第四十九話:倒しきるのが先か、到着するのが先か
フィアーナ・ツヴァイ・ノーウィスト視点。
息を切らして、町中を駆けていけば、目的の人物はそこにいて。
「マジで、時間掛かってるし」
倒れてる数もそうだが、未だに立ってる数も数で。
結局、合流後はその数も減らせたけどまだまだで。
「全く、貴方が時間が掛かってるなんて、予想外もいいとこよ」
「すみません。でも、俺としても予想外だったんですよ」
ウィルと視線を一瞬だけ交わし、すぐさま目の前の相手の攻撃を防ぐ。
「榛名がララの方に行ってるけど、多分あっちが早く終わる」
「だろうな」
「私たちが倒し終えるのと、あの子たちが来るの。どっちが先かしらね?」
そんな問いをしてみれば。
「もちろん――こっちだ」
ウィルが剣を振り抜けば、相手が二人、倒れていく。
「そうね。このままだとあの子たちの討伐者数が上がっちゃうし」
「は? 何、競ってるのか?」
「そういうわけじゃないけど、絶対あとで何人倒したかの話になるってこと」
「なるほどな」
どうやら、納得してもらえたらしい。
「それじゃあ、誰一人逃がすわけにはいかないな」
「スイッチ入れるの、遅すぎじゃない? 騎士様」
「でも、最初から本気を出すよりはマシだと思いますよ?」
裏拳で今にも私に襲いかかろうとしていた奴を倒しながら、ウィルとそう話す。
「そういうもの?」
「そういうもの」
ウィルはそう返すけど、それが出来るのは相手の実力が自分より下の場合だからね? とは思っても言えない。
だって、私たちの目の前にいるこいつらの実力が、私たちより下であれば必要以上に煽った上に逆ギレでもされれば面倒だし、私たちと同じかそれ以上だったとしても、本気になったウィルや榛名に勝てるのかを問われると、答えはノーとしか言いようがない。
「でも、うちの勇者様は心配性だからね」
私たちの存在がどういう存在なのかを示すかのように言ってやるが、きっと気付きもしないだろうし、分かることもないのだろう。そんな彼らの様子を見てみれば――……
「……うん、やっぱり効果なし!」
「何らかの効果があると思ったら大間違いですよ。城勤務の騎士とかならともかく、辺境とかにいる一兵士とかが勇者とその一行の顔を知ってるとは思えません」
ウィル。それ、もしかしなくても煽ってる……?
煽るというのはこういう風にやるんだとばかりに、ウィルが親指を立ててこちらに向けてきている間に、お相手の方は見事に引っ掛かったらしい。
「っ、好き勝手言わせておけば……!」
「おい馬鹿、やめろ!」
……性別と大体の年代の把握完了。
「相手がどんな人たちなのか大体でも分かれば、こっちも楽に手を打つことができる」
だからこそ、もう終わりにしよう。
「貴方たちが、何で私たちを追ってきたのかは気になるけど、それはもういいや」
キィィィィンと甲高い音を立てながら、指輪が宙を舞う。
「これからのことを予知してあげる。貴方たち、今から全滅するよ?」
だって――
「いぃぃぃぃやぁぁぁぁ!!!!」
遠くの方からこちらに近付いてくるようにして響いてくる、ずっと聞きなれた仲間の悲鳴のようなものと、
「うん、何とか間に合ったね」
私たちの背後の壁の上に、その姿を見せてくれた彼女。
「……ララ抱えたまま、屋根飛び越えるは、路地裏走り回ってきた勇者様に言われたかねぇな」
「対人戦闘が本職の癖に、私よりも遅れてる人に言われたくないなぁ」
ウィルの言葉に、壁の上からひょいと降りてきながら彼女は言う。
「さてそれじゃ、ご主人様の元へ案内してもらおうか」
……正直、不安しかない。




