第二十三話:合流と忠告
桐生隼斗視点
「少し、暴れ過ぎたな。ラクライール」
「ようやく真打ち登場か? 勇者様」
薄れ掛けた意識の中、俺たちを守るかのように立つ人物に、ラクライールは笑みを浮かべていた。
だが、それよりもーー
「さ、ぎ、さか、さん……?」
いつもと姿が違うせいで、はっきりとは分からないが、それでも、一緒に召喚された彼女を見間違えるはずがなかった。
だが、鷺坂さんは俺たちの声に答えることはなく、ラクライールの方をじっと見ている。
「私たちと比べながら、ここまでやる必要があったのか?」
「ああ、あったな。お陰で、お前らがこうして来ているじゃねぇか」
鷺坂さんの問いに、ラクライールは楽しそうに言う。
「けど、さすがのお前も、そいつらを一人で庇いながら、この量を捌くことは出来んだろ?」
「嘗められたものだなぁ。私も」
ニヤリとしながら問うラクライールに、鷺坂さんは溜め息混じりに返す。
「一人で出来ないからこそ、仲間に頼るんじゃん」
そのまま、彼女は指示を飛ばす。
「ウィル、ララ。数が数ですが、雑魚の掃討と援護を頼みます。大変かと思いますが、フィアーナは二人のサポートと怪我人の治療をお願いします」
「分かってる」
「任せて」
「治させ次第、後方に下がらせる」
彼女の指示に、いつの間に来ていたのだろう、三人がそれぞれ返す。
一体、どんな関係なのだろうか。
「私は、奴の相手をする」
「っ、鷺坂、さん。そいつは強い。一人でなんて無茶だ」
何とか声を振り絞る。
何をする気なのかは分からないが、一人では無理だ。
だから、忠告したのに……
「うん、知ってる。っていうか、君たちが今ここであいつに殺されたら、私たちが困る」
「え……」
それは、どういうこと何だろうか。
「おいおい、あれから何日か経ったのに、まだ言ってないのかよ」
「言おうが言わないでおこうが、私の勝手でしょ」
「くくっ。お前のそういうところ、嫌いじゃねぇよ」
ラクライールの言葉に、鷺坂さんが淡々と返しながら、抜剣する。
「そう。とはいえ、こっちにしてみたら正当防衛だから、どんな結果になろうと、文句は受け付けない」
鷺坂さんの持つ剣が、先程のラクライールの剣のように帯電する。
そして、鷺坂さんが目を細めたかと思えば、彼女の姿はすでにその場には無く、ラクライールと激突していた。
それを驚いて見ていれば、今度は俺の身体がいきなり光り出す。
「っつ!?」
「動かないで。治療中だから」
とっさに動いたからか、内心驚いているはずなのに、冷静にそう言われる。
そこで、治癒魔法を掛けてくれている人が誰なのか、気づいた。
「あ、貴女は……」
「私のこと、覚えてる? というか、誰なのか分かる?」
「え? あ、はい。他国の王女様……フィアーナ様、ですよね」
そう告げれば、溜め息を吐かれた。
「いろいろと聞きたいことはあるみたいだけど、それについては後で纏めて答えてあげるから、何とか動けそうなら、貴方たちは後方に下がりなさい」
「えっ!? けど……」
不安そうに鷺坂さんの方を見れば、そのことは彼女に通じたらしい。
「君が今行っても、あの子の足手纏いになるだけだから」
「足手纏いって……」
確かに、この人たちからしてみれば、足手纏いなんだろう。
「でも、俺は勇者です。彼女一人よりは、二人の方が良いと思いませんか?」
「確かに、人数は多い方が良いのかもしれない」
「なら……!」
「けど、それはあの子の負担が増えるだけだから、認められない」
一瞬、許可してくれるかと思ったけど、そんなことは無かった。
「確かに、君は喚ばれた時よりも強くなったのかもしれない。けど、思い上がらないで。あの子のーー榛名の隣に立つにはまだ早い」
「鷺坂さんの、隣……」
ああ、そういう解釈も出来るのか。
「今、君が出て行けば、君の死を防ぐために、榛名は君を守りながら戦うことになるだろうし、意識も君の方に割かないといけなくなる。もし、そのせいで彼女が死ぬようなことになれば、私たちは君を許すことはできない」
「それはっ……」
否定も反論も出来ない。
「それに、忘れたとは言わせない。今、この国に居る『勇者』は、貴方たちだけじゃないことを」
「……」
彼女から目を離して、二人を見れば、バチバチと火花を散らせながら、ぶつかり合っていたはずなのに、そんな二人の間に向けて、どこからか魔法が飛んでくる。
「っ、“永久詠唱”か……っ!」
苦々しそうに顔を歪めるラクライールに、魔法を放った張本人ーークリスさんは無表情を返していた。
「すまん、少し遅れた」
「謝る暇があるなら、手を動かして」
そして、更に姿を見せたのは、イースティア帝国の勇者でもある向島だった。
そんな軽く挨拶する向島に、特に気にした様子もなく、鷺坂さんは指示をする。
「人使いの荒い奴だなぁ。ま、やるけど」
鷺坂さんから雷撃が、向島から光のレーザーのような魔法が放たれる。
「っと、危ない危ない」
だが、ラクライールはあっさりと避けていく。
「鷺坂、拘束系は?」
「大丈夫、問題ない」
「うし。じゃあ、あいつの動きを止めてくれ。一発当てたい」
「それには同意するし、まあ無理だと思うけど、やるだけやってみるよ」
向島の頼みに、やれやれと言いたげな鷺坂さんだが、彼女の近くに新たな魔法陣が現れる。
「『火よ 氷よ。彼の者を捕らえよ』“捕縛の鎖”」
火と氷の鎖が、ラクライールに向かっていく。
「その程度で、俺が捕まるとでも?」
「まさか。だから、保険を掛けておいたんだよ」
そう告げた鷺坂さんはニヤリ笑みを浮かべる。
「二重詠唱かっ……!」
自身の腹部に何重にも巻き付く鎖を見て、顔を歪めるラクライールに、向島が追撃する。
「がっ……!」
「まずは一発!」
とにもかくにも、一発当てられたことに、向島が笑みを浮かべる。
「ぐぐぐ……イースティアの勇者ぁぁぁぁ!!」
ラクライールが叫べば、魔物たちの咆哮も響く。
「マズい」
「え?」
フィアーナ殿下が何か呟いた気がするが、よく聞こえなかった。
「ララ、クリスさん! 掛けれるだけ全強化して!」
そして、鷺坂さんも何か感じ取ったのか、彼女も叫ぶ。
「……もしかして俺、ヤバいことした?」
「向島君のせいじゃないから」
顔を引きつらせながらも尋ねる向島にそう返しながらも、鷺坂さんが目に見えて焦っているのは分かる。
「やってくれたな、ラクライール!」
きっと、ここ最近で聞いた彼女の、一番の大声だろう。
「俺のせいではないだろう。魔物たちを強化したことは否定しないが」
否定しないのか。
「さて、勇者たちよ。この有り様をどう対処する?」
そう、奴は俺たちに問い掛けた。




