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期間限定勇者は  作者: 夕闇 夜桜
サーリアン国・王都~王都近郊編
14/50

第十四話:この国のギルドへ向かう


「全く。勝手にいなくなるなよな。二人がいないって聞いたときは、びっくりしたんだから」

「そうだよ。次からはちゃんと一言言ってから、ね?」

「あー、ごめん」

「ごめんなさい。鷺坂(さぎさか)さんも、私が勝手に連れ出したばっかりに……」


 勝手にいなくなったことを、本気で心配していたらしい桐生(きりゅう)君たちに栗山(くりやま)さんと二人で謝罪するのだが、誘った自分の責任だと、栗山さんが自分を責めまくっている。


「気にしないで。私も買った時点で同罪だから」

「鷺坂さん……」


 とりあえず、栗山さんを宥めていれば、「え、鷺坂って、そっち系?」と聞こえてきたので、そんな馬鹿なことを言った勇者は後で締める。


「それで、良いものは買えた?」

「まあね。後で渡すよ」


 あれなら、戦闘とかの邪魔にもならないだろうし。


「クリスさんたちにもありますから、後で渡しますね」

「あ、ありがとうございます」


 クリスさんたちにも言うが、話を聞いていたらしいレアちゃんが返してくる。


「なぁ、向島(こうじま)

「何だ?」

「この世界って、『ギルド』ってあるのか?」


 屋台で買ったものを食べていたのだが、それを聞いて、思わず()せそうになった。


「『ギルド』か? あるぞ?」


 こっちを一瞥したかと思えば、向島君が吾妻(あがつま)君にそう答える。


「ただ、この国のどこにあるのかは知らんぞ」


 思いっきり嘘を吐きやがったぞ、この勇者。

 ちなみに、各国に存在する『ギルド』だが、どの街や町のどの位置にあるのかは、ギルド同士が把握している。

 そして、一度でもギルド登録された冒険者には、各地にあるギルドの支部が書かれた紙が配布される。初心者には優しい安心設計である。

 まあ、そんなわけで、一度この国に来たことのある私たちノーウィスト勇者一行や、向島君たちイースティア勇者一行には、どこにギルドがあるのかは把握済みというわけだ。


「聞きながら、探すしかないかぁ」


 そんなに行きたいか。ギルド。


「……ウィル、ララ。どっちでも良いから、彼らにさり気なく教えてあげて」

「いいのか?」

「良くはないけど、あんなに行きたがってるんだし、何だったら上手く誤魔化すよ」


 受付のお姉さん方が、上手く協力してくれるかが問題だけど。


「バレたらバレたとき。私が黙ってるように言ったとでも説明すればいい」

「らしいわよ?」


 フィアーナ殿下が援護してくれるらしい。


「ったく、どうなっても知らないからな?」

「そう言いながらも、ちゃんとフォローするんでしょ? ウィルは優しいから」


 ララが笑みを浮かべながら言う。


「お前ら、ギルドに行きたいのか?」


 ウィルが吾妻君たちの方へと混ざりに行く。

 そのまま場所を知ってるウィルに連れられるような形で、この国のギルドに向かう。


「どんなところなんだろうなぁ」


 いろいろ想像しているらしい吾妻君たちには悪いが、こっちはいろいろな嫌な予感しか想像できない。


「楽しみですね。鷺坂さん!」


 栗原さんがそう言ってくる。

 ああもう……。


「着いたぞ」

「あれ? 意外と近いんだ」


 桐生君、気持ちは分かるけど、言わないでくれ。


「変な輩に絡まれても困るから、最低二人で行動しろよ」

「それなら、男女比6:6だから、男女ペアで分ける?」

「経験者組と初めて組で分けるなら、7:5だけど」

「十二人なら、三人か四人の組み合わせでも良いんじゃね?」


 ウィルの忠告に、分ける比率を話し合う。

 そもそも、ペア次第だと……いや、私、組み合わせ次第では、本気でマズくない?


「で、どうするの? 三人か四人の方が、離れ離れになっても固まってる人数多いから、迷子出さなくて良いと思うけど」


 そもそも、建て替えてなければ、ギルド初体験組が迷っても、内部を知っている私たちが対処できるのだが。


「チーム分けも、じゃんけんは無理だろうから……クジか」

「だな」


 ちなみに、じゃんけんは私と向島君が、それぞれメンバーに教えたから、ウィルたちも知っていたりする。

 でも、そんなことを桐生君たちが知るはずもないので、怪しまれないためにも、こちらの世界にも存在する『クジ』にした。

 で、そんなクジの結果は、というとーー


「……神殿か教会、探してくる。これは本気で祓ってもらわないと」

「待て待て待て。何でそんなに嫌そうなの!?」

「戦力! 君たち二人が一緒な時点で、喧嘩売ってきた相手が可哀想なんだよ!」


 私のチームは、向島君と桐生君になりました。見事に、勇者揃いです。有り難いのやら、有り難くないのやら。

 ちなみに他の組み合わせは、ウィルとララとフィアーナ殿下というノーウィスト組、クリスさん、アスハルトさん、レアちゃんというイースティア組、吾妻君と栗原さんと鷹槻(たかつき)君というサーリアン組。


「うわぁ……()りに選って、あの面々が固まるか」

「相手には同情したいところだが、椿樹(つばき)が、どれだけあの二人のフォローをすることになるか、だな」

「そこ、聞こえてるんだからな!」


 自分が頑張らないといけないと分かっているからか、向島君が騎士二人に突っ込むが、副音声で「誰か代われ」と言っているような気がする。


「じゃあ、入るなら入ろうか。通行人と近所迷惑だから」


 お前が言うか、なんて目を向けられても困る。それに、注目を集めたくないだけだ。


「そうだね。せっかくここまで来ておいて、入らないのも勿体無いし」


 そのまま、みんなでギルドへと入っていく。


「うぉーっ! これが、ギル、ド……?」


 テンション高く入った吾妻君が、中の様子に首を傾げる。


「向島君、どう見る?」

「これだけの街で、人は居るのに、冒険者のほとんどが居ないとなると……大規模クエストか?」

「だったら、私たちにも連絡が来て、駆り出されてるでしょ。それが無かったってことは……」


 考えていても埒が明かないため、事情を知ってそうな受付嬢たちの所に向かう。


「あの、すみません」

「本日は何のご用でしょうか?」

「この閑散とした状況はどうしたんですか? 以前来たときは、こんなに静かじゃなかったと思うんですが」

「ああ、その事ですか」


 納得したかのように、受付嬢が立ち上がり、様々な依頼が貼られている掲示板から、一つの依頼を持ってくる。


「冒険者の皆さんが居なくなったのは、この依頼の影響です」


 差し出された依頼の紙を受け取り、内容を確認する。


「……これ、私の連れたちにも見せても構いませんか?」

「外に持ち出さないと約束してもらえるなら、どうぞ」

「ありがとうございます」


 その依頼を持ったまま、みんなの所に戻る。


「何だって?」

「原因は、この依頼。指定ランクから察するに、上位ランカーまでもが出払っている上に、ここに居ないのは納得できない」


 向島君たちが見られるように、依頼を差し出す。

 だって、指定ランクはCランク。危険度に応じて、上がったとしても、Bランクだ。


「つまり、上位ランカーでも対処できない何かに発展した、ってことか?」

「じゃないの?」


 真相は分からないが、この依頼を受けたせいで人が減ったのは間違いない。


「それって、俺たちが受けることは……」

「無理だろうな。指定ランクに届いてない上に、ギルドへの登録もまだだろ」


 言い出すだろうな、と思っていたことを言い出した桐生君に、向島君が冷静に告げる。

 確かにそれは間違ってはないが、これは何か嫌な予感がする。


「それにしても、嫌な『気』がするわね」

「これ、魔法職の人なら、誰も受けようとしなかったんじゃない? クリスの真似をするみたいだけど、何か『気』が凄いし」

「あ、やっぱり二人も感じたんだ」


 クリスさんもララも気付いていたらしい。


「そういう榛名(はるな)も、気付いていたんでしょ?」

「まあね」


 依頼書を触る程度には問題ない。


「だったら、登録して依頼を受ける」

「あのな、いくら召喚されてチートがあるっつったって、限界は有るんだし、俺も今の強さを得るまで、それなりに掛かっている。すぐに強くなったわけじゃない」

「珍しく大声出してるとか、何事?」

「ギルドに登録して、この依頼をクリアしたいんだと」


 なるほどね。


「登録は良いんじゃない? 依頼受理に関してはランクでストップ掛けられるだろうし、何より、国王陛下が許すかな?」


 桐生君たちは、この国の勇者だ。実力もまだ無いに等しい彼らを危険地帯に送り出して、何か遭ってからでは遅い。

 ーーたとえ、私たちが同行したとしても。


「そもそも、君たちは国に召喚された勇者でしょ。少しずつ実力を付けるならまだしも、相手の手の内も分からないし、何の準備もせずに突っ込むようなことは、私でもしたくないんだけど」


 言い換えれば、RPGを攻略法とか見ずに攻略するようなものだ。


「とりあえず、せっかくギルドに来たんだし、登録してきたら? そして、そのまま下のランクの依頼を何個かやればいいんじゃない? 初心者でも、何とかなる討伐依頼もあることだし」

「それも、そうだな。このまま、ずっと手を(こまね)いていたくもないし」


 そのまま、受付に行く桐生君たちを見送る。


「随分、優しいな」

「私たちだけだったら、必要な道具を用意するだけで良かったかもしれないけど、彼らはそうは行かないでしょ。この騒動の裏に四天王や親衛隊が居れば、尚更。最悪、全滅は免れない」

「……」

「ま。もしもの場合は、聖剣も起動させるつもりだけど」


 念のために帯剣はしているが、使わないに越したことはない。


「……鷺坂」

「奴らの襲撃が先か、この依頼の達成が先かは分からないけど、そう簡単に()られるつもりはないし」


 むしろ、相手が四天王か親衛隊なら、まだ良い方だ。こっちは奴らの手の内と顔は良く知っているのだから。


「怪我は負わせても、誰一人として、死なせるつもりはないから」

「それは頼もしいな」

「そうよ? うちの勇者様は頼もしいんだから」


 フィアーナ殿下が「羨ましいでしょ」とでも言いたげに言う。


「あ、ギルドへの登録終わったみたいだね」


 桐生君たちが戻ってくる。


「待たせて悪かったな」

「鷺坂さんたちは、ギルド登録しなくて良いの?」

「俺は良いかな。もうあるし」

「私も、しなくても良いかなぁと思って」


 だって、もうあるし。


「まあ、本人の自由だから、良いんだけど……身分証明にもなるらしいから、早めにゲットしといた方が良いと思うよ」

「あー、うん。そうするよ」

「よし、じゃあ次は依頼だな」


 今度はみんなで、依頼の貼ってある掲示板に見に行く。


「やっぱり、最低ランクスタートだと、討伐系よりも採取系が多いな」


 依頼を見ながら、頭の中で地図を展開していく。


「鷺坂、何かあったか? ……って、こっちは無理だろ。指定ランクがAランクとかだし」

「いや、少し見ていただけだよ。討伐系が多いなぁって」

「ああ、そういうことか」


 隣に来た吾妻君も掲示板に目を向ける。


「しかも、上位ランカーが居ないから、依頼が溜まって来ちゃってるし」


 お陰で、Bランクリストの方にAランクの依頼が()み出しているし、Bランク依頼がAランクやCランクの方にも食み出している。


「さっきのさえ無ければ、賑わっていたんだろうけど」

「けど、上位の奴らが勝てないって言うのに、勝てる奴なんているのか?」

「さぁね」


 勇者なら、とは思っても口にしない。

 それは、言った張本人である私にも返ってくるものだから。


「けど、方法次第じゃ、可能なんじゃない?」


 頭を使って、今までの経験を活かして、得た力や道具を使って、相手に立ち向かう。


「私たちには今、どうにかできる方法が山ほどあるんだから」


 考えて、考えて、考えて。勝利できる可能性がある限り、諦めずに頑張って。


「みんなで力を合わせれば、どうにかなるよ。三人寄れば文殊の知恵、なんて言葉もあるぐらいなんだし」

「どこ行くんだ?」

「向こうで座って待ってるよ。依頼受理したら教えて」


 吾妻君にそう言って、待合いスペースに向かう。


「……さて、この依頼をどうするべきか」


 そして、待合いスペースに座ると、問題の依頼書を見る。

 能力が制限されてなければ、今すぐにでも依頼受理しに行きたいのだが。


「……返しに行こう」


 待合いスペースから立ち上がり、受付へと向かう。


「あの、これ返しにきました」

「ご苦労様です。ですが、やっぱり、このような依頼は受けませんよね」

「引き受けても良いとは思ったんですが、こっちの事情も事情ですからね。内部事情が落ち着かない限りは、どの依頼も引き受けられないんですよ」


 苦笑いである。


「大変なんですね。まあ、あれだけの人数だと、納得ですが」

「ああ、半数は付き添いですよ。何せ、ギルドの利用は初めてですから」


 桐生君たちの方に目を向けた受付のお姉さんに、私も彼らの方に目を向ける。


「それでは、次回のご利用をお待ちしておりますね。勇者様」

「彼らのことも対応してくれたのが、貴女で良かった。これからも、迷惑を掛けると思いますが、よろしくお願いします。カノンさん」


 そう言い合いながら、互いに噴き出し、笑みを浮かべるのだった。


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