第四十七話:懐かしいものを口にする
【謝罪】実は、第四十五話部分に新たな内容を差し込んだこともあり、話数は違えど、それ以降の内容を一つずつずらしたことによって、今回の内容が以前投稿した内容と同じものとなっております。
故に、2019年7月20日までの間に、7月分として掲載していた『懐かしいもの』を読まれた方は、今回の話を読み飛ばしていただいて構いません。
この事もあり、『クレトファルト編』の開始話数は『第四十六話』からとなります。
もし、混乱された方がいらっしゃいましたら、申し訳ありません。
結論から言えば、町の中に入ることは出来た。
ただ一つだけ問題があるのだとすれば、町に入る前に私たちの会話を聞いていた者たちが、私たちをこっそりと付けてきていることだろう。
……まあ、こっちに気づかれている時点で、その実力は察せられるのだが。
「さて、どうする?」
「どうしようか」
他の人たちから見れば、普通に歩きながら話しているように見えるんだろうが、付けてきている人たちがもし読唇術を使えるのであれば、きっと私たちの会話――どうするのかの話し合いも読み取られているのだろう。
「下手に撒こうとすれば、余計に怪しまれるよね」
「やっぱり、入る前にあんな話してたから、警戒されたのかな?」
「つか、あんな話してた奴ら全員に尾行なんて付けてたら、どんだけ人がいても足りないぞ」
ウィルの言う通りだ。
「それはそうだけど、私たちが目を付けられたのは、単に私たちしか居なかったからか、それとも別の理由なのか」
「まあ、フィアーナに手出しされたら、こっちに大義名分が出来るから、なるべくなら手出ししないでほしいけどね」
これでも勇者一行だから、普通の冒険者や暗殺者ぐらいならどうにか出来る自信はあるけど、もし裏に魔族とかが存在するなら、下手に手出しは出来ない。
「ねーねー、こんなの見つけたー」
ララが何かを買ってきたのか、こっちにまで持ってくる。
パックに詰められた、丸い八つのもの。
「これね――」
「たこ焼きだね」
説明しようとしていたララを遮ってその名を告げれば、彼女はムッとしたかのような顔をする。
「もー、何で先に言うかなぁ」
「いやだって、私がよく知る物そのままだし」
青のりとかつお節、ソースとマヨネーズ。
これだけあれば十分な気がするけど、一パックにかなり詰めたような気もする。だって、一パックにソース四つとマヨネーズ四つの分け方って、どうなのよ。
「知ってるって……」
「元の世界じゃ、結構有名な食べ物だよ。出来立ては火傷に注意しないと駄目だけど」
「そうなんだ」
道の端に寄って、四人で一つずつ口に入れる。
そういえば、見た目がたこ焼きだから完全に油断してたけど、中に入っているのが蛸だとは限らないんだよなぁ。異世界だし。
作ってる人のところに目を向ければ、小さく切られた赤いものが見えたので、きっと元の世界と似たような蛸なのだろう。
「ん~、久しぶりだぁ。この味」
「結構、美味しいわね」
「なふぁ、あふぃな」
「一気に放り込むからでしょ。榛名も火傷注意って、言ったばかりじゃん」
滅多にこういうのを食べられないフィアーナ殿下は何やら感心しながら食べ、ウィルは丸々一つ放り込んだために、ララから水を貰っている。
「これ、我が国でも出来ないかしら?」
「海沿いとかなら可能かもしれないけど、内陸付近とかまでに持っていくなら、それなりの保存方法が無いと難しいかもね」
冷蔵庫とかがあったなら、まだ何とかなったのだろうが、基本的にこの世界は魔法がメインだし、内陸付近の街とかに持っていけたところで、駄目になっていては意味がない。
「そっかぁ……やっぱり、そこかぁ」
「前もこういうことがあったよね。結局、運搬や保存方法の問題で頭悩ませてたけど」
「だってさぁ、こんなに美味しかったら、広めたくなるでしょ?」
屋台のおじさんが聞いたら喜びそうな言葉だが、距離が距離、声音が声音なので、聞こえることも届くこともない。
「そういえば、結構有名って言ってたけど、他にはどんなのがあるの?」
「それは味について? それとも、たこ焼き以外について聞いてる?」
「味」
うーん、味かぁ。
「他には醤油やポン酢とかがあるけど、場所や地域によって違うかなぁ」
確か、他にもいろんな味はあったはずだけど、私自身が醤油派、時折マヨネーズ付き派だったからなぁ。
「でもまあ、たこ焼き自体は好きだよ」
そう返してから、残っていた半分を口の中に放り込む。
ちなみに、私たちを尾行している人たちは、というと、私たちが立ち止まってたこ焼きを食べているので、あちらもあちらで何かを口にしているらしい。
「こっちが食べてるから、自分たちも何か食べるとか、何だか余裕そうだねぇ」
「別に良いんじゃない? あちらさんに合わせる必要は無いんだし」
私と同じように、何かしていることに気づいていたらしく、感心したかのように告げるララにフィアーナ殿下がそう返す。
「ま、今は好きにさせといていいだろ。変に姿を消したり何なりすれば、余計に疑われかねない」
「こっちは別に疚しいこととか、あるわけじゃないしねぇ」
最後の一口を放り込んだララを横目に見つつ、私も最後の一口を放り込む。
「さて、それじゃ――」
再びこの場に集合ということで、元々の目的――食料調達など――を達成するために散り散りに解散する。
さぁて、尾行組の中で一番の手練れは誰のところに来るのかな?




