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期間限定勇者は  作者: 夕闇 夜桜
サーリアン国・王都~王都近郊編
34/50

第三十四話:勇者同士で、ある約束をする

   ☆★☆   


 部屋に戻り、リボンを外し、上着だけを脱いで、ベッドに横になる。

 精神的に疲れているとは思っていたけど、私が思っていた予想以上に疲れていたらしい。


「……今後、か」


 今まで通りに、魔王が居るとされている魔王城に向けて、旅はすることになるんだろう。

 けれど、今目の前にある『問題』も、無視は出来ない。


「どうにかしないと」


 だって、気付いてしまったから。

 ラクライールたち四天王の仕業だろうが無かろうが、あのまま放っておくことなんて出来ない。

 そのタイミングで、ドアがノックされる。


「……はい」

「よ」


 起き上がり、ドアの隙間からそっと窺ってみれば、着替え終えたのだろう向島(こうじま)君が片手を上げて、そこにいた。


「……何、どうしたの」


 向島君の場合、用が無ければ来ないから、何らかの用があるとは思うのだが。


「いや、少し話しておきたいことがあってな」

「明日じゃ駄目?」

「まあ、別に今じゃなきゃ駄目ってわけでもないが、早い方が良いと思ってな」


 一体、何なのだ。


「とりあえず、入りなよ。来客を立ちっぱなしにさせとくわけにはいかないからさ」

「……お前、今は夜だぞ?」

「そうだね。でも、私たちはそんなことをするような仲でもないし、邪推したければ、させとけばいいだけのことでしょ?」

「……言うなぁ」


 呆れたような、何か言いたそうな表情をしながらも、部屋の中に入ってくる。

 適当に座るように言いつつ、何が飲みたいのかを尋ねる。


「で、何飲む? 色々あるけど」

「そうは言うが、緑茶とかは無いだろうが」

「コーヒーと紅茶だけだね」


 そりゃあ、東にあるとされている日本似の国に行けばあるのだろうが。


「じゃ、コーヒー頼む」

「ん、了解」


 用意するために、一度場を離れる。


「……」

「……」


 (しば)しの無言。


「はい、お待たせ」

「ああ、悪いな」


 コーヒーを差し出し、私も向かいの席に着く。


「それで、用件は?」

「まずは、残党退治。ご苦労様」

「……向島君」


 わざわざそれを言うためだけに来たわけでも、部屋に入ってきたわけでもないことは、私にだって分かる。

 その程度のことなら、ドアのところで用件を聞いたときに、言い淀んだりはしない。


「あー、俺が悪かったから、そんな顔をするなって」


 そんな顔って、どんなだ。


「で?」

鷹槻(たかつき)と、今後のことを話したって言ってただろ?」

「そうだね。私はノーウィストの勇者だから、いつかはこの城を出ていかないといけないわけだし。君だって、そうでしょ?」

「そうだな」


 そこで一度、コーヒーに口をつける。


「鷺坂は、」

「ん?」

「ーーいや、何でもない」

「そう言われても、気になるんだけど」


 途中で止めるぐらいなら、最初から口を出さないでほしい。


「……そうだな」


 一体、どうした。イースティアの勇者様。


「鷺坂は、敵意とかに敏感な方だもんな」

「……」


 さて、どう言ったものかね。


「向島君さ。言いたいことがあるなら、はっきり言おうよ」

「……」

「高ランク冒険者たちの行方不明についてとその行方不明先なら、私も分かってるから」

「分かってるって……」


 ハッとしたような顔でこっちを見てくるが、何となく気にはなっていたらしい。


「さっきから、あの森ーーまあ、ここからでも見えてるんだけど、あそこから嫌ってほど負の気が表れているからね。その影響で魔物たちが凶暴化するのも分かるよ」

「……まさか、行かないよな?」

「行ったところで、今の私に何も出来ないよ」


 たとえ私に光属性魔法が使えたとしても、解決できるかどうかは分からない。


「それに、こっちにはフィアーナ殿下が居るからね。いくら旅や危険に慣れたとはいえ、あのレベルはさすがに無理かな」

「王族を死なせるわけにはいかないもんな」

「そういうこと」


 フィアーナ殿下の同行に関しては、勇者(わたし)の召喚者だからという表向きの理由が大きいが、本人にそのことを言うと、文句を言われそうなので言わないだけだ。


「向島君さ」

「何だ?」

「もし、あそこへ行くつもりなら、絶対に帰ってくるっていう約束だけはしてよ?」


 (ぬる)くなり始めたコーヒーに口をつけて、何気なく視線を向ければ、目を見開いたまま固まってた。


「……は?」

「だからーー」

「あ、いや、二度も言わなくていい。ただ、鷺坂からそう言われるとは思わなかっただけだ」


 ふぅん?


「私がそういうことを言うの、おかしい? 向島君なら大丈夫だって分かってはいるけど、危ない場所に向かうかもしれない友人を心配するのって、変?」

「分かった。分かったから」


 落ち着いてくれ、と言われるが、あちこちに目を泳がせておきながら、どの口が言うんだか。


「つか、いきなりデレられても……」

「今すぐに大声で叫んだり、クリスさん呼んだりしても構わないんだけど」

「すみませんでした」


 ジト目を向けてやれば、あっさりと頭を下げられる。


「でも、心配してるのは事実だからさ」

「それならちゃんと分かってるし、鷺坂は俺のことよりも、自分のことをもっと心配しろよ」


 他人事じゃねぇだろ、と言われてしまう。


「ん、まあ正論だね。ありがとう」


 (ぬる)くなってしまったコーヒーに、互いに口を付ける。

 正直、これを飲んだせいで寝られるかどうかは疑問だが、それは向島君も同じだろう。


「……何だよ」

「それ飲んだら、さっさと部屋に戻ってよ」

「自分から部屋に入れておいといて、言う台詞がそれかよ」

「否定はしないけど、そっちの本題も話し終わったんでしょ?」


 そっと目を逸らすの、確認したぞ。


「……まあ、それもそうなんだが、言いたいことは他にもあって、だな……」

「というと?」


 聞いても答えない。

 まあ、未だに言うべきかどうか、迷ってるのは分かったけど、何を言う気だ。


「……これはお互いに、だが」

「うん」

「もし、クリスたちが助けを求めてきたら、手を貸してくれ。こっちもそっちが困っていたら、手を貸すから」


 何を言ってるんだ? こいつは。


「とりあえず、向島君」

「何だ」

「フラグみたいなのを立てないでもらえる?」


 絶対に何か起こるパターンじゃないか。


「当たり前だ、って返してくるかと思えば……第一声がそれかよ」

「だって、あの森に調査に行った向島君(たち)が、うっかり何らかの罠に掛かって、誰かが私たちに助けを求めに来るパターンとか、有り得そうじゃん」

「不透明だったフラグを明確にするんじゃねぇっ!!」


 「本当になりそうで怖いわ!!」と突っ込まれるが、私自身も言いながらそう思ったから、否定できない。


「ーーけどまあ、」

「……?」

「困っているなら、助けるよ。同じ勇者兼同郷のよしみでね」


 それでも、かれこれ三~四年の付き合いだから、私がこう返すことは予想済みのはずなのだ。

 なのに、驚いたように目を見開かれるのは、何故だろうか。


「ああ、頼むよ。そして、頼りにしてるよ。『約束(・・)』な。ノーウィストの勇者様」

「そのまま、同じ言葉をお返ししますよ。イースティアの勇者様」


 私たちはどこかの国やどこかの街で会う度に、会えたときは素直に再会を喜び、別れなどでまた離れ離れになるときは何らかの約束をする。

 今回は『片方に何かあったら、もう片方が手を貸す』という約束だ。

 だから、向島君がこの話題を出してきたということは、イースティア組は、近いうちに城を出るということだ。


 そんなことを思いつつ、私の部屋を出て、自室に向かう向島君を見送り、二人分のコーヒーカップを片付けるのだった。


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