第四話:城内探検をする
よくよく考えれば、よくよく考えなくとも、城内の仕組みや部屋のある場所をちゃんと把握してなかったことに気づいた。
召喚されてから立て続けに魔法や剣の練習や訓練ばかりで、まともな休息など無かったから、一日ぐらいは休もうよ、と言えば、みんな乗り気になった。
そして、その休息日に、私は城内探検を決行したのである。
「……」
別に城内把握ぐらい魔法であっという間だが、それだと部屋で引きこもりと化すため、出歩くことにしたのだ。暇だし。
てくてく。
てくてくてくてく。
てくてくてくてくてくてく。
「うん?」
歩けど歩けど進まない。
「まさか、魔法干渉か?」
宮廷魔導師のいる王城で、魔法干渉など馬鹿なのか、と思ったが、微妙に違うらしい。
「何のご用かな?」
そう尋ねれば、背後の壁の陰から、そいつは姿を現した。
「気づかれてましたか」
「逆に聞きますが、気づかれないとでも思いました?」
もし、そうだとすれば、かなり嘗められたことになる。
「君は何者だ? 『属性展開』は魔法の熟練度が高くなければ発動すら出来ない。あの時はあんな風に言ったが、初心者がすぐに使えるものじゃない」
「あ、やっぱり気づいてました?」
「ふざけるな。私は仮にも宮廷魔導師だぞ。それぐらい見極められないと思ったか」
確かに、と思う。
仲間の魔導師が凄すぎて、つい比べてしまった。
「すみません。お姫様の目が少し、厳しかったもので」
「言い訳は必要ない。君が何者かが知りたいんだ」
うむ、困った。
光属性や無属性が使えれば、この場から離脱できたのだが、使えないから意味がない。
だから、一つの可能性に賭けてみる。
「……後少しで分かると思いますよ」
以前、仲間と分かれる前に、次の目的地としてこの国で滞在することを決めていた。
まだ着いていないのか、通り過ぎたのか。または、滞在しているのかは知らないが、あの三人がこの国の付近にいることを願うしかない。
「そんなの、信じるとでも?」
「信じる信じないはご自由にどうぞ」
でも、私は仲間たちがこの国に来ることを賭けたんだ。
「では、失礼しますね」
魔法干渉の気が消えたのは確認済みだから、その場から早々に離脱した。
☆★☆
「うわぁ、凄い」
城内を歩いていれば、中庭みたいな場所に出た。
上から射し込む光が照らし、風が中にある花々や木々を揺らしていた。
中庭は割と広いのか、反対側にあるはずの建物の一~二階部分が見えない。
「……」
そのまま、風を感じる。
(大丈夫)
私は大丈夫だ。
『呪い』なんてーー
「よぉ、元気そうじゃねぇか」
「っつ!?」
上から聞こえてきた、聞き覚えのある声と見覚えのあるその姿に、思わず身構える。
ニヤリと笑みを浮かべる黒髪赤眼のその男は、そのまま草原のようなこの地に降り立つ。
「そう身構えるなって。今日は別に攻撃しに来たわけじゃねぇんだから」
「それを信じるほど、私は馬鹿じゃないから」
それに対し、ニイッと男は笑みを浮かべる。
「いやいや、かなり本気なんだけど」
「それで、何の用だ。それだけを言いに来たんじゃないんでしょ。ラクライール」
やや睨みつけながらそう言えば、ククッと声を洩らす男ーーラクライールに、そのまま顔を近づけられ、耳元で告げられる。
「まあな。けど、『呪い』が解けて無さそうで安心したぜ、榛名ちゃんよぉ」
「ーーッツ!?」
思わず距離を取った。
その際、脳裏を過ったのは、この男に『呪い』を掛けられた瞬間。
そして、思う。
(やっぱり、こいつを相手にするのに、一人じゃ無理だ)
と。それにーー私は今、どんな顔をしているのだろうか。
「あれ? もしかして、ビビった? 顔、真っ青だよ?」
大丈夫? と全く心配してなさそうな顔で告げてくる。
「まあ、いいや。今回は、これを教えに来ただけだし」
男は言う。
「近いうちに、ここを襲撃してやる」
と。
本当にそのためだけに来たのか、それを言い終わると、奴はこの場から去っていった。
そして、私は、というと、その場に崩れ落ちた。
「……」
しばらく、無言だった。
とにかく今は、恐怖から来る心臓の音を収めたかった。
「あれ、鷺坂?」
「鷺坂さん?」
後ろから、私を呼ぶ声がする。
「大丈夫?」
返事がなく、振り返ることもしない私に、桐生君たちが心配そうに尋ねてくる。
「顔、真っ青だよ?」
心配そうな表情のまま覗き込んできた桐生君に、あの男と同じことを言われる。
そうか。真っ青なのか。
「さっきの男が原因か?」
気配が増える。おそらく、声的には鷹槻君なのだろう。
「え、他に誰かいたのか?」
「というか、上ってて良かったのか……?」
そりゃ、今来た二人は知らないよな。
というか、鷹槻君は木の上にいたのか。
「で?」
どうなんだ、と尋ねられるが、やっぱり見ていたのか。
でも、私が素直に答えると思うのか。
「さあ? どうなんだろうね」
そう言いながら、何とか立ち上がる。
「鷺坂」
「……」
名前を呼びながら、暗に話せと言ってくるが、私は話すつもりはない。
「大丈夫か? 部屋まで付き添ってやるけど」
「いや、問題ない」
三人に心配そうな表情をされるけど、一人中庭を出て行く。
「は、はは……」
城を襲撃? ふざけるな。
城には、魔法も剣も覚えたての後輩勇者たちが居る。彼らを潰されては、四天王や親衛隊も居るのに、私たちだけでは魔王討伐なんて不可能だ。
「早く、合流したいなぁ」
もし叶うなら、本当に奴らの襲撃が来るのなら、奴らが来る前に合流したい。
そして、彼らが間に合っても間に合わなくっても、使い慣れてない剣を使ってでも、私が居る限りはこの城を守ろう。
ーーたとえ、他国の勇者であることが知られることになったとしても。