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期間限定勇者は  作者: 夕闇 夜桜
サーリアン国・王都~王都近郊編
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第二十四話:勇者としての意地を見せる


「さて、勇者たちよ。この有り様をどう対処する?」


 それが、奴の問い。

 答えは決まっているようなものだが、まだ負傷者が居るこの場で大技は使えない。

 それでもーー


「もちろん、魔物たちを倒して、あんたも倒すよ」


 剣の切っ先を向けて、宣言してやる。


「まあ、鷺坂ならそう言うと思ったよ」


 向島(こうじま)君がどこか納得したように言う。

 こちらに召喚されてから二~三年の付き合いだって言うのに、怖いぐらいに意志疎通が出来ている。

 ……って、二、三年もあれば、いやでも分かるようになるか。


「つーわけで、覚悟しろよ。ラクライール」


 向島君がラクライールにニヤリと笑みを向ける。

 だが、私たちにラクライールの反応を見る余裕は無かった。


榛名(はるな)!」

椿樹(つばき)!」


 ララたちが相手していた魔物の一部が、こちらに来てしまったのだ。


「ったく、これで何度目だよ!」


 向島君が、近付いてくる魔物たちを一斉浄化するが、正直キリがない。

 ーー本っ当、使い物にならない勇者だな。私は。


「……まだ戦えるだけマシだよ。鷺坂(さぎさか)は」

「それ、励ましてくれてるの?」

「少なくとも、貶してはいない」


 そう返せるだけの余裕はあるんだ。さすが。


「『荒れ狂い 降り注げ』“フリージング・テンペスト”!」


 氷の嵐が吹き荒れ、魔物たちを傷つかせ、吹き飛ばす。

 でも、氷属性だけで風属性が加わってないから、微妙に威力が低い。


「『燃え盛れ』“オーバーヒート”!」


 そして、それでも駄目なら、焼き尽くす。


「……容赦ないな。お前」

「引かないでくれる? 私の場合、一斉浄化出来ない以上、こうするしか無いんだから。君が自分の負担を増やしたいのなら別だけど」

「……いや、それぐらいしないと、倒れないのも事実だし、鷺坂は何も悪くねぇよ」


 そのまま、魔物を捌いていくのだが。


「ここ、任せても良い?」

「どうした?」

「うちの姫様と栗山(くりやま)さんがピンチなので」


 見たときには、見事に囲まれてましたよ。まあ、フィアーナ殿下の防壁が堅すぎて破れないみたいだけど。


「なら、早く行ってやれ」

「ありがとう」


 他に何か言いたいことがあったかもしれないのに、許可してくれたことにお礼を言って、フィアーナ殿下たちの元まで強行突破する。


「鷺坂さん!」

「かなり無茶したわね」

「まぁね。後でちゃんと治してよ?」

「任せて」


 私が来たことで声を上げる栗山さんを余所に、フィアーナ殿下と防壁越しにそう話す。


「浄化はーー光属性の専売特許じゃないんだから!」


 地面に炎刀を突き刺せば、魔物たちが地面から現れた炎で丸焼きになる。

 どうやら、これは『聖炎』の(たぐ)いらしいのだが、私は聖属性が使えないから、さっきの“フリージング・テンペスト”のように、どういう原理で『聖炎』が発動しているのかは分からない。


「やっぱり、あいつを倒さないと、現状打破は無理そうね」

「そうだね……」


 風属性か水属性が解放されれば良いんだけど、都合良く解錠されるわけがない。

 尤も、一番解放された方が良いのは、光属性だけど。


「まあ、頑張るよ」


 炎刀から放たれた『聖炎』もどきや避けたことで、その効果を受けなかった奴を捌いていく。

 そんな合間に、ちらりとウィルやララたちの方を見る。

 うん、二人だけじゃなく、クリスさんやアスハルトさんたちの方も大丈夫そうだ。

 そして、レアちゃん。器用に逃げ回りながら、怪我した人たちを治療してます。しかも、使っている属性が属性だけに、その影響で魔物たちも思うように行動が出来ないらしい。


「っ、余所見、を、してる、場合かっ……!」

「何かぼろぼろだね。鷹槻(たかつき)君」


 一応、治療はされたんだろうけど、何か酷い。


「なん、か、余裕、そう、だな……」

「そう見える?」


 これでも、焦っているのだが。


「まあいいや。君は向こうに行ってなよ」


 身長差が無くもないが、フィアーナ殿下たちの方に鷹槻君を放り入れる。


「おい、鷺坂!」

「どういうつもり?」

「彼の治療をお願い。防壁展開と同時進行になるだろうけど、その間は何とか防ぐから」


 無茶なことを言っているのは分かっているけど、話し方から分からない私じゃない。


「せめて、まともに話せるぐらい回復してくれないかな? 完全に治せとは言ってないんだからーーその辺の判断は任せるよ。フィアーナ」

「ったく、ほとんど丸投げしているようなものじゃない」


 そう言いながらも、ちゃんとやってくれることを私は知っている。

 だからーー


「頼んだよ」


 きっと、ここから先は、ほとんど話せないだろうから。


魔物(あんた)たちの相手をしている暇なんて、無いんだよ!」


 今度は雷属性で浄化作業をする。


 ーーああ、ストレスが溜まりそうだ。


「“氷結ーー轟雷華(ごうらいか)”!」


 魔物たちの命を糧にするかのように、氷と雷の華が咲く。


「もう一発!」


 どんどん魔力が減っていくのが分かる。

 そりゃそうだ。魔物掃討のために魔法を使い続けているんだから。


「榛名、無茶しちゃ駄目!」


 フィアーナ殿下の悲鳴じみた声が聞こえる。


「大丈夫。無茶はしてないよ」


 嘘だ。

 剣で切り裂いて、魔法を放って。

 それでも、強化された魔物たちは減らなくて。


「っ、」


 切り裂いた魔物たちの血が、剣や装束に掛かる。

 今、ものすごく、力が足りない。


「こっのぉぉぉぉっ!!」


 何でも良い。どの属性でも良いから、鍵よ、開け。

 『勇者』として、戦える力を。みんなの隣に並べる力を。


「鷺坂……?」

「あの馬鹿……っ!」


 遠くで戸惑った声や焦ったような声が聞こえる。


「榛名! 無茶しちゃダメぇっ!」


 あ、ララの声だ。

 不安そうにしながらも、きっちり魔物たちの(とど)めを刺してる辺り、彼女に抜かりは無いのだろう。


「……」


 大丈夫。まだ、立っていられる。

 気を抜くのは、全てが終わってからだ。


「『燃え落ちろ』ーー“獄炎雷破(ごくえんらいは)”ぁっ!」


 雷を纏った炎が、雷のようなスピードで魔物たちを殲滅していく。


「マジかよ……」

「さっすがぁ」


 驚愕と感心したような声が聞こえてくる。

 限られた力は使い方次第で、如何様(いかよう)にもーー時に、強力な力にもなる。


 そして、私たちを取り巻いていた魔物たちは全滅していた。

 だって、戦い慣れた二組(ふたくみ)の勇者一行が相手だったのだから、そうなってしまうのも仕方ない。


「さて、最後に残ったのは、お前だけになったぞ? ラクライール」


 退()くか、戦うか。

 奴はどうするのだろうか。


「俺は、お前たちに一発入れるまでは、退くつもりは無いぞ」


 それはつまり、第二ラウンドが決定した瞬間だった。



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