第二十話:襲撃
桐生隼斗(前者)/フィアーナ(後者)視点
鷺坂さんに指摘されたことは、ララさんにも指摘され、魔力配分が一点集中型にならないようにするための特訓が始まった。
まずは、自分の魔力の感じ取ることから始まったのだが、これは鶫たちも似たようなことを言われていたのか、一緒に行った。
「どう? 感じられた人は居た?」
鷺坂さんの声が聞こえてくる。
彼女は、自分が言い出したことだからと、俺たちの魔力操作に付き合ってくれている。
「……何か、水の中に居るみたいだ。時折、酸素を求めるかのように泡が出てくる」
「その感じが魔力だよ」
鶫の言葉に、ララさんがそう返す。
それにしても、焦りそうになる。
「焦っても意味ないから、落ち着きながらやりなよ」
落ち着けって言われても……
「鷺坂」
「何かな?」
「吾妻の様には感じないんだが」
「うーん……魔力の感じ方は人それぞれだからね」
鷹槻の言葉に、鷺坂さんが唸る。
人によって、感じ方が違うのなら、俺はどう感じるのだろうか。
「桐生君は?」
「まだ、かな」
「そっか」
襲撃までの時間が無いはずなのに、鷺坂さんたちは俺たちを急かそうとはしない。
「……ハルナさん」
「ったく、このタイミングか」
「もしかして、第一陣?」
何かを感じ取ったのか、女性陣の様子が変わる。
「魔力操作の練習は、一時中断します」
「え、何。どうしたの?」
「まさか、来たのか」
来たってーー
「魔族が」
「奴の魔力が感じないから、多分、一緒には居ない」
警戒態勢になる俺たちに、ララさんが静かに告げる。
「けど、城内に入られたら面倒ね。今のうちに、削れるだけ削っておく?」
「……剣取ってくるから、この場とあっちを任せても良い?」
「任せて。けど一応、気を付けてね」
分かってる、と返すと、鷺坂さんが出て行く。
「さて、それじゃあ、この場とあちらを任されたからには、それ相応の仕事をしないとね」
早速、姿を見せた魔物が、完全に姿を現す前に二人の風魔法によって、瞬時に微塵切りにされる。
登場時間、数秒のことだった。
「っ、そうだ。俺たちもーー」
帯剣していて良かった。
「君たちはまだ手出ししない」
「もしもの時のために、体力と魔力は温存しておきなよ」
そう言う二人には頼りがいはあるのだがーー
「おいおい、マジかよ……」
空と地面から現れる魔物の数に、焦りが見え始める。
「さぁて、クリス。魔法と防壁。どっちを担当する?」
「魔法を担当するわ」
「了解」
拳を軽くぶつけ、二人の詠唱が始まる。
『古より眠りしモノよ』
そんな二人を好機とばかりに襲いかかってくる魔物だが、片やララさんの防壁に防がれ、片やクリスさんの魔法で倒される。
「凄い……」
「隼斗、俺たちもぼうっとしてる場合じゃない」
「っ、そうだな」
俺たちも狙われているんだった。
「……鷺坂、大丈夫だよな? 剣取りに行くって言ってたけど」
「……」
誰からも返事がない。
そんな中、唯一返してくれたのは、ララさんだった。
「あの子なら大丈夫。それより、戦う気なら、移動しながら戦うよ。他の場所に居るメンバーが心配だから」
「移動って言っても……」
「道は私たちが切り開くから」
ーーあんまり、国家魔導師を嘗めんなよ。化け物ども。
そう呟いたララさんは、正直怖かった。
☆★☆
「ったく、次から次へと……!」
イライラしているのか、ウィルがモンスターを切り捨てる。
「これじゃ、キリがないな」
イースティアの騎士、アスハルトも溜め息混じりに告げる。
「あわわ……」
一度実戦経験があるとはいえ、あれは結局、私たちとイースティア勢が片付けたようなものだ。
「大丈夫?」
「まだ、何とか」
イースティアの神官、レアトリアは私と同じ後方支援系なためか、本来はこういうことには向いていない。
「せめて、うちの勇者か嬢ちゃんが来てくれれば、何とかなるんだろうが……」
「うちの勇者が頼りにされてるのは嬉しいが、多分、向こうも似たような展開になってるだろうよ」
そう、こっちに向かってるとしても、到着するまでは時間が掛かる。
「すみません。私がもっと魔法を使えていたら……」
「貴女の、せいじゃない。メンバーの、分け方が悪かった、だけ」
「それに、このタイミングで来た奴らもね」
私も使える魔法で対応するが、キリがない。
「ララたちが居たら、焼き殺したり出来たんだろうけど……」
ウィルが物騒なことを口にしているが、それぐらいしないと倒せない気もする。
それに、このタイミングで魔導演習場の上空に現れた巨大な魔法陣から風と火の混合魔法と思われるものが放たれていた。
……うん。あれは間違いなく、ララたちの魔法だね。
「これでもかとぶっ放してるなぁ。うちらの魔導師様たちは」
アスハルトが遠い目をする。
「向こうが頑張っているのに、こっちが文句言ってるのって、どうなの?」
「女性陣ばかりに働かせ続けられないよなぁ?」
そこで、にっと笑みを浮かべる騎士二人。
「あんまり、無茶な動きはしないでよ」
「分かってますよ、殿下」
本当に分かっているのかは分からないし、直前の言葉をひっくり返すようだが、この状況で無茶をするなと言う方が無理だろう。
「とにもかくにも、私たちが全力でサポートしてあげるから、さっさとここを切り抜けるわよ」
「はい!」
「もちろん!」
「うん」
「頑張ります!」
それぞれが返してくる。
それに頷き、みんなが居るであろう方向に目を向ける。
ーー榛名、ララ。何とか合流するから、無事でいて。




