第二十九話:労いの代わりにパーティーをⅠ(ダンス練習)
残党退治にも一区切りを入れて(というか止めて)、部屋に戻り、朝である。
本日の夜には祝賀会がある。
そのためか、あまり時間が無いこともあり、朝から城内は慌ただしい。
「余裕があるのは俺たちだけか」
「だねー」
隣に居る向島君の台詞に同意する。
服装など自分たちの用意はもう少し遅くても構わないから、慌ただしい城内の様子を眺める。
フィアーナ殿下は陛下たちと最後の打ち合わせに、ウィルとララはそんなフィアーナ殿下の護衛として同行している。
クリスさん、アスハルトさん、レアちゃんの三人は、向島君曰く、王城修復のお手伝いに行っているらしい。
「桐生君たちは桐生君たちで、お針子さんたちに付き合わされたかと思えば、次はダンスの練習があるもんだから、休む暇なんて、ほとんど無いし」
「完全に付け焼き刃だが、やらないよりはマシだろ。所属してる国の貴族に嘗められるわけにはいかないしな」
「まあね」
特に口ばかりで行動しない奴や、威張り散らしてる奴に限って、文句を言ってくるのだ。
「本当、もう少し時間があれば別だったんだろうけどねぇ」
もし祝賀会自体、私たちが戦ってる裏側で行うことが決まっていたのなら、ボイコットやドタキャンしてやりたいところだが……国交やフィアーナ殿下に迷惑が掛かるので止めておく。
「鷺坂」
「ん?」
「……ダンスの練習に付き合ってくれないか?」
「どうしたの。いきなり」
いや、動き方やステップとかを忘れたとか言うわけではないのだが。
「動きを確認したい。何か不安になってきた」
ああ、そういうことか。
「まあ、良いけど。男性側と女性側、どっちの動き方をした方が良い?」
「女性側で良いよ。つか、両方出来るのか」
「まあね。フィアーナ殿下の相手として、踊ったこともあるし」
ちなみに、男性側の動きを覚えたのは、兄さんと藍(弟)の動きを見ていたからだ。あと、姉さんの練習相手をするためでもあったが。
「……つくづくマナーとかに関しては、お前に勝てる気がしないな」
「私だって、好きで覚えたんじゃない。必要だったから、覚えたに過ぎないんだよ」
そんなことを話しながら、向島君の手を取り、動きを確認していく。
「つか、忘れてないじゃん。わざと踏もうとしても避けられる時点で、ちゃんと踊れてるし」
「そうか?」
「うん、大丈夫だよ」
これならダンスが苦手なお嬢さんや下手なお嬢さんが相手でも、きちんと対応出来るんじゃないかな。
「さて、と。経験者として、私は栗山さんたちの様子を見に行こうかな」
先生に習うのも良いかもしれないけど、経験者から教えられるっていうのも無駄では無いだろうし。
「一緒に行く?」
「どうすっかなぁ」
迷っているみたいだから、来るなら後でおいでと伝えておいて、私はサーリアンメンバーが居るであろうレッスン室へと移動する。
「すみません。ノーウィストの勇者ですが、中にサーリアンの勇者様一行がいらっしゃるなら、取り次いでもらえますか?」
扉の前に騎士が居たので、頼んでみる。無理なら無理で良いのだが。
「鷺坂さん!?」
「……栗山さん、騎士さんたちの話を聞こうか」
騎士さんたちの返事を待っていたら、栗山さんが飛び出してきた。
これはもう、許可云々は無意味だろう。彼女が出てきた以上、否が応でも中に入らざるを得ない。
「……あ、鷺坂さん。来たんだ」
「見事にぐったりしてるねぇ」
鷹槻君までぐったりしているのを見ると、付け焼き刃とはいえ、スパルタで進められたのだろう。
「ドレス選びだけでも疲れたのに、ダンスまでしないといけないなんて……私もうダンス出来なくて良いよぉっ!」
抱きついたまま、耳元で声を上げないでほしい。
「はいはい、気持ちは分かるけど、自国の人たちに馬鹿にされたくないでしょ?」
誰もが通る道だ。
「つーか、鷺坂。何でお前来ないんだよ」
「だって私、踊れるし。それに、他国に行くと、来国記念だとかでパーティーがたくさん有るから、覚えておいて損は無いと思うよ」
一度言ったことのある国で、一回はパーティーしてもらった覚えがあるかな。フィアーナ殿下が居るから、っていう理由もあるだろうけど。
「パーティー……」
栗山さんが遠い目をしている。
とりあえず、誰と誰がペアになっているのか、エレンシア殿下に確認してみる。
「ちなみに、姫様。誰が誰の相手をしているんですか?」
「一応、私は勇者様のお相手を、クルミ様のお相手はツグミ様に、アオイ様は先生がお相手されています」
あ、やっぱり、その組み合わせか。
「いらっしゃったということは、ハルナ様も参加されるんですよね?」
「姫様。私、動きとか忘れたわけではないので、別に参加する必要は無いと思うんですが」
「何で逃げようとしているんですか。大丈夫ですよ? 復習のつもりでやってみたらどうですか?」
「姫様、エレンシア殿下。気持ちは分かりましたが、必死過ぎです。素直に手伝って欲しいと言えば良いじゃないですか」
そう指摘すれば、エレンシア殿下が固まった。
ま、プライドとパニックになっていたのが重なった結果なんだろうけど。
「あ、う……お願いします。手が足りないので」
「それで、私は男性側と女性側。どちらをやればよろしいので?」
「あ、それは女性側で構わないんですが……ハルナ様はどちらも出来るんですか?」
「出来ますよ」
いちいち説明するのが面倒くさいので、肯定だけしておく。
「けど、どちらも出来るとなれば、相手は誰にしましょうか」
姫様と先生が考え始める。
「男性パートも出来るのなら、クルミ様の相手もしてもらうという手も……」
「考えるのは構いませんが、ドレスに着替える時間も考慮してくださいね」
そう言わなかったら、ずっと考えていそうな空気だからなぁ。
「あの、イースティアの勇者様という方がいらっしゃったのですが……」
「あ、通してください。むしろ、通せ」
姫様たちが答えることが出来ないみたいなので、代わりに答えておく。
つか、逃がすか。
「よぉ、少し様子を見に来たんだが……」
私がにっこりと笑みを浮かべているためか、レッスン室へと入ってきた向島君が逃げ腰になっている。
「ちょっと待て。逃げるな。つか、逃がすか」
「怖えよ! つか、お前が笑ってる時は、大体ろくでもないことを考えてる時だろうが!」
「ろくでもないとは失礼な。私と一緒に、栗山さんたちの練習相手になってよ!」
「んな、某魔法少女になるのを促すような台詞風に言うな! 余計に逃げたくなったわ!」
チッ、狙ったつもりは無かったんだが、無意味だったか。
「つか、俺は鷺坂みたいに両方出来ないぞ?」
「別に良いよ。出来れば」
というわけで、向島君も練習に参加です。
ちなみにーー
「……向島って、結構、鷺坂に甘いよな」
「黙れ」
この会話は聞いてない振りをしておいた。




