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期間限定勇者は  作者: 夕闇 夜桜
サーリアン国・王都~王都近郊編
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第三十七話:意思を示す


鷺坂榛名(前者)/三人称・イースティア側(後者)視点




「えっ、向島(こうじま)たち、出てったの?」


 訓練の休憩中。その事を告げられ、驚きを(あらわ)にする桐生(きりゅう)君たちに、苦笑いしながらも頷く。


「まあ、魔王退治なんていう役目がある以上、ずっと一ヶ所に滞在するわけにもいかないからね」

「それでも、一言ぐらい欲しかったよ。お礼も言えてないのに」


 栗山(くりやま)さんの気持ちも分からなくはないけど、私たちもそろそろ旅立つ準備をしなくてはいけないのも事実だ。

 ちなみに、彼女。今回は怪我した男たちを治療するという名目でこの場に居るのだが、=彼らが練習台になるんじゃないかと気づいたわけだが、双方のためにも黙っておくことにした。

 彼女の先生役であるフィアーナ殿下がいかにも内緒だと言いたげに人差し指を立てて、しー、としていたので、多分正解なんだろう。


「お礼なら、次会ったときに言えばいいよ」


 まあ、本人は気にするな、とか返してきそうだけど。


「向島たちが出ていったってことは、鷺坂(さぎさか)たちもそろそろ行くってことか」

「否定はしないよ。私たちも旅を再開させないといけないし、ノーウィストの方にも顔出ししないとね」


 けど、本格的に旅立つのは、あの問題(・・・・)を片付けてからだ。

 ……大丈夫だよね? 私たちが動かなくてもいいように、イースティア組が頑張ってくれているはずなんだし。


「そっかぁ……鷺坂さんたちまで居なくなると、寂しくなるね」

「落ち込んでる場合じゃないでしょ、サーリアンの勇者様。私たちがいなくなっても、君たちで大丈夫だと言えるようにしていかないといけないんだから」


 いつまでも、私たちに頼ってる状態じゃ駄目だからね。

 その辺の意識を変えてもらわないと困る。


「それは……分かるんだけど、それでも今の俺たちはまだ弱いから」

「君たちの場合は、私たちが居ただけ、まだマシだよ。私たちの時なんて、どうすればいいのか教えてくれる同郷の人なんて、居なかったからね」


 だからこそ、この世界の知識を身に付け、武器を手にして戦って。フィアーナ殿下たちとともに旅をして。

 そしてーー同郷の向島君やクリスさんたちイースティア組に会ったのだ。


「けどまあ、その点については、あまり気にしてもないけどね」


 気まずそうな顔をする桐生君に、そう告げてやる。


「それに、君たちはまだ強くなれるだろうし、『勇者』である以上、いろんな人とも会うことになる。もし、強くなったその時に、まだ『弱い』なんてことを口にしたらーー私は多分、許せない」

「鷺坂さん……」

「だから、これからも頑張って強くなって。サーリアンの勇者様」


 私たちは、私たちが居る場所まで来てくれることを祈り、願っているから。


「それは……先輩勇者としての言葉?」

「そうだね。同学年としては、焦って突っ走って、その結果、ゲームオーバーみたいな展開にならないことを祈りたいところだけどね」

「ゲームオーバーは俺も嫌かな」


 苦笑する桐生君に、吾妻(あがつま)君が告げる。


隼斗(はやと)が戦闘不能とかになったら、俺たちもその一途を辿りかねないから、しっかりしてくれよ?」

「それに、もし怪我とかしても、私が頑張って治しますから、大丈夫ですよ」


 栗山さんも続いてそう告げるが、二人の視線は鷹槻(たかつき)君へと向く。

 つまり、お前も何か言えという訴えなのだろうが……


「……まあ、こっちも可能な範囲で頑張る」


 いつまでも逸らされない視線に耐えきれなくなったのか、鷹槻君が呟くようにそう告げる。


「はいはい。それじゃ、訓練再開しますか」

「え、鷺坂さんも加わるの?」

「何か問題でも?」


 私が加わると、何かマズいことでもあるのか。


「あ、いや……そんなことはないけど、さ」


 視線が逸らされているのが、少しばかり気になるが、それを無視して訓練に参加してやった。


「あ、ヤバい……」

「HPはもうゼロです……」

「水……」


 その結果、疲労困憊、満身創痍な人の山が出来上がることとなった。


「魔法を使用しても大丈夫とか……」

「“身体強化”以外は、使ってないんだけどなぁ」

「熟練度の差では?」


 おかしいな、と思っていれば、いつの間に隣に居たのか、今回の訓練担当の騎士隊長さんがそう告げてくる。


「使い慣れた貴女と、使い始めたばかりの彼らとでは、発動時間やどのぐらい強化されるのかなど、いろいろと変わってきますからね」

「そういうもの、ですかね?」

「だと思いますよ」


 にこにこと笑顔を浮かべている、優男風の騎士隊長さんではあるが、説明を聞く限り、この人の熟練度も馬鹿に出来ないレベルだと思うんだよな。


「ほらほら、早く起き上がって、片付けてから着替えて、夕食に行く。一番最後の奴は、グラウンドの整備も追加な」


 それが聞こえたのだろう。疲れきっていたはずの騎士たちが瞬時に起き上がると、後片付けを始める。

 でも、それは桐生君たちも例外ではなく、何をどう判断したのか、大人しく従っている。

 ちなみに、私は余裕があったときに片付けておいたので、特に騎士隊長さんから文句のようなものは出ていない……よね?


「……」


 急に勢いよく風が吹いてくるが、それを受け、何となくーー不安になるのは、何故だろうか。


   ☆★☆   


「はぁ、はぁっ……!」


 どれだけの距離を歩き、走ったのだろうか。


「クソ、が……」


 イースティアの勇者、向島(こうじま)椿樹(つばき)は、内心焦っていた。

 状況は最悪であり、三人をすぐさま引き換えさせたが、森へと脱出できただろうか、と思考を巡らせる。


 彼が居るのは、榛名(はるな)とともに疑っていた森の中にある、遺跡のような場所。

 その場所へと辿り着いたイースティア勇者一行は、禍禍しい気を放つ遺跡を見て、すぐさまこれが事件の原因だと理解した。

 どうするべきか話し合い、覚悟を決めて、調査を開始したわけだがーーこの判断自体が間違っているとは、思いもよらなくて。


『……ドコダ……ドコニ逃ゲタ……』


 ゆらゆらと、人ならざるモノたちが椿樹を探すようにして、彷徨(うろつ)いている。


「全く、こんなのが居たんじゃ、たとえ鷺坂たちが一緒でもヤバかったかもしれないなぁ」


 彼が思い浮かべるのは、同職にして、同郷の友人。

 彼女に、解決してくると約束はしてしまったが、どう考えても不可能である。


 ーーあいつなら、どうしたかなぁ。


 自分と同じように、進んだのだろうか。

 それとも、進もうとはしなかったのか。


「俺は、約束は守るぞ。鷺坂」


 たとえ、自分が戻れず、伝えられなかったとしても、仲間がーークリスフィアたちが、きっと伝えてくれるだろうから。


「それまでは、何としても持ちこたえてやるし、乗っ取られてもやらねーよ」


 椿樹はそっと、笑みを浮かべた。





「つ、ばき……」


 クリスフィアは目の前にいない彼の名前を呼ぶが、彼女自身も無事とは言えないほどに怪我を負っており、言葉にするのがやっとであるようにも見える。


「っ、アスハルトさん。もう少しだけ、もう少しだけ意識を持ってください!」

「……レア、悪いな」


 クリスフィア同様に血だらけながらも、そこに涙も合わさって、顔がぐちゃぐちゃの状態のレアトリアが必死になって、アスハルトに声を掛ける。

 だが、アスハルトもクリスフィアと比べーー(いな)、比べるまでもなく、彼女以上に重傷な彼は、レアトリアの涙を拭うかのように頬をそっと撫でる。


「謝らないでくださいっ……! まだ、生きてるんです! 私もまだ無事です! ですからっ、諦めないでください!!」

「レア……」


 だが重傷者を抱えたまま、レアトリアは魔力が尽きようとするその時まで、回復魔法を行使する。


 回復や補助ぐらいしか取り柄がないから。

 フィアーナのように、何らかの戦闘方法があるわけでもない。

 それでも、追い出すような真似をしなかった仲間たちに、少しでも、返したいから。


「お願いだから、治ってよぉ……っ!」


 レアトリアは必死になって、回復魔法を行使する。

 しかも、クリスフィアとアスハルト二人分の治癒なので、魔力の消耗も激しく、一体どれだけ魔力ポーションで回復させてきたのかが分からない。


「……レア」

「クリスさん……?」


 クリスフィアに呼ばれ、レアトリアがそちらに目を向ける。


「森に入る前の『約束』、覚えてる?」

「覚えてますが……」

「それなら……頼めるかしら?」


 もちろん、そこまで言われて、クリスフィアの言葉の意味が分からないレアトリアではないが、けれど回復担当が自分一人しかいない今、満身創痍の彼女たちをこの場に置いていけばどうなるかなど、簡単に予想できる。


「椿樹さんだけじゃなく、お二人までこの場に置いていきたくはありません。だって、私が居なくなったら、誰が皆さんの治療をするんですか」

「治癒魔法なら、貴女には及ばないけど、私がするから大丈夫よ。魔力も回復してきてるし、アスハルト一人ぐらいなら何とか出来るから」


 クリスフィアの言葉に、レアトリアはでも、と呟く。


「でも、じゃないでしょ。貴女の仕事は、ちゃんと彼女たちに伝えること。その後は……またこっちに戻ってこようが自由にすればいいわ」

「っ、強制転移ーー!」


 だから、ちゃんと伝えなさいーーその言葉が聞き取れるか聞き取れないかのタイミングで、レアトリアは足元からの光に包まれる。





「……おい、クリス。大丈夫だったんじゃないのかよ」

「ええ、大丈夫よ。ただーー転移で魔力が足りなくなっただけよ」


 目の前にいたはずの少女が消え、文句を言うかのように告げるアスハルトに、クリスフィアはそう返すが、レアトリアを納得させるためとは言え、治癒魔法を行使できるだけの魔力が残ってないのも、また事実だった。


「そんなことより、問題は椿樹よ」

「だな。もし、こんなところで失うなんてことになれば、皇帝陛下に顔向け出来ないし、ノーウィストの勇者にも謝らないといけなくなる」

「勝手に約束したのは椿樹だって言うのに、最後の最後まで迷惑掛けるとか、全く、うちの勇者様は……」


 話題が逸らされたことに気づきながらも、アスハルトはその事を指摘することなく、その話に乗っかり、クリスフィアは溜め息混じりに呟いた後、ぼんやりと天井を見上げる。


 ーーどうか私たちを、救いに来てね。『勇者』様。


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