第十六話:お茶会のお誘い
桐生隼斗視点
「チーム名、かぁ」
鶫からの話を聞いて、考える。
どうやら、鷺坂さんからそのことを聞かれてから、ずっと考えていたらしい。
「ゲームとかで使ってた名前はあるんだが、さすがにリアルで使うのはなぁ。気が引けるっていうか、何て言うか」
「それには同意だな」
何かヒントでも有ればいいのだが。
「それにしても……何だか最近、城内が物々しくなったよな」
今まで無かった訳じゃないが、城内を警備している騎士との遭遇回数に疑問を持ったのか、鶫が言う。
「俺たちが居ない間に何かあったのかも」
昨日は城下に出ていたから、城内の様子は分からないが、何かあったことだけは分かる。
「あ、桐生君! 吾妻君!」
「栗山? どうしたんだ?」
「あのね。みんなでお茶会でもしようかと思って。お城の中、こんな風になっちゃってるけど、少しでも空気を変えようかと思って」
なるほど、と納得してしまう。
「それで、メンバーは?」
「召喚された私たちだけかな。あ、エレンシア殿下も一緒なんだよ」
「向島たちは呼ばないのか?」
「うん。今回は私たちだけでやろうって、エレンシア殿下と鷺坂さんとも話して決めたんだ」
嬉しそうに、栗山さんが話す。
「鷺坂も? あいつ、よく受けてくれたな。最近は何か、ウィルさんたちとよく一緒に居ただろ」
「それについては、確認済みだよ。同年代との付き合いも大事だから、って返されちゃった」
栗山さんが苦笑する。
「そっか。なら、俺も参加しようかな」
「俺もするよ」
「ありがとう。じゃあ、ここに鷹槻君も加われば、全員参加だね」
場所は中庭ね、と伝えると、栗山さんが「鷹槻君にも知らせないと」と去っていく。
どうやら、彼女の役割は連絡係だったらしい。
「そういえば、久しぶりか。召喚時のメンバーで集まるの」
「そういえば、そうか」
王様に謁見してからは、向島たちとほとんど一緒に行動しているから、本当に召喚時のメンバーで集まるのは久しぶりだ。
「場所は中庭だったな」
「ああ。今からでも行くか?」
「んー、お茶会するとは言っていたけど、時間を聞き忘れてたね」
凡ミスだ。鷹槻は聞いてくれているだろうか。
「鷹槻の所に行くって行ってたなら……結局、中庭か」
あそこには大きな木もあるから、遅刻も何も無いだろう。
「殿下か鷺坂にでも聞くか?」
「まあ、その二人だと答えてくれそうではあるけど……」
どこに居るんだろうか。
「城内を捜せば、どこかに居るだろ」
「そりゃ居るでしょ」
片やお姫様、片や自由行動する人だし。
で、少し捜してみれば。
「居たよ」
「ん? どうしたの。二人揃って」
手に生クリームを持ったまま、こっちを不思議そうに見てくる鷺坂さん。
……うん、こっちが『どうしたの?』だよ。
「いや、何してんの?」
「お茶会用の、一部菓子制作」
まあ、クッキーとか並んでいるのを見ると、大体予想できるんだけど。
「で、用件は?」
「リクエスト、有りか?」
「違うだろ。聞きに来たのは、お茶会の時間だよ」
そういう風に言えば、鷺坂さんがあっさり「二時だよ。でも、準備とかあるから、二時半開始になるかもね」と答えてくれた。
「お茶会って言っても、格式張ったものじゃなくて、ちょっとしたお喋りの場として、捉えておいた方が良いよ。姫様も一緒だけど」
なるほど。考え方を変えれば良いのか。
「で、リクエストは?」
「え、マジで言って良いの!?」
「作れる範囲でなら」
何言おう、何言おう、とぶつぶつ呟く鶫に、鷺坂さんが冷静に「座る場所あるんだから、座って考えてねー」と言ってくる。
それにしても、食堂なだけあって、良い匂いが漂ってくる。
「なぁ、鷺坂。チョコ系って、出来るか?」
思いついたらしい鶫が、鷺坂さんの所へ突撃する。
「出来なくはないけど、時間掛かるよ?」
「食べられるなら、俺はいくらでも待つぞ」
「あー、うん。分かったから、ちゃんと作るから、顔を引っ込めてくれない?」
うわぁ、厨房の皆さんの怒りが伝わってくる。
「おい小僧。こっちは忙しいんだ。邪魔するなら、出て行ってくれないか」
ヤバい。この人、めっちゃ怒ってる。
「大丈夫です! 大丈夫ですから! 落ち着いてください!」
鷺坂さんが、おそらく料理人の人を(俺の知る限りでは)全力で止めに行っている。
「桐生君! 君も見てないで、吾妻君を連れて早く出て行って! こっちはどうにかしておくから!」
「あ、ああ……!」
とりあえず、鷺坂さんの言う通り、食堂から出て行く。
「……悪い、隼斗」
「謝るなら、俺じゃなくて、鷺坂さんに謝れよ。面倒な方を引き受けてくれたんだから」
「ああ、後で謝っておくよ……」
中から、そんなに音がしないって事は、鷺坂さんがどうにかしてくれたんだろう。
「……お前ら、こんな所で何してんの?」
声がした方を見てみれば、そこには向島が居た。
「入りたきゃ、入ればいいだろ」
そう言って、向島が中に入って、数秒してからそっと出てきた。
「お前ら、何したの? 料理人の人たち、めっちゃ怒ってるんですけど」
どうやら、中の様子を把握したらしい。
「鶫が興奮しすぎて、鷺坂さんに顔を近づけすぎたんだよ」
「……ああ、そういうことね。最近、出入りしているせいか、鷺坂の奴、料理人に好かれてるみたいだから、あいつが嫌がる素振りでもすれば、すぐに止めに入るみたいだからな」
つまり、保護者だな、と向島は言ってくる。
答えるときの間については、聞かない方が……いいよなぁ。
「でも、見ていた俺からしたら、鷺坂さんは嫌というより、困ったような顔していたけど?」
それを聞くと、向島は考える仕草のまま、動かなくなる。何なんだろうか?
「まあ、そうなるだろうな。それにしても……お前、あいつに顔を近づけすぎた癖に、何の反応も無かっただろ」
「ああ、今思えば照れる素振りすら無かったよ! 何だろう。今になって、男として駄目みたいなこと言われてるように感じる……」
「……今はああなだけで、後で恥ずかしがりそうだがな」
向島が最後に何て言ったのかは分からないが、視線が食堂に向いてるのを見ると、鷺坂さん関係なのは予想できる。
「そうだ、向島。聞きたいことがあったんだ」
「何だ?」
「お前と鷺坂の関係って、どういう関係なんだ?」
単刀直入だった。
俺たちと居るよりも、鷺坂さんは向島と居ることの方が多いから、俺も気になってはいた。
「何で、そんなことを聞くんだ?」
「何でって……」
「まあ、敢えて言うなら、恋愛関係では無いな。けど、もっと詳しく知りたいなら、本人に聞くんだな。本人が話さない限り、俺も話せないから」
そう言って、去っていく向島。
でも、何か上手く逃げられた気もするが、言われたことは正論のような気もする。
「隼斗」
「何だ?」
「俺、後でいろいろと聞いてみるわ」
「そうか」
彼女が、素直に話してくれるなら良いのだが。




