第二話:自己紹介をする
「そういえば、自己紹介がまだだったね。見知らぬ顔もいることだし、自己紹介と行こうか」
そう提案する黒髪の彼に、一瞬マジかと思った。
仮にも勇者である私の名前は、この国にも伝わっているだろうし、王族であるお姫様なら、名前で気づく可能性もある。
そんな私がどうしよう、と思案している間にも、話は進んでいく。
「じゃあ、言い出しっぺのお前からな」
「ああ、どっちみちそのつもりだよ」
どうやら、この二人は友人らしい(いや、友人になったのか?)。
そして、彼は自己紹介を始めた。
「俺は桐生隼斗。黎森高校二年の普通科所属だ」
今言ったことに付け加えるなら、黒髪であり、お姫様が頬を染めていたのは彼である。
あと、いかにもモテそうな雰囲気がある。
「次は俺な。俺は吾妻鶫。隼斗と同じく黎森高校二年。普通科所属だ」
彼は茶髪で、軽そうにも見える見た目をしている。
「俺は鷹槻葵。星王高校二年。商業科所属」
彼は前の二人とは違い、どちらかといえば不良みたいな見た目である。
というか、同じ高校だったか。
「星王高校!? エリート校じゃねえか!」
茶髪の……吾妻君がそう声を上げるが、確かにうちの高校はエリート校と噂されているけど、実はそこまで言われるほどではない。どちらかといえば、が前に付くぐらいだ。
「いつの話だ。いつの」
だから、彼のこの反応は間違っていない。
「じゃあ次は……」
男三人がこちらを見てくる。
つまり、私が先にやれと言うことか。
「鷺坂榛名。星王高校二年。普通科所属」
名前以外、他の面々と同じように名乗る。
「鷺坂……?」
何故か鷹槻君が反応した。
「知り合いか?」
「いや、でも聞き覚えが……」
「同じ高校だからじゃないのか?」
「いや、科が違うから、それはない」
鷹槻君の言う通り、同じ高校だから聞き覚えがあるだけなのかもしれないけど、商業科で聞き覚えがあるとすれば、もしかしてーー
「多分、うちの兄さんか姉さんのことかもね。二人とも目立つし」
あの二人のことなら、納得できる。
兄の方は普通科所属とはいえ生徒会役員だったし、姉は姉で有名人だったから。
「上に二人もいるのか?」
「下に弟もいるから、末っ子では無いけどね」
ちなみに、見事に一歳差である。
「あ、私の自己紹介まだだ。私は栗山胡桃です。黎森高校二年の普通科所属です」
「おお、同じ学校だったのか」
「あ、はい」
驚く吾妻君に、栗山さんが頷く。
ちなみに、大人しそうな彼女は、胡桃色に近い茶髪に緩いウェーブのある髪型をしている。
「それで、お姫様は?」
「わ、私はエレンシア・ドライ・サーリアンと申します。並びとしては第三王女です」
ふむ、第三王女か。
それにしても、私の知ってる王女と違うなんて本人の前でうっかり言ったら、あちらさんから殴られそうだ。
武闘派は何をするか分からんからな。
「と、ところで、ハルナは男性なんですか? 女性なんですか?」
「うん?」
早速名前呼びか、と桐生君よりも先に名前呼びされてもいいのかと思いつつ、そういえば、この世界ではズボンやパンツ系って、女の子や女の人たちは何かない限り着ないからなぁ。
「いやいや、いきなり何を言い出すかなぁ」
「というか、見れば分かるだろ」
おい、男共……
「それで、どうなのですか?」
簡単に面々の服装を言うなら、桐生君と吾妻君は制服で、残りの私たちは私服だ。
お姫様……エレンシア様はもちろん、ドレス。うん、やっぱり、私の知ってる王女と違(以下略
「どっちだと思う?」
そして、私ははぐらかしてみる。
微妙に納得がいって無さそうだけど、これが私だからね。
「それで、魔法習得の勉強をするんだろ?」
鷹槻君が元々の目的に軌道修正すると、私たちは属性の種類を覚え、実践することになった。
それにしても、私はどうすればいいんだろう?
もしかして、初歩の初歩から始めるか、使えない振りをした方がいいのか……?
そして、一番の問題。
「そして、皆さんには剣の扱い方も覚えてもらいますね」
鬼門だ。しかも、一番の鬼門だ。
相手となるのは騎士たちだろうし、プロ相手に剣の扱い方で手なんて抜けない。
しかも、今回の場合、相棒も少しの間は使えない。
「……マジか」
これは、魔法以上に手強いぞ。
「不安なら止めれば?」
「いや、止めるつもりはないよ。自分の身は自分で守らないといけないだろうし」
まあ、ゴブリンぐらいは問題なく倒せるし。
「わ、私も、チャレンジだけはしてみる」
「分かりました。でも、無理なら言ってください。魔法での防御方法もお教えしますから」
「……」
ああ、何だろう。この空気。微妙に悲しくなってきた。
今もの凄く、あの三人に会いたい。
自分がこの場にいることを、早く知らせたい。
でも、私は知らないし、気づかなかった。
鷹槻君が『鷺坂』について、私を見ながら思い出そうとしていることと、
「どうやら、ノーウィストの勇者様。こちらに来たみたいだ」
「そうなん?」
「ああ。でも、似たような気がいくつかあるな」
「え……まさか、それってーー」
とある場所で男女が話していたのだが、男の言い方に女は何となく理解したらしい。
そこへ、新たに会話に加わる者がいた。
「たとえ、人数が増えようが何だろうが、俺のやるべきことはただ一つ」
新たに会話に加わった者は笑みを浮かべて言う。
「あの勇者は俺が殺る」
だから、手を出すな。
そう告げ、その場から去ろうとする男に、女は呆れた。
「あんたに言われると、私、あの子に同情するわ。同じ女として」
「きゃははは! だよねー。ラクライールが言うと、何かエロく聞こえるよねー」
「うっせーぞ、クソガキが!」
見た目は子供な少年に、ラクライールと呼ばれた男が噛みつく。
「まあ、何だ。どうせ、こっちは四人だ。向こうが何人来ようが、最初のうちに潰しとけば問題ないだろ」
最初に女と話していた男の言葉に、ラクライールと少年の動きが止まり、ニヤリと笑みを浮かべる。
「どうせ、まだ俺たちに手も足も出せないんだ」
「え、ラクライール。ついに、ヤりに行くの?」
「……お前から殺ってもいいんだぞ? クソガキ」
火花を散らす二人に、男女は溜め息を吐き、もうツッコミすら放棄した。
魔王陣営が、そんなやり取りをしていたなんて、私は知らない。