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期間限定勇者は  作者: 夕闇 夜桜
サーリアン国・王都~王都近郊編
38/50

第三十八話:救出に向かう


鷺坂榛名(前者)/三人称・イースティア側(後者)視点




 それは、いきなりだった。

 朝食を食べ終わり、午前の訓練に向かおうとしていた時に、それは起こった。


「たすっ、けて……!」


 血まみれになりながらも、レアちゃんが飛び込んでくる。

 フィアーナ殿下たちも一緒だったから、一緒にぎょっとしてしまったのは仕方がない。


「レアちゃん……?」

椿樹(つばき)君がっ、クリスさんがっ、アスハルトさんが……っ!!」


 戸惑う私にすがり付くようにして、半泣きになりながらも興奮状態もあってか、説明が説明になっていないものの、ただ仲間の名前を呼ぶ彼女が何を言いたいのかなんて、すぐに分かった。

 きっと、懸念していたことが起きてしまったのだ。


「……場所は、あの森?」

「待ちなさい、榛名(はるな)。一応、準備してあるとはいえ、今すぐ飛び出していくのだけは止めなさい」


 レアちゃんに確認を取りつつ、視線を森の方へ向ければ、フィアーナ殿下が冷静に止めてくる。けれど、止めてきたということは、フィアーナ殿下も、そのことを察したということだ。


「分かってる」


 そっと、保険用に渡された指輪に触れる。

 私のように使えないわけでもない、光属性持ちの向島(こうじま)君や多重詠唱を可能とするクリスさんたちが居ても苦戦するとか、使える手数が少ない私に解決できる可能性など、ぐっと低くなった気もするがーー……


 「でもさ、約束したからさ」


 彼らが駄目なら、私たちが助けると。どうにかすると。約束してしまったから。


「だから、フィアーナ殿下はレアちゃんと一緒に後から来て」

「っ、何言ってーー」

「ララもウィルも、後から来てくれればいい」

「ちょっ……」

「私は先に行ってるからさ」


 回復要員であるレアちゃんの様子や向島君だけではなく、クリスさんやアスハルトさんまで戦闘不能レベルに(おちい)っているということは、イースティア一行の存続の危機ということだ。

 今後のことを思うと、存在はともかく、魔王の姿や強さすらはっきりと分かっていないのに、今ここで『勇者』を一人でも失うわけにはいかない。


「榛名!」

「大丈夫。無茶はしない。無理もしない」


 ただ、向島君たちを救いに行くだけだ。


「あ、の、ハルナさん!」


 レアちゃんに名前を呼ばれて振り向けば。


「その、ありがとう、ございます。でも、本当に、無理はしないで、ください。椿樹君が、気に病むので」


 限界が近いのか、元から口数が少ないレアちゃんの精一杯の言葉に、分かってるよ、と返しつつ、何で向島君限定なのか、少しばかり気になるところだが、今は後回しだ。


「それじゃ、行ってきます」

「っ、私たちが追いつくまで、絶対に無事でいなさいよ」


 フィアーナ殿下としては、やっぱり先に一人で行くのだけは止めてほしいのだろうが、みんなが来るまでは絶対に無事でいないといけないーー新たな『約束』が出来てしまった。

 とりあえず、まずは部屋に必要な荷物を取りに行く。


「……大丈夫」


 不安が無いと言えば嘘にはなるが、桐生(きりゅう)君たちに見つかると色々と面倒なので、裏口から出ることにする。


「わざわざ通してもらってすみません。帰ってきたとき、こちらを通るようでしたら、その時もよろしくお願いします」

「どうか、お気をつけて」


 見張りの騎士さんたちにそんな感じで挨拶して、こっそりと城を出る。

 とりあえず、まずは森に向かわないとね。


   ☆★☆   


 向島椿樹は、ぼんやりとしていた。

 どこに目を向けても、黒、黒、黒。

 視界全てを闇に覆われ、そろそろこの光景にも飽きてきた。


「……無事に、森を出られたのか?」


 一度目を閉じ、息を()いて、ぽつりと呟く。

 気になるのは、仲間の生死。

 あの『人ならざるモノ』こと悪霊じみた存在は、クリスフィアたちも逃がさない的なことを言ってはいたが、彼女たちも彼女たちで、勇者一行に選ばれるだけの実力は持ち合わせているのだから、そう簡単に捕まったりするわけがないとは思うがーー


『自分ノ事ヨリモ、仲間ノ心配カ?』

生憎(あいにく)と、お前らがどうこう出来るような奴らではないからな」


 椿樹は悪霊にそう告げる。


「たとえ、お前らの手によって俺の仲間が倒れたところで、その後に来た奴らに対して、お前はどうすることも出来ねーよ」

『戯レ言ヲ。今、貴様ガ陥ッテイルコノ状況ガ、マダ理解デキテイナイヨウダナ』


 悪霊の苛立ったような様子に、椿樹は小さくも笑みを浮かべたくなったが、それを何とか耐える。


「いや、理解できてるさ。理解した上で、俺は言っている」


 あいつはーーノーウィストの勇者は、きっと何とかしてくれる。

 この状況さえどうにかなれば、椿樹も動くことは出来るので、それまでの辛抱だ。


『……』


 圧倒的不利な状況に居ながらも諦めた様子の無い椿樹に、悪霊は思案する。

 何がそこまで彼に希望を持たせているのかは不明だが、その後に来る奴らが『希望』だと言うのであれば、それを断ち切ってしまえばいい。


『フフフ……フハハハ!! 面白イ。デハ、ソノ希望ヲ打チ砕イテヤロウ』

「やれるもんなら、やってみろ。あいつはーー俺以上に乗っ取るのは難しいぞ?」


 他人からの悪意や敵意などを敏感に察知する榛名が、実態を持たない悪霊たちの悪意や敵意に反応できるかどうかは分からないが、それでも信じてしまうのは、きっとこれまでの付き合いがあるからなのだろう。

 それにーー


(せっかく渡したんだ。有効活用してくれよ?)


 現状、光属性が使えない彼女への『保険』。

 本来であれば、もう少し別の場所で有効活用してほしいところだが、彼女の手に渡った以上、その使用方法は彼女に一任される。


「それに、もし乗っ取れたところで、お前になんか制御出来ねーよ」

『……』


 悪霊の気が強くなったのを感じつつ、挑発するのもこの辺で止めておくか、と椿樹は口を開くのを止める。


(ああ、でもーー鷺坂(さぎさか)たちだけじゃなくて、クリスたちにもこんなとこ見られる可能性もあるんだよなぁ)


 今になって気づく、その可能性。

 ずっと一緒にいるわけでもない榛名たちと比べ、クリスたちは一緒に行動しているために、今回のことをネタにされかねない。

 今すぐ、帰還してすぐに言われることは無いだろうが、いつか絶対にネタにされることだろう。

 そのことを思うと(つら)くもあるが、それと同時に仲間に大切にされているんだと思えるだろうから。


(絶対にーー)


 そのまま椿樹はそっと、目を閉じた。



今年度の更新はこれで最後となります。

続きは明日、2019年1月1日となります。

それでは、皆さん。良いお年を。



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