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期間限定勇者は  作者: 夕闇 夜桜
サーリアン国・王都~王都近郊編
18/50

第十八話:質疑応答し、齎された知らせに思案する


 ぴちょん、と一つの滴が落ちる。


 ーーああ、この場所に来るのも、久し振りだ。


 この空間は、ラクライールにより、封じられた属性が錠付きの鎖となり、絡まり合うようにして出来上がっている。

 つまり、全属性が使えるようになれば、この空間は消滅することになるだろう。

 近くにあった鎖に触れてみるが、やはりというべきか、そう簡単には解錠できそうにない。


 ーー特に、勇者の証とも言える『光属性』は。


「……結局、“きっかけ”が無いと属性解放までは行かない、というわけか」


 目を開けば、使い慣れたーー自室と言っても良い室内が飛び込んでくる。


 お茶会をしたあの日。魔族の襲撃があると知り、標的(ターゲット)が自分たちかもしれないと思った桐生(きりゅう)君たちは、少しでもスキルアップするために、ウィルたちも相手に頑張って訓練している。

 ただーー


「あいつらの中に、お前みたいなタイプは居ないんだな」


 とは、向島(こうじま)君の言葉である。

 どうやら、栗山(くりやま)さん以外は魔法よりも剣の方が得意なのか、私みたいに剣より魔法の方が得意という人は居なかったらしい。


「……」


 ごろん、とベッドへと寝転がった後、右腕を視界を遮るように乗っける。

 襲撃まで、きっと、もう時間は残っていない。


   ☆★☆   


「……」

「あ、起きちゃったか」

「……人の部屋で何してるの」


 閉じていた目を開き、いきなり飛び込んできた人物に問う。


「いや、鷺坂(さぎさか)。そこは、もう少し慌てような? 俺はお前に、何もしてないわけだけど」

「ひ・と・の・へ・や・で、な・に・し・て・る・の?」


 丁寧に聞いてみれば、目を逸らしながら答えてくれる。


「……少し聞きたいことがあって、来てみたら寝ていたので、休憩がてら待たせてもらっていました」

「……いつ起きるか分からないのに、よく待とうって思ったよね」


 溜め息混じりに起き上がり、髪を手櫛で整え、服も軽く直して、ちゃんと横にならなかったからか、凝り固まったらしい首や肩を回して(ほぐ)す。


「いや、近くに居れば、気配を察知して起きるかもしれないって、向島が……」

「ふーん……」


 次会ったら締めてやろうか。


「で、聞きたいことって?」

「いくつかあるんだが、いいか?」

吾妻(あがつま)君の時間が許すなら、どうぞ」

「ああ、ありがとう」


 来訪者である吾妻君のお礼を聞きながら、テーブルと椅子がある方へと移動する。


「その……聞きたいこと、なんだけど」


 とりあえず、彼はお客さんなので、紅茶を出す。


「こ、向島とどんな関係なんだ?」

「とりあえず、まずは、それを飲んで落ち着こうか」


 そして、何故その疑問を口にしたし。


「あ、ああ……あ、美味しい」


 戸惑いながらも、口を付けた後、そんな感想が聞こえてくる。


「それで、向島君との関係、だっけ?」

「ああ」

「本人は何て?」

「詳しいことは本人に聞けって。あと、恋愛関係でも無いって」

「そっか」


 向島君も上手く逃げたものだ。


「恋愛関係で無いのは事実だよ。でも、そうだね。私たちの関係を言い表すなら、友人、かな」

「友人……」

「距離感は、君たちよりも近いだろうけどね」


 自分の分に口を付ける。


「あと、謝るのが遅くなったが、お茶会があった日の食堂の件だけど……」

「もう過ぎたことだし、気にしなくていいよ」

「けど、料理人たちに対応するの、大変だったんだろ?」

「大変だったのは大変だったけど、吾妻君が気にすることじゃないから」


 正直、あの日のことは、あまり触れたくない。


「鷺坂がそう言うのなら、気にしないでおくが……」

「そうしておいてくれると有り難いかな。それで、他に聞きたいことは?」

「いや、今はこれぐらいでいい。聞きたいことがあれば、また聞きに行くから」

「ん、分かったよ」


 そして、吾妻君が部屋を出て行くのを見送ればーー


榛名(はるな)様」


 懐かしい声が聞こえてきたから、扉を閉める。


「アイリーン? 久し振り。私の所に来たってことは、魔族関係か何か?」

「お久し振りです。はい。現在、四天王が一人、ラクライール率いる魔物などの軍勢がこちらに迫ってきております。榛名様なら問題無いかとは思いますが、覚悟はしておいた方が良いかと」

「そっか。アイリーンが今、私の所に来たってことは、ウィルたちも知ってるんだよね?」

「はい。フィアーナ殿下たちには、レンが伝えに言っているはずです」


 アイリーンとレンことレンフォードは、ノーウィストにある隠密部隊の隊員で、主に私たちの手の届かない情報収集や斥候(せっこう)、伝言などを行ってくれている。


「……この国の隠密部隊員とは?」

「なるべく避けるようにはしていますが、数人とは接触しています。情報提供は今のところ魔族関係のみですね」


 う~ん……。


「結論から言えば、そんなに時間も無いってことだよね」

「そうなりますね」


 桐生君たちに関しては、付け焼き刃状態、か。


「情報、ありがとう。奴らが来たら、近くにフィアーナ殿下が居ない限りは、自分たちの身を最優先に、ね」

「もちろん、分かっています。榛名様も、どうかお気を付けください」


 そう言うと、「では、失礼します」と軽く頭を下げて去っていくアイリーン。


「……」


 それにしても、ラクライールが連れてくるのが『魔物の軍勢(・・)』ってことは、奴はかなり本気なのだろう。


「相談案件かな。これは」


   ☆★☆   


「で、どうしよう?」

「どうしようも何も、俺には『魔物を狩れ』としか言えないぞ」


 向島君に相談してみたら、こう返されました。


「一斉浄化、任せることになるけど、大丈夫?」

「それは仕方ないだろ。光属性が使えない鷺坂には無理だろうし」

「地味に抉りに来るね」

「事実だろうが」


 容赦ないなぁ。


「……」

「……」


 (しば)し、互いに無言になる。


「それにしても、魔物の軍勢、なぁ。俺は、てっきり小手調べ程度のつもりで来るのかと思ってたんだが」

「魔物の軍勢を連れてくることから、多分、本気(ガチ)だよね」


 どこまで本気なのかは分からないけど。


「戦力は、俺たちの所と鷺坂の所、桐生たちとこの国の騎士と魔導師たち、か」

「騎士と魔導師たちに関しては、魔物の対処に追われるだろうから、そっちは任せても良いんじゃない?」

「ラクライールを相手にするとなると、俺たちと鷺坂たちしか、まともな戦力が居ないだろ」

「桐生君たちは含めないんだ」

「付け焼き刃程度でどうにかなるような奴じゃないだろ。あいつは」


 お前の方が詳しいはずだが? と、目を向けられるけど、私は奴について、詳しくなった覚えはない。


「……私、室内じゃ魔法アウトだ」

「火、雷、氷じゃ、『氷』しか使えないしな」

「『氷』効かなかったら、もうアウトだし」

「魔石は?」

「使えなくは無いけど、威力求めるとなると、決定打に欠けるっていうか」


 二人して唸る。


「……まぁ、何らかの手を考えておいてやるよ」

「分かった。頑張って物理で耐えてみるよ」

「剣より魔法派が良く言うよ」


 呆れたような目を向けないでほしい。


「けど、無茶するなよ」

「そっちこそ」

「こっちは冗談抜きで心配しているんだが?」

「ちゃんと分かってるよ」


 同じ『勇者』なんだから。


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