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期間限定勇者は  作者: 夕闇 夜桜
サーリアン国・王都~王都近郊編
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第十五話:最初の依頼に付き添う


 さて、依頼受理も完了して、彼らにとっては最初の依頼である。


「えっと、教えてもらった場所からして、そろそろ見えてくるはずなんだけど……」

「あ、あれじゃないのか?」


 地図とにらめっこしていた桐生(きりゅう)君に、吾妻(あがつま)君が指で示す。


「うわぁ、凄い! 凄いよ! ねぇ、鷺坂(さぎさか)さん!」

「そ、そうだねぇ」


 興奮状態の栗山(くりやま)さんに話し掛けられ、苦笑するしかない。


「こらこら。目的地に到着したからって、騒がない。この辺は低級とはいえ魔物の(たぐ)いが出るんだから、周辺に警戒しながら、採取すること。いいな?」


 ウィルが代表して、桐生君たちに告げる。


「はーい」


 まるで、引率の先生に、元気に返事をする子みたいだ。

 さて、桐生君たちが採取している間に、私は何していようか。

 彼らとは、パーティ登録もしてない訳だし……


「って、ん?」


 そういや、桐生君たちって、パーティ登録に関して、説明受けたのか?

 いや、対応してくれたカノンさんが、説明してないとは思えないんだけど。


「鷺坂。どうした?」

「いや、桐生君たちって、パーティ登録したのかなぁ、と思って」

「あー、それかぁ」


 一応、私たちは勇者とはいえ、冒険者パーティとしてのパーティ名はある。

 私たちでも名前には迷ったぐらいなのに、いくら最初から考えていたにしては早すぎる。


「……新規で作るべきか」

「無くしてもいないのに作るとなると、警戒される上に再発行扱いになって、金取られないか?」


 そこが、一番のネックなんだよなぁ。


「それに、最初から誤魔化す気でいたなら、最後まで誤魔化し通せよ。ノーウィストの勇者様」

「はいはい、ご忠告ありがとう。イースティアの勇者様」


 そう返すと、採取するべき草花をしゃがんで探す。


「鷺坂さん、鷺坂さん」

「どうしたの?」

「見て見て。綺麗な花!」


 栗山さんが摘んだらしい花を見せてくるけど、何という可愛らしい組み合わせだろうか。


「そうだね。持っていても何の異常も無いなら……って、ちょっと待ってて」

「う、うん」


 栗山さんを一時的に待たせて、ララの方に向かう。


「ララ。少し良い?」

「ん、構わないよ」


 良かったと思いながら、ララを栗山さんの元へと連れて行く。


「えっと……?」

「いや、さ。持ってて異常が無くても、飾っているうちに、とかなると嫌だから、その前に確認してもらおうかと」

「そういうことか」


 さすがに、私でもこちらの植物に関しては、一部の植物しか把握出来ていないから、私よりは知っているであろうララに見せた方が早いと判断したのだ。


「で、問題の植物がこれって訳か。うん、問題無いんじゃないかな。最近、危険指定植物にも変動があったみたいだけど、この植物は入ってなかったはずだから、大丈夫だと思うよ」

「そっか。なら、持って帰って飾れるね」

「うん!」


 栗山さんが満面の笑みを浮かべる。

 小さな、可愛らしいお土産だ。


「鷺坂は良いのか?」

「何が?」

「栗山みたいに、花を持ち帰ったりしようと思わないのか?」

「それ、本気で言ってる?」


 量を確保しに行った栗山さんに目を向けながら、向島(こうじま)君とそう話す。


「初心者同然の時ならともかく、見はしてもお土産にしようとは思わないよ」


 この手は、様々な血に染まってしまっているから。


「お前は、優しすぎるんだよ。鷺坂」

「そーだよ。自分たちでどうにか出来ないから、他人を頼るんだよ。持っている知識なんて、人によって違うんだし。榛名(はるな)も、今みたいに私たちを頼ってよ」


 励まそうとしているのか、二人にそう言われる。


「ん、ありがとう。二人とも」

「うんうん。それじゃ、元気になったところ悪いけどーー」

「動けばいいんだよね」


 途中から勘付いてはいた。


「全く、こういうイベントぐらい、間違って植物系モンスターを引っこ抜くとかいうアクシデント以外、安全に終わらせてほしいよな」

「本当だよ。でも、相手が悪かった」


 森と接しているためか、どうにも凶暴な小動物系や熊系が森から出て、襲いかかってくる。


「奴らが出てくるまで燃やそうとするなよ」

「放火魔みたいな言い方、止めてよ」


 ただ、問題は桐生君たちがウィルやアスハルトさんたちが空気を変えたのと、話しかけてられて自分たちに危険が迫っていることに、ようやく気付いたことだ。


「私、栗山さんの近くに行くから、ララ。フィアーナのこと、お願い」

「任せて」


 多分、ウィルもフィアーナ殿下の護衛には回れないだろうから。


「じゃ、俺はあいつらのフォローな」

「一番忙しいとこ、選ぶんだ」

「仕方ないだろ。こんな形での実戦経験とか、下手したらトラウマになりかねんが、王城襲撃よりは程度が低くて済む」

「それもそうか」


 確かに、人の血より魔物の血の方が、トラウマレベルはいくらか下げられるだろう。


「あとな、鷺坂」

「何」

「無いと思うが、死ぬなよ」

「そっちこそ」


 私には制限があるから、その心配をしてくれたのだろう。

 さぁて、桐生君たちのサポートしながら(・・・・・・・・)、どれだけ戦えることか。


   ☆★☆   


「さ、鷺坂さん……」


 背後で、栗山さんが怯えている。

 ちらりと周囲に目を向ければ、ララとクリスさんが魔法攻撃をし、フィアーナとレアちゃんが必死に治癒魔法を掛けている。

 ウィルや向島君を筆頭とした剣を持つ面々は、ララたち後衛に向かわれないように、魔物と対峙している。


「怖いのは分かる。でも、貴女は何のために魔法を学んだ? 自分の身を守り、誰かを助ける為じゃないの?」

「それは……」

「けど、怖がってもらって結構。でも、私は貴女を守るから」


 指を上に向ける。


「『開け氷の華 轟け雷鳴 燃え(さか)れ業火』ーー“氷華爆雷砲(ひょうかばくらいほう)”!」


 展開された魔法陣から、氷の華が咲き、雷を纏い、炎の渦が太い円柱となって、奴を包む。


『グォォォォオオオオ!!!!』


 私が今使える属性全てを叩き込んでやった。

 しかも、高威力だから、受けたのが魔王とかでない限り、生き残るのは難しいだろう。


「た、倒したの……?」

「じゃなきゃ、困る」


 だが、私たちが相手していた奴ーー熊系モンスターは、丸焦げになって倒れていた。


「うん、死んでる」

「『うん、死んでる』じゃねーよ! 何、お前は魔導師組と同じ事やってるんだよ!」


 思わぬ所からの野次が来た。いや、予想通りか。


「どいつもこいつも魔法をぶっ放しやがってぇぇぇぇ!!!!」

「だって、最近戦闘無いし、今のうちに一回は高威力の魔法を使っておかないと」

「ねぇ」


 叫ぶ向島君に、ララが文句を言い、クリスさんが同意するように頷く。


「とりあえず、撃破完了したし、依頼されていた分は確保済みなの?」

「ああ、何とか死守した」

「じゃあ、さっさと帰って、ギルドにも陛下たちにも状況報告しないと」

「王様たちにも?」


 栗山さんが不思議そうに、こちらを見てくる。


「下手したら、街に来ていたかも知れないからね。しかも、街は街でも王都だから、だったら陛下本人にも通した方が良いんじゃない、って?」

「けど、その場合って、誰が言いに行くの?」


 純粋な疑問だったらしいが、みんな一斉に目を逸らす。


「……じゃあ、くじ引き?」

「……私、一抜けしていい?」

「駄目に決まってるだろ」


 あ、やっぱり抜けられなかった。


「じゃあ、桐生君と向島君で行けば? 勇者なら、執務室とかに行けるでしょ」


 向島君から恨むような目を向けられるけど、私『勇者』だって、話してないもん。だから、行けませーん。


「とりあえず、ギルド行かない? 話し合うのも、ギルドですれば良いでしょ」


 (もっと)もです、クリスさん。


   ☆★☆   


「何か、初めて依頼達成したっていうのに、気が重いなぁ」


 そりゃそうでしょ。陛下への報告が控えているんだから。

 ……と思いつつ、藪蛇になるから言わないけど。


「で、鷺坂は、またAランクの依頼を見てるのか」

「『また』とは、言い様だね。否定はしないけど」


 特に見るものが無いから、依頼の掲示板を見ていただけなんだけど。他意は無い。


「つーかさ。お前も一緒に来ていながら、報酬無しとかどうなの?」

「けど、その分、君たちの取り分は増える訳じゃん? だったら、取っておけばいいよ。私は魔物退治しただけだし」


 嘘は言っていない。

 だって、熊系モンスターを倒したのは事実だし。


「鷺坂がそう言うなら、良いんだけど」

「ところで、君たちのチーム名って、何か決まってたりするの?」

「いや、特に無いが……何でだ?」

「受付のお姉さんが言ってたでしょ」


 そういえば言ってたな、と吾妻君が返してくる。


「すぐに登録出来るように、一応、決めといたら?」

「それもそうだな……って、お前も一緒なのに、何で他人事なんだよ」


 そっか、彼らの中じゃ、私はメンバーの一人なのか。

 私の中にある罪悪感が凄いなぁ。


「じゃあ、私も何か考えておくよ」

「ああ、頼むよ」

「迷うぐらいの、とびっきり良い名前にしてやるんだから」

「期待してるよ」


 そう返すと、吾妻君は桐生君たちの方へと向かう。

 ただーー


「……」

「……?」


 いつからかは分からないが、桐生君たちとは違う目を向けてくる鷹槻(たかつき)君とも、私はちゃんと話しておくべきだったのかもしれない。


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