第四十話:言葉の応酬を繰り広げる
クリスさんたちと別れ、再度一人で奥へと歩いていく。
クリスさんたちがいる場所までの道程でもそうだったが、奥へ進むに連れて、倒れている人の数が比でないぐらいに増えている。
「……足りるか? これ」
あまりモンスターとか以外の『敵』と遭遇してないからか、持ってきたポーションとかの数に気が逸れるが、こちらを襲ってくるモンスターたちを倒すのが作業みたいになってきているのだから、少しばかり他の事にも目を向けたい。
「……」
どれくらい歩いたのか、正確な時間までは分からない。
でも、とにかくたくさん歩いたのは、身体の疲れから察せられる。
「……さぁて、本当にどうしたもんかね」
そろそろ最深部に着いても良さそうなのだが、着く気配がない。
やっぱり、意図的に遠ざけられてる?
でも、クリスさんたちの元に着くまで掛かったことから、実は最深部に到達するにも同じくらいの距離が必要なのかもしれない。
「……あれ?」
目の前に人の気配みたいなものがしたので、一度立ち止まるが、こちらに来る様子も、襲いかかって来る様子もない。
「……」
正直、このまま進むと不意打ちされる可能性もあるので、さらに警戒して足を進める。
それにしても、本当にいや気が充満したものである。
『ーー』
「ーーっ、!?」
何かの気配がしたので、すぐさま振り返るが、そこには何もなく。
「……ラクライールがマシだと思えるようになったとか、私も大分毒されてきたもんだわ」
それが恐怖心からなのは否定しないが、魔物やモンスターと戦っておきながら、心霊現象にビビるとかどうなのよ。
こんな空気の中でやりたくはないが、軽く深呼吸して、足を動かす。
今は何よりも、向島君を見つけなければならない。彼が無事か否かで、今後の行動も変更せざるを得なくなるし、個人的には同じ勇者である彼とは戦いたくない。
それでも、もし彼と戦わないといけないというのならーー……
「全力でやるしかないよね」
敵の手に落ちた奴相手に、負けてやる気などないけどね。
「……」
「あ」
噂をすれば何とやら。
ご本人様が、こちらをじっと見ていた。
「無事?」
「ああ。そっちは……」
「見ての通り、無事だね」
見た限り、いくつかの傷はあれど、体力も魔力もそれなりに回復はしているらしい。
うん、だけどね。
「……」
「……どうした?」
笑顔を向けてみるが、不思議そうな顔をされる。
「いや、みんな心配していたからね。本当に無事で良かったよ」
この目の前にいる向島君は、本物か偽物か。
「ところで、こんなところに居るってことは、もう奥には行ったの? まだ?」
「まだだな」
「そっか。じゃあ、一緒に行きますか」
「ああ」
とりあえず、会話はしてみるけど、本物なのか、偽物なのか。これといった決定打がない。
「……」
「……」
「……」
「……」
隣に並んで歩くものの、お互いに無言だから気まずい。
偽物の可能性があるから、下手に話を振ることも出来ない。
……いや、確認する術はあるんだけども、そのタイミングが問題な訳で。
「……あの、さ」
「何だ?」
「……」
「何だよ」
「…………」
「ハルナ?」
こちらが頑張って話を振ろうとしていたのに、何で……何でかなぁ。
足を止めた私を、不思議そうに見てくる。
「……いきなり、どうしたのかな」
「それは、こっちの台詞だ。さっきから様子が変だぞ」
「様子がおかしいのは、そっちも一緒だよね」
彼と会って、二人でどれだけの距離を歩いた?
もう着いていてもおかしくはないし、魔物やモンスターたちだって襲ってきてもおかしくはなかった。
でもーーそれが起きないってことは。
「君は私のことを『榛名』なんて呼ばないし、もし呼んだとしても『お前』とか『名字』で呼ぶんだよ」
だから、剣を鞘から抜いて、私は尋ねる。
「――一体、君は誰? 本物の彼はどこにいるの」
さぁ、どう答える?
「何、言ってんだ? 俺ならここに居るし、そんな事より早くそれを仕舞えって」
何となく自分に向けられることを察したのだろう、こちらを宥めに来る。
けどねーー……
「あくまで、知らん振りか」
知らん振りなら知らん振りで構わない。
だって、この抜いた剣は、この場を壊すためのものなんだから。
「っ、」
振り上げられ、床に突き刺さった剣により、地面には罅が入り、それは少しずつ天井へと伸びていく。
「悪いけど、幻覚とかで騙されてる時間なんて無いから」
はらはらと落ちてくる、その場を覆っていた空間の欠片の中でそう告げれば、
『なるほどなぁ』
偽物の方は、まるで納得したかのように、向島君のものではない声に変えて返してくる。
きっと、この声が奴本来の声なのだろう。
『だが、偽物だと分かったところでどうするつもりだ? この身体は間違いなく、こいつ自身のものだぞ?』
実はそこが問題だったりする。
光属性がフルで使えるならまだしも、限定的なーーそれも指輪に込められた分だけでは、向島君を救うことなんて、きっと難しいのかもしれない。
「だろうね。こうして幻術を解いたのに、姿が見えないってことは、貴方がコピーして作り出したのではなく、彼の意識を乗っ取ったと言った方が説明はつくし」
正直、奴が作り出したものであれば、遠慮なく壊せたことだろうし、どんなに楽だったことか。
「けど、まさかーー乗っ取ったぐらいで、私に勝てると思ってないよね?」
それがもし本当なら、仮にも勇者である私のことを嘗めすぎである。
『それこそ、まさかだ。こいつの記憶を探ったからな。貴様の強さは理解している』
「理解、ね」
だったら、その認識を変えてやるのも面白いのかもしれない。
そう思いながら、くっくっと笑っていれば、どうやら気分を害したらしい。
『……何がおかしい』
「実際、経験してる彼と、彼の記憶の中にある知識からしか知らないお前。本当に対応できるの?」
身体が覚えていて回避できたのだとしても、それは最初だけだろうし、そもそも頭が追いつかなければ、二度目には当たる。
逆に、最初は見切れずとも、少しずつ慣れてくるパターンもあるーーわけだが、多分こいつは前者に該当するはずだ。慣れさせなければ、こちらに勝機はあるはずだ。
『ああ、出来る。貴様が来るまで、何度も確認とかをしたからな』
そして、と奴は続ける。
『貴様も我が取り込んでやろう。なぁに、悪いようにはしないさ。我らがその肉体も有効活用してやろうぞ!』
『ソウダ』
『ソウダ』
『我ラノ傀儡トナレ。人間ノ少女ヨ』
どうやら、周囲に存在するの味方が居るせいか、奴は自身の勝利を信じて疑ってはいないらしい。
それと、発音が微妙に違うことから察するに、きっと奴も元の話し方は周囲の奴らと同じだったのだろう。私たちの発音っぽいのは、向島君に取り憑いた影響のせいなのかもしれない。
「却下。あんたたちのお人形になるなんて、冗談じゃない。悪いけど、彼と一緒に帰らせてもらうから」
「出来るといいな、ハルナ」
向島君の声でそう言われてしまった。
奴が言っているのは理解しているが、それでも声が向島君だから、違和感しかないんだけど。
「出来るよ」
少しばかり時間稼ぎでもすれば、フィアーナ殿下やクリスさんたちがこの場に到着してくれるはずだ。
「本気でない向島君に勝つ事ぐらい、私にだって出来る」
魔族相手でもない限り、本気を出さない彼のことである。
私との模擬戦だって、文句や反論を口にしながらも、本気は出していなかったし、それが分からないほど、彼と友人関係をやって来たわけではない。
「……嘗められたものだな」
ん……? 今の呟きは、もしかして、ご本人様かな?
『だったら、全力で相手してやる!』
「掛かってきなよ。たとえ、顔見知りでも、私は手を抜かないから」
これは模擬戦じゃない。
正真正銘、私たちがどうなるのかが決まる戦いだ。




