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期間限定勇者は  作者: 夕闇 夜桜
サーリアン国・王都~王都近郊編
32/50

第三十二話:労いの代わりにパーティーをⅣ(勇者たちの恋愛事情とパーティーの終わり)


 陛下に恋人の有無を聞かれました。

 答えなんて、決まってる。


「いいえ、居りませんけど……」


 つか、何があって、そんな話に飛躍したんですか。


「いや、フィアーナ様に確認したところ、こちらで居ないのは分かっているが、故郷である世界の方では分からないと言われたのでな」

「はぁ……」


 元凶は貴女か。フィアーナ殿下。

 うん、でもね。


「あの、陛下。他国の勇者である私の前に、自国の勇者である桐生君たちから聞くべきでは?」

「ああ、それなら、もう聞いてある。故に、こうして一緒に召喚された其方(そなた)に聞いておるのだが」

「なるほど。それで、私だけではなくフィアーナ殿下にまで尋ねて知ろうとした理由は何でしょうか?」

「それは後程、では駄目かな?」


 ……まさか、こんなにも早くグレンウィル様を必要とする案件が出てきそうだとか、泣けるんですが。


「……」


 フィアーナ殿下に目を向ければ、「もう少しだけ待って」と返される。


「今、呼びに行かせてるから」


 みんなは不思議そうにしているが、私たちの間で、誰を、なんて聞くまでもない。


「あの、殿下? ララティアナ様に「榛名(ハルナ)がいなくなっちゃう!」って言われたのですが……」


 ララ……グレンウィル様を呼んでくるだけで、何て呼び方をしたの。


「フィアーナ様。そちらは?」

「我が国の外交担当です。我が国の勇者である榛名(はるな)の後見人でもありますから、政略的な何かをお考えでしたら、彼を通してもらわないと困りますわ」


 陛下の問いに、フィアーナ殿下が笑みを浮かべて答える。


「一体、何があったの?」


 グレンウィル様、ここ国外。素が出てます。


「さあ? 先程された陛下からの質問から考えるに、『政略結婚』が妥当な答えじゃないですかね? するつもりは無いですけど」

「随分、他人事みたいですけど、貴女の問題ですよ?」


 『政略結婚』なんて聞いたからか、グレンウィル様が仕事モードに入った。


「分かってますよ。ただ、魔王退治の途中で、最終的に死ぬかもしれない人の結婚相手になりたいなんて人、居ますか? 『勇者』という(はく)が目的ならともかく」

「……貴女自身ではなく、『勇者』という箔目的なら願い下げ、と」


 正解、と笑みを浮かべて頷けば、溜め息を吐かれる。


「陛下。彼女の言葉は、正解か否か。お聞きしたいのですが」

「……」

「無言は肯定と判断させていただきますが」


 グレンウィル様は駄目押しで尋ねてはいるけど、もう内心では確信しているんだろうなぁ。


「あれだけの情報量で、よくそこまで導き出せたな。ノーウィストの勇者」

「私、他人の感情ーー特に(ねた)(そね)み、殺意や恨みとかの(たぐい)は見れば分かりますし、そのパターンは見飽きているので」


 ああ、危ない危ない。頭に来てるからか、口調がいつも通りになるところだった。


「陛下。ノーウィストの勇者の話が終わったのなら、御挨拶申し上げても?」


 珍しく口を挟んでこないと思えば、このタイミングを見ていたのね。


「そういえば、イースティアの勇者殿にも聞いていなかったな」

「ノーウィストの勇者殿と同じことを聞かれたとして、答えはノーですよ」


 私が駄目なら次は自分だと、順番的に回ってくること、分かってたな?


「あれが、イースティアの勇者?」

「はい、向島椿樹(こうじま つばき)君です。あと、向島(こうじま)が家名、椿樹(つばき)が名前ですからね?」

「分かってる」


 こっそりとグレンウィル様が聞いてきたので、同じ声量で教える。

 ただ、「でも、そうか。彼が……」と呟いているのを聞くと、不安しかない。


「その奥に居るのが、桐生隼斗(きりゅう はやと)君。この国の勇者です」

「ああ、君が巻き込まれたっていう……」

「……掘り返さないでください」


 せっかく、忘れていたのに。


「やれやれ……まさか全滅とは」

(むし)ろ、この問題(はなし)が出た時点で、俺も鷺坂も疑いっぱなしだったから、どっちみち失敗していたと思いますよ」

「え、そうなの?」


 そうなの、って……桐生君……。


「ほとんど関係のない他国の勇者に、恋人の有無を聞いている時点でおかしいでしょ。恋人云々なんてプライベートな内容なわけだし」


 まあ、私はいないから、はっきりと「いない」と答えただけだけど。


「しかも、王様が話を出した時点で、『政略結婚』だって、鷺坂は察してたみたいだがな」

「王制であるこの国にも『恋愛結婚』で結ばれる人たちもいるんだろうけど、私たちは『勇者』だからね。勇者の力や名誉とかを求めるなら、『恋愛結婚』よりも『政略結婚』の方がややこしい問題も起こさずに済むことから、『政略結婚』狙いである確率が高いだろうなって、私は判断しただけだよ」


 私が言い終わると、「ってわけらしいぞ」と向島君が続ける。


「全く、そういう(さっ)さなくて良いところを察するんですから。貴女は」


 褒めてるのか、貶してるのか。どっちなんですかね? グレンウィル様。

 あと、頭の上に手を()せないでほしい。


「別に、察したくて察したわけではありませんよ。何となくに過ぎません」


 そう言いつつ、グレンウィル様の手を下ろす。


「それでは、陛下。この話は終わりでよろしいでしょうか?」

「むう……仕方ないな」


 フィアーナ殿下の強制終了に、納得できなさそうにされても困るんだが。

 そんな何気なく下に目を向けた時だった。


「……」

『ぴ?』


 こちらの視線に気付いたんだろう、極小魔物が首を傾げ、こちらを見上げてくるのだが……


「……」


 誰にバレても面倒なので、足元に居た極小魔物の残党を、フィアーナ殿下たちや向島君たちに気付かれる前にヒール部分で踏み潰す。


「……鷺坂って、本当に容赦ないよな」

「何のこと?」


 言葉から察するのなら、向島君も気付いたっぽいが、彼が対処する前に、私が対処し終えていたということだろう。()らばっくれるけど。


「まあ、瞬時に対応してくれたみたいですから特に責めるつもりはありませんが、このことを知ったらフォルンが泣きかねないから、彼女の前でそういうことはしないでくださいね」


 ありゃ、グレンウィル様にまでバレていた上に、注意されちゃったよ。

 それにしても、相変わらずグレンウィル様は(奥さんである)フォルン様のこと、大好きなんだな。羨ましい限りである。


「分かってますよ」


 私の方も、フォルン様を悲しませたくはない。


「ん? 何かあったのか?」

「いえ、何も」


 不思議そうな陛下に、私とグレンウィル様の声が重なり、向島君には溜め息を吐かれる。


「そうか。残り時間も後僅(あとわず)かだが、最後まで楽しんでいってくれ」

「はい」


 で、そのまま解散……になると思いきや、栗山さんに壁際にまで引っ張られた。


「ねぇねぇ、鷺坂さん。あの人、格好いいね」

「あの人って……グレンウィル様のこと?」

「グレンウィル様っていうんだ」

「様は敬称だから」


 でも、栗山さんの様子がおかしい。


「栗山さん。誤解していようがいまいが、どっちでも良いんだけどさ。あの人、奥さん居るし、私たちと同年代の子持ちだから」

「えっ!?」


 現実を突きつけてみれば、驚いたような目を向けられる。

 うん、驚くよね。私も最初、奥さんが居るのはともかく、同年代のお子さんが居るって聞いたときは驚いたし。


「鷺坂さんは会ったこと、あるの?」

「あるよ。兄二人に妹一人という三人兄妹という組み合わせだけどね。同年代なのは真ん中」

「へぇ……やっぱり、格好良かったり、美人だったりするの?」

「上二人は一部の色彩が違うだけで、グレンウィル様似かな。妹さんは、奥さんであるフォルン様に似てるから、美人っていうよりは可愛い部類に入るけど」


 とにかく、仲が良いのだ。あの兄妹は。


「こらこら。人の家族のことをペラペラ話さない」

「あう」


 グレンウィル様から軽いチョップを落とされた。


「ハルナ様、彼女は?」

「私の同郷者である栗山さんです」

栗山胡桃(くりやま くるみ)って言います」


 頬を赤らめながら、栗山さんがグレンウィル様に挨拶する。


「グレンウィル・マクガーデンと申します。これからも、この子と仲良くしてやってくださいね」

「は、はい!」


 栗山さんとの挨拶が終わったためか、グレンウィル様がこっちに目を向けてくる。


「ハルナ様。私は明日には帰る予定ですが、何か伝言はありますか?」

「いえ、特には」

「クーリオが寂しがりますよ」


 そうは言うけどさぁ……。


「では、フォルン様とナナリエ様に、お土産期待していてください、と」


 あえて、スルーで。

 それを理解したのか、グレンウィル様は苦笑していたけど。


「分かりました。それでは、今後の道中お気をつけて。勇者様方」

「……」


 笑みを浮かべて去っていくグレンウィル様に、こっちに来ようとしていた桐生君や向島君の動きが一瞬だけ止まる。

 まあ、私ならともかく、高官でありながら一般的な貴族でもあるグレンウィル様に、自分たちが向かってる途中で気付かれるとは思わないよなぁ。


「……鷺坂。あの人、本当にただの外交官か? 別に気配消していたわけじゃないが、何でお前より先に俺たちに気付いたんだよ」

「何でだろうねぇ」


 さすがに、グレンウィル様が向島君たちに気付いた理由までは話せない。

 だから、知らない振りをする。


「で、でっ。クーリオさんって、さっき言ってた私たちと同年代の人?」

「えっと、何の話かな?」


 やや興奮気味の栗山さんに引いたのか、桐生君が何を話していたのかを尋ねてくる。


「グレンウィル様に私たちと同年代のお子さんが居るって言ったんだけど、そいつ(・・・)がグレンウィル様が名前を出したクーリオじゃないのかって」

「なるほどね」

「つか、後見人の子供相手によくもまあ『そいつ』なんて言えるな」


 桐生君は納得してくれたが、向島君からは呆れた目を向けられたので、「ああ」と遠い目になる。


「それはさ。向島君なら分かると思うけど、自国に帰ると寝食することになるのって、後見人の人たちの家じゃん」

「まあ、そうだな」

「疲れて帰ってきた時にさ。『この時を待っていた』とばかりに俺と戦えオーラを出してさ、出迎えてくるの。そんなに疲れてないときならともかく、疲れてるときにもお構いなしに来るんだよ」

「うわぁ……」


 桐生君と栗山さんが引き気味だ。だが、甘い。


「疲れてるから明日ね、って言ったんだよ? 時間も時間だったし」

「……」

「で、寝る時間になって、自分の考えの甘さを理解しました」

「おい、まさか……」


 三人の表情が強張っていく。


「『明日』。つまり、日付が切り替わる深夜に、部屋へ突撃されました。私、疲れてて眠い。あいつ、翌日になったから戦ってもらえると思ったのか、戦いに来た。お前の事情なんか知らねーよ、休ませろって」

「……で、どうなったの」


 桐生君、恐る恐る聞かなくて良いから。


「奴に襲われ掛けそうになったタイミングで、何かを察したのか、グレンウィル様と長兄さんが奴を回収しに来て、その後のことは知らない。お陰でそれ以降は王城で寝泊まりすることになりました」


 その日は同情と申し訳なさもあったのか、一緒に寝るのを申し出てくれたナナリエ様と寝たんだけど、寝る前にグレンウィル様と長兄さんの怒声らしきものが聞こえてきたから、多分説教されたんだろうなぁ。この場では言わないけど。


「よくもまあ、無事でいられたね」

「まあ、途中で性的な意味でも襲われるんじゃないか、とは思ったけどね。で、奴は一時期王城中の女性の敵になりました」

「国中じゃないんだね」


 栗山さん、可愛い顔が怖いことになってるよ。


「つか、トラウマになってなくて良かったな」

「いや、あれ以降……一週間ちょいは警戒に警戒重ねて、部屋中に防壁張りまくったりしてたからさ。後はウィルたちに協力してもらいつつ、トラウマになる前にさせなかっただけだよ」


 だから、それ以降で向島君たちに会って接したとき、特に手の震えも無かったから、大丈夫だと判断したんだけどね。


「イケメンだからって、何でもやって許されるなんて思わないことだよ。鷺坂さんが無事だから良かったものの」

「栗山さん……」

「もしかしたら、仲良くなれるかもしれない、って思った私が馬鹿だったよ」


 あ、そっちですか。


「でもまあ、あれからそれなりに経ってるわけだし、今はさすがに、まともになってるとは思うんだけど……」

「けど、下手に会いに行かない方が良いぞ。また男が苦手になられたりしたら、俺たちとしても困るし」

「あー、共闘とか出来なくなっちゃうしね」


 四天王もそうだけど、親衛隊の奴らの相手をするのも大変だからなぁ。


「鷺坂さん……」


 今の会話に苦笑いする要素はありましたかね? 栗山さん。


「あ、そうだ。鷺坂さん、一緒に踊らない?」

「別に良いけど……ここで踊る?」

「うん」


 会場内に流れていた曲はもう終盤だけど、少しだけ踊るにはちょうど良い。


「鷺坂。後で一緒に踊るかー?」

「お断りしまーす。暇なら桐生君と踊ればー?」


 何やらふざけたことを言ってきた勇者様には、ダンスのステップを踏みながらも、そう返しておく。


「あ、少し見てみたいかも。それ」

「おい」


 話を聞いていたらしい栗山さんが洩らした意見に、向島君が突っ込むが、そのタイミングで曲が終わる。


「あーあ。もう終わりかぁ」

「楽しかった?」

「楽しかったけど、やっぱりダンスとドレス選びがなぁ」


 今朝方までの慌ただしさを思い出したんだろう、栗山さんが悩ましげな顔をする。


「あれはもう、慣れるしかないから」

「鷺坂さんもドレス着てよ~」

「なら、ノーウィストに来なよ。運が良ければ、見られるかもよ」


 ノーウィストだと、ちゃんとドレス着ますから。


「桐生君。いつか、ノーウィストに行こう!」

「うん、そうだね。まあ動機が、かなり不純なのが気になるけど」


 いつかのノーウィスト行きを決める二人ーー勢いの栗山さんに、顔を引きつらせる桐生君ーーに、向島君とともに生暖かい目を向ける。


「わぁ、ハードルが上がったぁっ」

「自業自得だろうが」


 まあね。


「で、さっきの話。後で冗談だった、とか言わないよな?」

「言わないよ。だって事実だし」

「……」

「ただ、そろそろちゃんと向き合って、徹底的に叩きのめすしかないかなって」


 剣と魔法で戦うのなら、ちゃんと対抗手段があるわけで。


「そうか」


 肯定も否定もしない向島君は、それしか言わないけどさ。


「『勇者は、魔王みたいなラスボスと絶対に勝たないといけない試合以外には、負けても大丈夫だから』って」

「うん?」

「勇者だって、負けるときがあって良い、ってことみたい」

「何だそりゃ」


 まあ、これは師匠たちからの受け売りだけど、本人たちは以前の仲間からの受け売りだと言っていた。


「だから、後のことは任せるよ、イースティアの勇者様。私が面倒な方を引き受けるんだから、もう少しばかり頑張って」

「……ったく、分かったよ」


 何をするのかとか主語が無いそんなやり取りも終え、軽く手を振って、一足先にパーティー会場を後にする。

 栗山さんが騒ぎそうだが、向島君に任せた以上、きちんと止めてもらいたい。


「さあて、どこにあることやら」


 そして、夜は更けていく。



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