第二十七話:正体を明かす~当日
桐生隼斗(前者)/鷺坂榛名(後者)視点
ーー榛名たちが、謁見の間に姿を見せる数分前。
俺たちは朝食を終えた後、謁見の間に向かっていた。
理由としては、国王様からの呼び出しという部分が強い。
そして、その呼び出された理由というのも、大体の予想は出来ている。
「あれから一日は過ぎたわけだけど、俺たちに報告できることって、何かあるかな?」
「基本的に、鷺坂や向島たちが頑張っていたみたいだからな。そして、俺たちがやったことと言えばーー……」
魔物を倒したり、奴の攻撃を受けただけ。
「鷺坂さんは呼びに行かなくっても良いのかな?」
それは純粋な疑問だったのだろうが、今はタイミングが悪かったんだと思う。
「彼女なら、後で合流するそうですよ。先に謁見の間に行っているようにと」
栗山さんの疑問に、エルがそう返す。
「後でって……謁見の間って、後で入ってこられるようなものなんですか?」
「普通は無理です。陛下が姿を見せてしまえば、何らかの事情が無い限りは、謁見が終わるまでは扉が開かれることはありません。彼女も一体、どうするんでしょうかね」
「どうするもこうするも……」
鶫が何か呟いた気もするが、はっきりとは聞き取れなかった。
「推測などは後にして、そろそろ行きましょう。皆様をお待たせするわけにはいきませんから」
「それもそうだね」
とりあえず今は、エルたちとともに謁見の間に向かった。
☆★☆
「公の場でのご挨拶が遅れて申し訳ありません、陛下。ノーウィスト王国勇者、鷺坂榛名です。此度は色々とご迷惑をお掛けいたしております」
「いや、構わんさ。寧ろ、こちらにも非はあったのかもしれないのだから、そちらが気にしないとはいえ、こちらとしては他国の勇者殿に対して、失礼をした」
国王陛下に挨拶をする。
私が勇者装束で謁見の間に入ってきたとき、反応は二種類だった。
「何故? どうして?」という疑問を抱いたであろう面々と、「やっと来たか」というどこか面白そうにしている面々だ(イースティアメンバーは後者)。
薄々勘付いていたであろう面々は、特に反応を示してはいない。
「けれど何故、今になって打ち明けたんですか?」
「タイミングからしても、ちょうど良い機会だから、ですかね。仲間がこの国に居るうちに打ち明けた方が、後の行動もし易くなりますから」
「……鷺坂さんは騙してたの?」
「隠してはいたけど、騙してはないよ。バラバラに召喚されてきたならともかく、同じ召喚陣の上に居て、『私は別の国の勇者なんだけど』なんて言えるわけないでしょ。そんなことを言えば、君たちは私のことを『ちょっと頭のおかしい人』とか『電波』だとか思っただろうし、こっちもそれは避けたかったからね」
エレンシア殿下の問いに答えた後、桐生君の問いにも答える。
「私が君たちの召喚に引っかかって巻き込まれなければ、こんな面倒なこともしなくて良かったかもしれないけどね」
「それは……」
「それは違うよ! だって、鷺坂さんが居てくれたから、私だって気まずい思いをしなくて済んだし、あのお店にも行けたんだし!」
栗山さんが桐生君を遮って告げる。
そりゃ、同郷者とはいえ男三人に女一人じゃ不安にもなるか。
「だから、面倒とか言わないで!」
必死にこちらを見てくる彼女。
後ろからとん、と小突かれて後ろを見れば、にやにやするララとフィアーナ殿下が居た。
「それに、正直、ヒントは沢山あったからなぁ。向島が『友人』って言った時点で勘付けたしさ。いやに仲が良いはずだよな。同じ『勇者』同士なら」
確かにヒントは出したけど、私はそこまで察しろとは言っていない。
それにーーと向島君に目を向ければ、肩を竦められた。
「俺は、鷺坂たちが勇者云々話してるのを聞いていただけだがな。この前の件で理解した」
この前の件って、ラクライール戦の時のことかな?
「ーーどうやら、誤解も解けたようだし、貴女も『ノーウィストの勇者』として、明日の晩に予定している祝賀会に出席してもらえるかな?」
「祝賀会、ですか?」
「これから先、破壊箇所などを直していかないといけないわけだが、そうなると当分先になってしまうからな」
陛下からそう告げられ、フィアーナ殿下に目を向ければ、頷かれる。
「そういうことでしたら、我々ノーウィスト一行、参加させていただきます。陛下」
「そうか。そういうわけだから、みんな彼女たちに対して、無礼や粗相が無いようにな。我はノーウィスト王国と戦争になることだけは避けたい故」
「拝命致しました、陛下」
陛下の言葉に、この場に集まっていた貴族たちも頭を下げる。
これは少し、ややこしいことになったか?
☆★☆
「あー、いつまで経っても、あの空間は慣れないや」
「その割には堂々としていたじゃねえか」
所変わって、私の(使っている)部屋である。
「……間違ったことは言ってないはずだけど……うがぁぁっ!」
「今更何言ってんだよ。俺たちが手助けする隙すら無かったじゃねえか」
「『テメェら。口を挟んだり、邪魔するなよ』って牽制していたのは、どこのどいつだよ」
「だから、何らかの反応を示すはずだった貴族たちも静かだったんだね」
納得だ。
「それで、勇者様たち。祝賀会の装束はどうするつもりかしら?」
フィアーナ殿下の問いに、向島君と目を合わせる。
「この姿で良くない?」
「今からじゃ、どっちみち頼んだところで、間に合わないだろうしなぁ」
現在進行形で着ている勇者装束に目を向けてみるが、私にしてみれば、これが勇者だと示せる装束なんだよなぁ。
「それでも、正装しようとする気は無いの?」
「逆に聞き返すけど、勇者装束は正装扱いしてもらえないの?」
「イースティアの勇者様はともかく、貴女は無理があるでしょ」
「男女差別だー」
何も無いとは思うけど、帯剣ぐらいはしておきたいじゃないか。
「じゃあ、祝賀会用で勇者装束を改造……工夫するよ。それでどう?」
「あのねぇ……それと今改造ってーー」
「ねぇ、殿下。もう良いじゃん。それで妥協しようよ。サーリアンメンバーに対して、仕立て屋さんが大慌てみたいだし、そこに一人追加されても大変じゃない? 榛名が初めて顔見せするときだって、服から何だって大慌てだったんだからさ」
「むー……」
ララが口添えしても、フィアーナ殿下が不服そうだけど、勇者装束の一部を変えるだけだから許してほしい。
「さて、と。そういうわけだから、材料調達しにいかないと」
「材料調達って、どうするつもりだ?」
「城下でそれらしいものを探してみるつもり。工夫すれば、いくらでも化かせられるからね」
さて、どう化かそうか。
「イースティアメンバーも、その格好で出席するのか?」
「まさか。俺たちはともかく、女性陣は魔法使えるからな。仮に何かあったとしても、正装でも問題ないとは思うんだが」
「榛名ぁ」
ウィルの問いに、アスハルトさんが答えるが、それを聞いたフィアーナ殿下が「どうしてもダメ?」と視線で問いかけてくる。
「着ないよ。魔導師組と違って、私は『勇者』だからね。それに、ドレスに帯剣はおかしいでしょ」
「う」
「身体のどこかに隠し持ったりすれば、問題なくないか?」
「短剣じゃあるまいし、どこに隠せと?」
この際、何かにつけて文句を言ってると思われても構わない。
魔導師組のように魔法で対応できないわけでもないが、何かあったりすると怖いからなぁ。
「大体、パーティー系に嫌な思い出があるから、ドレスを着て行きたくないの。勇者だと明かしたのに、絶対『勇者』だと思わずに声掛けられるって!」
わなわなしながらそう話せば、「あー」と面々の方から声が洩れる。
「鷺坂の場合は、『勇者』って言うより、『どこかのお嬢様』に見えるかもしれないもんなぁ」
「椿樹!」
クリスさん、気持ちだけ受け取っておきますよ。
「でも、そう言われれば、そうだよね。今日明かしたばっかりなんだから、勇者装束じゃなきゃ、誰も榛名が勇者だなんて思わないだろうし」
「……ララ、笑いながら言ってやるな。見ろ。榛名の奴、かなり落ち込んだじゃねぇか」
……部屋の隅って、良いよね。
「鷺坂と誰か一人でも一緒に居るか、声を掛ければ、問題無くね?」
「そうなると、貴方たちイースティアメンバーに任せることになるわよ? 私、挨拶回りしないといけないだろうし」
「俺とララも護衛として、殿下に付くことになるからな。つまりーー……」
何か、視線を感じる。
うん、話は聞いているから。分かってるよ。
「ま、何事もなく、上手く行けば良いんだけどね」
ララが立ち上がり、部屋の扉を開く。
「きゃっ!」
「うわっ!」
そして、二人ーー栗山さんと桐生君が転がってきた。
「こっそり聞くとか、おねーさん感心しないなぁ」
「あ、いや、これは……」
「あの、その……」
笑顔のララに、吃る二人。
ちなみに、ララは二~三ヶ月違いなだけでフィアーナ殿下とウィルとは同い年である(つまり、ララが二人に挟まれている形)。なので、桐生君たちよりも年上と言っても、間違ってなかったりする。
「鷺坂さんは祝賀会に着ていくドレスとかいらないのかなぁ、と」
「いらないよ」
「即答ね」
栗山さんの疑問に即答すれば、魔導師勢に苦笑された。
「勇者装束で行くよ」
「そっか。その確認がしたかっただけなんだけど、部屋の前に居たのは、いろいろとタイミングを見ていただけだから」
「そっか。けど、ありがとうね」
おそらく、メンバーを代表としてのこの二人だったのだろうが。
軽く手を振って去っていく二人を見送り、私も財布などを身に着けて、立ち上がる。
「それじゃ、さっきも言ったけど、私は材料調達しに行ってくるから、後はもう適当に解散しておいて」
「は!?」
ぎょっとする面々をそのままに、私は部屋を後にした。




