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期間限定勇者は  作者: 夕闇 夜桜
サーリアン国・王都~王都近郊編
23/50

第二十三話:合流と忠告


桐生隼斗視点




「少し、暴れ過ぎたな。ラクライール」

「ようやく真打ち登場か? 勇者様」


 薄れ掛けた意識の中、俺たちを守るかのように立つ人物に、ラクライールは笑みを浮かべていた。

 だが、それよりもーー


「さ、ぎ、さか、さん……?」


 いつもと姿が違うせいで、はっきりとは分からないが、それでも、一緒に召喚された彼女を見間違えるはずがなかった。

 だが、鷺坂(さぎさか)さんは俺たちの声に答えることはなく、ラクライールの方をじっと見ている。


「私たちと比べながら、ここまでやる必要があったのか?」

「ああ、あったな。お陰で、お前らがこうして来ているじゃねぇか」


 鷺坂さんの問いに、ラクライールは楽しそうに言う。


「けど、さすがのお前も、そいつらを一人で庇いながら、この量を捌くことは出来んだろ?」

()められたものだなぁ。私も」


 ニヤリとしながら問うラクライールに、鷺坂さんは溜め息混じりに返す。


「一人で出来ないからこそ、仲間に頼るんじゃん」


 そのまま、彼女は指示を飛ばす。


「ウィル、ララ。数が数ですが、雑魚の掃討と援護を頼みます。大変かと思いますが、フィアーナは二人のサポートと怪我人の治療をお願いします」

「分かってる」

「任せて」

「治させ次第、後方に下がらせる」


 彼女の指示に、いつの間に来ていたのだろう、三人がそれぞれ返す。

 一体、どんな関係なのだろうか。


「私は、奴の相手をする」

「っ、鷺坂、さん。そいつは強い。一人でなんて無茶だ」


 何とか声を振り絞る。

 何をする気なのかは分からないが、一人では無理だ。

 だから、忠告したのに……


「うん、知ってる。っていうか、君たちが今ここであいつに殺されたら、私たち(・・・)が困る」

「え……」


 それは、どういうこと何だろうか。


「おいおい、あれから何日か経ったのに、まだ言ってないのかよ」

「言おうが言わないでおこうが、私の勝手でしょ」

「くくっ。お前のそういうところ、嫌いじゃねぇよ」


 ラクライールの言葉に、鷺坂さんが淡々と返しながら、抜剣する。


「そう。とはいえ、こっちにしてみたら正当防衛だから、どんな結果になろうと、文句は受け付けない」


 鷺坂さんの持つ剣が、先程のラクライールの剣のように帯電する。

 そして、鷺坂さんが目を細めたかと思えば、彼女の姿はすでにその場には無く、ラクライールと激突していた。

 それを驚いて見ていれば、今度は俺の身体がいきなり光り出す。


「っつ!?」

「動かないで。治療中だから」


 とっさに動いたからか、内心驚いているはずなのに、冷静にそう言われる。

 そこで、治癒魔法を掛けてくれている人が誰なのか、気づいた。


「あ、貴女は……」

「私のこと、覚えてる? というか、誰なのか分かる?」

「え? あ、はい。他国の王女様……フィアーナ様、ですよね」


 そう告げれば、溜め息を吐かれた。


「いろいろと聞きたいことはあるみたいだけど、それについては後で纏めて答えてあげるから、何とか動けそうなら、貴方たちは後方に下がりなさい」

「えっ!? けど……」


 不安そうに鷺坂さんの方を見れば、そのことは彼女に通じたらしい。


「君が今行っても、あの子の足手纏(あしでまと)いになるだけだから」

「足手纏いって……」


 確かに、この人たちからしてみれば、足手纏いなんだろう。


「でも、俺は勇者です。彼女一人よりは、二人の方が良いと思いませんか?」

「確かに、人数は多い方が良いのかもしれない」

「なら……!」

「けど、それはあの子の負担が増えるだけだから、認められない」


 一瞬、許可してくれるかと思ったけど、そんなことは無かった。


「確かに、君は喚ばれた時よりも強くなったのかもしれない。けど、思い上がらないで。あの子のーー榛名の隣に立つにはまだ早い」

「鷺坂さんの、隣……」


 ああ、そういう解釈も出来るのか。


「今、君が出て行けば、君の死を防ぐために、榛名(はるな)は君を守りながら戦うことになるだろうし、意識も君の方に割かないといけなくなる。もし、そのせいで彼女が死ぬようなことになれば、私たちは君を許すことはできない」

「それはっ……」


 否定も反論も出来ない。


「それに、忘れたとは言わせない。今、この国に居る『勇者』は、貴方たちだけじゃないことを」

「……」


 彼女から目を離して、二人を見れば、バチバチと火花を散らせながら、ぶつかり合っていたはずなのに、そんな二人の間に向けて、どこからか魔法が飛んでくる。


「っ、“永久詠唱(エターナル・スペル)”か……っ!」


 苦々しそうに顔を歪めるラクライールに、魔法を放った張本人ーークリスさんは無表情を返していた。


「すまん、少し遅れた」

「謝る暇があるなら、手を動かして」


 そして、更に姿を見せたのは、イースティア帝国の勇者でもある向島(こうじま)だった。

 そんな軽く挨拶する向島に、特に気にした様子もなく、鷺坂さんは指示をする。


「人使いの荒い奴だなぁ。ま、やるけど」


 鷺坂さんから雷撃が、向島から光のレーザーのような魔法が放たれる。


「っと、危ない危ない」


 だが、ラクライールはあっさりと避けていく。


「鷺坂、拘束系は?」

「大丈夫、問題ない」

「うし。じゃあ、あいつの動きを止めてくれ。一発当てたい」

「それには同意するし、まあ無理だと思うけど、やるだけやってみるよ」


 向島の頼みに、やれやれと言いたげな鷺坂さんだが、彼女の近くに新たな魔法陣が現れる。


「『火よ 氷よ。()の者を捕らえよ』“捕縛の鎖(バインド・チェーン)”」


 火と氷の鎖が、ラクライールに向かっていく。


「その程度で、俺が捕まるとでも?」

「まさか。だから、保険を掛けておいたんだよ」


 そう告げた鷺坂さんはニヤリ笑みを浮かべる。


二重詠唱(ダブル・スペル)かっ……!」


 自身の腹部に何重にも巻き付く鎖を見て、顔を歪めるラクライールに、向島が追撃する。


「がっ……!」

「まずは一発!」


 とにもかくにも、一発当てられたことに、向島が笑みを浮かべる。


「ぐぐぐ……イースティアの勇者ぁぁぁぁ!!」


 ラクライールが叫べば、魔物たちの咆哮も響く。


「マズい」

「え?」


 フィアーナ殿下が何か呟いた気がするが、よく聞こえなかった。


「ララ、クリスさん! 掛けれるだけ全強化して!」


 そして、鷺坂さんも何か感じ取ったのか、彼女も叫ぶ。


「……もしかして俺、ヤバいことした?」

「向島君のせいじゃないから」


 顔を引きつらせながらも尋ねる向島にそう返しながらも、鷺坂さんが目に見えて焦っているのは分かる。


「やってくれたな、ラクライール!」


 きっと、ここ最近で聞いた彼女の、一番の大声だろう。


「俺のせいではないだろう。魔物たちを強化したことは否定しないが」


 否定しないのか。


「さて、勇者たちよ。この有り様をどう対処する?」


 そう、奴は俺たちに問い掛けた。



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