、こっちにそのつもりは無いので、さっさと目的を告げる。
「いえ、私たちがこうして来たのは、金銭目的などではないので、その辺りはお願いしませんよ」
「……と、言うと?」
怪我をさせたはずの相手からの要求であれば、金銭面が最初に浮かぶはずなので、それ以外と言われると、あちらからしてみれば、その疑問は尤もなのだろう。
「正直、貴方がたが何のために私たちに見張りを付けたのかというのも、その点についてはどうでも良いです」
「そもそも、見張りとは何のことやら……」
どうやら、知らばっくれるつもりらしい。
「ああ、ごめんなさい。別に貴方がたのところの者とは言い切れないんでした」
「……」
しまった、と言いたげに、反応して見せつつ、自分たちの身に起きたことを説明するべく続ける。
「実は、この町に入って以降ですかね。何者かが私たちに見張りを付けていたようで。そして、ある程度してから、その人たちに襲われたんですよ」
「それは……災難でしたな」
「故に、そんな輩がこの町にいるという報告も兼ねて、ここを治めていらっしゃるであろうこちらへ報告も兼ねて来させていただいたというわけです」
「そうか、そんなことが……」
「誰かに襲われた」ということに関しては、本来であれば、その場を治めている領主などではなく、ギルドや自警団などに報告すれば良いことなのだが、あくまでも、こことは関係ないかもしれないと装いつつ、本題を告げる。
「ですがもし、我々を襲ったのがこの家の関係者であるのなら、次からは相手の力量を見誤らないよう、きちんと指導してもらいたい――それが、私たちの希望です」
本来であれば、最初に言われたように、金銭要求しても良かったのかもしれない。
けれど、私たちは支給金含め、そこまで困ってないし、そもそも今回の件は、相手が私たちだったから良かったものだ。相手が相手なら、口止め料も要求していたはずだろうし。
「……用件は、それだけかな?」
「そうですね。後はかなり個人的なことになりますが――故郷を思い出すものと出会えたので、それを無くさないでいただければと思います」
「……善処しよう」
『故郷を思い出すもの』が何なのかを伝えてないというのに、聞いてこないということは、後であの襲撃者たちにでも聞くのだろう。
その後、軽く挨拶をして、屋敷を出ていく。
「旦那様」
男付きの執事が主へと声を掛ける。
「セバス。無闇に喧嘩を売るなと、奴らに伝えておけ。今の連中みたいなのならともかく、厄介な連中であれば、こちらの首が絞まりかねんかったぞ」
「念のため、彼らを調査なさいますか?」
「いや、今はいい。ただし、見張りは続行しろ。だが先に言ったことを伝えておいてくれ。その事だけは忘れるな、ともな」
セバスと呼ばれた執事は、了承の意を示し、その場を後にする。
部屋に一人になったところで、屋敷の主は大きく息を洩らした。
「……」
精鋭とまではいかなくとも、彼らにはそれなりの技術や知識を与えたはずだ。
だというのに、撃退された挙句、相手の来訪だけではなく、忠告を受けてしまった。
『ですがもし、我々を襲ったのがこの家の関係者であるのなら、次からは相手の力量を見誤らないよう、きちんと指導してもらいたい――それが、私たちの希望です』
そう告げる女冒険者の目と発する気配に、思わず従うような発言が口から出そうになるのを何とか耐え、話は続けたが、正直思ったのは、あの程度で収めてくれてよかった、ということだろう。
甘いと言えば甘いのだろうが、再び彼女らに手を出せば、今度こそ反撃されかねない。
彼ら――黒装束の男たちは弱くはないし、弱いわけでもない。
ただ、今回は相手が悪かっただけだ。
一介の冒険者たちが相手なはずなのに、妙な威圧感から屋敷の主は上から行くどころか、通常の対応をすることしか出来なかった。いや寧ろ、通常の対応を出来ていたのかどうかも分からない。
とりあえず今は、一刻も早く、あの冒険者たちが町から出ていくことを、屋敷の主は願うことしか出来なかったのである。




