第五話:国王に謁見する
「……」
国王との謁見は大切である。
国王というのは、その国のトップであり、たとえ国民でも、普通なら謁見できることすら出来ない。
だが、私たちは今、そんな国王の前にいる。
そう、『サーリアンの勇者』として。
「……」
でも、何だろう。すっごい、視線を感じる。
いやまあ、『ノーウィストの勇者』として、この国に挨拶しに来たことはありますけど。
「すまんな。こちらの仕事が遅れたせいで、君たちへの挨拶が遅れた」
「いえ、あまり気になさらないでください。僕たちが悪い所もありますから」
陛下の挨拶に、桐生君が否定する。
まあ、出だしは良いかな。
「それでは、それぞれ順に名乗らせてもらいますね」
そして、桐生君から順に、名乗っていく。
「僕は桐生隼斗と言います。桐生が姓、隼斗が名前です」
「吾妻鶫です。吾妻が姓、鶫が名前です」
「鷹槻葵。鷹槻が姓、葵が名前です」
「栗山胡桃です。栗山が姓、胡桃が名前です」
栗山さんに関しては、視線で先にするように言えば、何とか通じてくれたのか、前の三人に倣いながらも戸惑いのある自己紹介となった。
「そして最後に、鷺坂榛名です。鷺坂が姓、榛名が名前です」
そう名乗れば、並んでいたお偉いさんの何人かがぎょっとしたため、「後で説明するから、とりあえず黙ってろ」という意味を込めて、そちらに目を向ける。
まあ、前は名前・姓の順で名乗ったから、気づかなかった人も居たみたいだけど。
「うむ、気を楽にするがよい」
国王陛下、さすがです。こちらとしては、話が通じてくれて、ありがたいです。
「さて、この世界の者としては情けないほど、この世界と無関係な君たちに勇者として、これから働いてもらうことになるのだが……」
全体を見回してから、また一瞥された。
「特に反対意見は無いな?」
あははー、私の時は女だからって理由で認めないなんて、変な言い掛かりをつけられたからなぁ。
でも経験上、大体こういう時って……
「……」
おや、珍しい。悔しそうな顔をしながらも反論無しか。
陛下も反論してくることは予想していたのか、彼を一瞥し、確認している。
このことから察するに、私の時の件が尾を引いているのか、それともやっぱり、あの時は『女勇者』だから、反論したのか。
「……」
それよりも今は、ラクライールの襲撃予告をどう伝えるのかが問題だ。
私が勇者だと知る面々は問題ないとしても、桐生君たちを筆頭に、私が勇者だと知らない面々が居ることが問題だ。
あと、勇者としての装束が無いのも痛い。
「何も無いようなので、これにて……」
「謁見中、申し訳ありません!」
解散を宣言しようとした陛下の声を遮り、慌てたように兵士が謁見の間に入ってくる。
「何事だ」
「それが、ノーウィスト王国の勇者ご一行様とイースティア帝国の勇者ご一行様がお見えになり、陛下との謁見を願い出ております!」
……はい?