第四十六話:どこか不穏な空気を感じる
さて、サーリアン国の王城と王都を出た私たちは、とりあえずの目的地として、召喚国であるノーウィストを目指すこととなった。
というのも、ここサーリアンで召喚される前に報告などで戻ったのが随分前だったこともあり、徒歩だったり、馬車を利用したりしながら向かっているわけだが、、私のように巻き込まれる人を今後出さないためにも、このことを広めてもらわなければならない。
「それにしても、ようやく私たちらしくなったね」
ララが嬉しそうにそう告げる。
現在、私たちは王都から見て西に二つ進んだ町を発ち、フィアーナ殿下たちがやって来た方向からは逆のルートを辿っていた。
というのも、同じ道を逆戻りしたところで、通っていない私以外、何の面白みも無いだろうし、何より少しでも早く旅をして、目的地に着きたかったというのが本音だ。
「それで、このまま行くと『クレトファルト』だっけ?」
「そうだな」
私の確認に、地図の管理を任されているウィルが頷く。
「確か、港町だとか言ってたよね」
旅をする中で、何回か港町とかに行ったことはあるけど、他と似たような所もあれば似てない所もあって、更には滅多に見ることが出来ないこともあり、割と楽しんでいた記憶がある。
「何もなければ良いけどなぁ……」
「無かったら無かったで、その次に大きな面倒事が降ってくるけどね」
ララよ、それを言っちゃあ、お仕舞いだ。
「何も無いなら無いでいいじゃない。ちゃんと食料調達とかして、備えれば良いんだし」
「それもそうだね」
フィアーナ殿下の言う通りである。
「それじゃ全員、通行証明と料金準備しようか」
クレトファルトには現在、関所のようなものがあるらしく、町にやってくる人たちに対して、通行料を徴収しているらしい。
これには貴族などの例外はなく、冒険者たちもスルーさせてはもらえないらしい。
「今まで無かったのに、徴収してるの?」
「一時的なのか、方針転換なのかは知らないが、現状がそうなってるんだから、俺に何か言われたところで困るんだが」
何だろう。
あんな話していたからだとは思いたくはないけど、嫌な予感しかしない。
「……もし何かあっても、巻き込まれる前にすぐに発とう」
正直、ゆっくりと見て回りたいが、騒動に巻き込まれるのだけはごめんだ。
「城だと当事者だったけど、逃げられるなら逃げておきたいからね」
「でも、そう言っておいて、困ってる人が現れたら、助けちゃうのが、うちの勇者様よね」
フィアーナ殿下。それは巻き込まれるのが前提だと言っているように聞こえるんですが?
「それはみんなも一緒でしょ?」
「そうかもしれないけど、榛名ほどじゃないよ」
ララに一刀両断されてしまった。
そんなことを話ながら、町に入るための列に並ぶ。
「うわぁ、結構並んでるなぁ」
「馬車の方も結構並んでるね」
一応、徒歩と馬車などの列は分かれているが、馬車などの列もかなり並んでいる。
「すみません。ここに並んでどれぐらいになりますか?」
「はぁ?」
前に並んでいた人に尋ねれば、変なものを見るかのような目を向けられる。
きっと待たされ過ぎて、イライラしていたのだろう。
「そんなこと聞いて、どうするんだよ」
「もし、まだ待たないといけないと言うのであれば、予定を変えなければならないので……」
他にも関所がある所はあるが、割とスムーズだった気がする。
「それで、時間はどのぐらいですか?」
「一時間だよ、い・ち・じ・か・ん!」
もう話しかけんなとばかりに怒鳴られてしまったが、さてどうしたものか。
「どうする? この列、最低でも一時間以上は並んでるってことだよね?」
――何で確認するだけで、そんなに掛かってる?
――関所の設置が初めて、もしくは日が浅いからかもしれない。
――配置されてる人数の可能性は?
――徒歩側と馬車側。少しずつだが、進んでいることから、最低でも二人いることは予想できる。
分かる範囲でだが、そんなことを脳内で自問自答する。
「このまま――このまま並ぼう。最前列の様子が気になる」
関わる前に逃げようと言っていた数分前の自分の発言をあっさり破ったわけだが――……
「そう言うと思ったよ」
「宿、あるかしらねぇ」
「この列から察するに、ほとんど絶望的だけど、頑張って探すしかないよねぇ」
どうやら、私のそういう面での信頼度は無かったらしい。
そして、宿は何とかして手にいれないといけない。寝食をする場所として、必要なのは言うまでもないが、調査を進める上でも必要となる拠点でもあるのだから。
「さぁて、それじゃ大人しく並んでいましょうか」
何か問題を起こすよりも、大人しく待っていた方が、きっと早くクレトファルトに入れることだろう。
こうして、私たちは町に入るそのときまで、列に並ぶことになったのだ。




