第十四話:この国のギルドへ向かう
「全く。勝手にいなくなるなよな。二人がいないって聞いたときは、びっくりしたんだから」
「そうだよ。次からはちゃんと一言言ってから、ね?」
「あー、ごめん」
「ごめんなさい。鷺坂さんも、私が勝手に連れ出したばっかりに……」
勝手にいなくなったことを、本気で心配していたらしい桐生君たちに栗山さんと二人で謝罪するのだが、誘った自分の責任だと、栗山さんが自分を責めまくっている。
「気にしないで。私も買った時点で同罪だから」
「鷺坂さん……」
とりあえず、栗山さんを宥めていれば、「え、鷺坂って、そっち系?」と聞こえてきたので、そんな馬鹿なことを言った勇者は後で締める。
「それで、良いものは買えた?」
「まあね。後で渡すよ」
あれなら、戦闘とかの邪魔にもならないだろうし。
「クリスさんたちにもありますから、後で渡しますね」
「あ、ありがとうございます」
クリスさんたちにも言うが、話を聞いていたらしいレアちゃんが返してくる。
「なぁ、向島」
「何だ?」
「この世界って、『ギルド』ってあるのか?」
屋台で買ったものを食べていたのだが、それを聞いて、思わず噎せそうになった。
「『ギルド』か? あるぞ?」
こっちを一瞥したかと思えば、向島君が吾妻君にそう答える。
「ただ、この国のどこにあるのかは知らんぞ」
思いっきり嘘を吐きやがったぞ、この勇者。
ちなみに、各国に存在する『ギルド』だが、どの街や町のどの位置にあるのかは、ギルド同士が把握している。
そして、一度でもギルド登録された冒険者には、各地にあるギルドの支部が書かれた紙が配布される。初心者には優しい安心設計である。
まあ、そんなわけで、一度この国に来たことのある私たちノーウィスト勇者一行や、向島君たちイースティア勇者一行には、どこにギルドがあるのかは把握済みというわけだ。
「聞きながら、探すしかないかぁ」
そんなに行きたいか。ギルド。
「……ウィル、ララ。どっちでも良いから、彼らにさり気なく教えてあげて」
「いいのか?」
「良くはないけど、あんなに行きたがってるんだし、何だったら上手く誤魔化すよ」
受付のお姉さん方が、上手く協力してくれるかが問題だけど。
「バレたらバレたとき。私が黙ってるように言ったとでも説明すればいい」
「らしいわよ?」
フィアーナ殿下が援護してくれるらしい。
「ったく、どうなっても知らないからな?」
「そう言いながらも、ちゃんとフォローするんでしょ? ウィルは優しいから」
ララが笑みを浮かべながら言う。
「お前ら、ギルドに行きたいのか?」
ウィルが吾妻君たちの方へと混ざりに行く。
そのまま場所を知ってるウィルに連れられるような形で、この国のギルドに向かう。
「どんなところなんだろうなぁ」
いろいろ想像しているらしい吾妻君たちには悪いが、こっちはいろいろな嫌な予感しか想像できない。
「楽しみですね。鷺坂さん!」
栗原さんがそう言ってくる。
ああもう……。
「着いたぞ」
「あれ? 意外と近いんだ」
桐生君、気持ちは分かるけど、言わないでくれ。
「変な輩に絡まれても困るから、最低二人で行動しろよ」
「それなら、男女比6:6だから、男女ペアで分ける?」
「経験者組と初めて組で分けるなら、7:5だけど」
「十二人なら、三人か四人の組み合わせでも良いんじゃね?」
ウィルの忠告に、分ける比率を話し合う。
そもそも、ペア次第だと……いや、私、組み合わせ次第では、本気でマズくない?
「で、どうするの? 三人か四人の方が、離れ離れになっても固まってる人数多いから、迷子出さなくて良いと思うけど」
そもそも、建て替えてなければ、ギルド初体験組が迷っても、内部を知っている私たちが対処できるのだが。
「チーム分けも、じゃんけんは無理だろうから……クジか」
「だな」
ちなみに、じゃんけんは私と向島君が、それぞれメンバーに教えたから、ウィルたちも知っていたりする。
でも、そんなことを桐生君たちが知るはずもないので、怪しまれないためにも、こちらの世界にも存在する『クジ』にした。
で、そんなクジの結果は、というとーー
「……神殿か教会、探してくる。これは本気で祓ってもらわないと」
「待て待て待て。何でそんなに嫌そうなの!?」
「戦力! 君たち二人が一緒な時点で、喧嘩売ってきた相手が可哀想なんだよ!」
私のチームは、向島君と桐生君になりました。見事に、勇者揃いです。有り難いのやら、有り難くないのやら。
ちなみに他の組み合わせは、ウィルとララとフィアーナ殿下というノーウィスト組、クリスさん、アスハルトさん、レアちゃんというイースティア組、吾妻君と栗原さんと鷹槻君というサーリアン組。
「うわぁ……選りに選って、あの面々が固まるか」
「相手には同情したいところだが、椿樹が、どれだけあの二人のフォローをすることになるか、だな」
「そこ、聞こえてるんだからな!」
自分が頑張らないといけないと分かっているからか、向島君が騎士二人に突っ込むが、副音声で「誰か代われ」と言っているような気がする。
「じゃあ、入るなら入ろうか。通行人と近所迷惑だから」
お前が言うか、なんて目を向けられても困る。それに、注目を集めたくないだけだ。
「そうだね。せっかくここまで来ておいて、入らないのも勿体無いし」
そのまま、みんなでギルドへと入っていく。
「うぉーっ! これが、ギル、ド……?」
テンション高く入った吾妻君が、中の様子に首を傾げる。
「向島君、どう見る?」
「これだけの街で、人は居るのに、冒険者のほとんどが居ないとなると……大規模クエストか?」
「だったら、私たちにも連絡が来て、駆り出されてるでしょ。それが無かったってことは……」
考えていても埒が明かないため、事情を知ってそうな受付嬢たちの所に向かう。
「あの、すみません」
「本日は何のご用でしょうか?」
「この閑散とした状況はどうしたんですか? 以前来たときは、こんなに静かじゃなかったと思うんですが」
「ああ、その事ですか」
納得したかのように、受付嬢が立ち上がり、様々な依頼が貼られている掲示板から、一つの依頼を持ってくる。
「冒険者の皆さんが居なくなったのは、この依頼の影響です」
差し出された依頼の紙を受け取り、内容を確認する。
「……これ、私の連れたちにも見せても構いませんか?」
「外に持ち出さないと約束してもらえるなら、どうぞ」
「ありがとうございます」
その依頼を持ったまま、みんなの所に戻る。
「何だって?」
「原因は、この依頼。指定ランクから察するに、上位ランカーまでもが出払っている上に、ここに居ないのは納得できない」
向島君たちが見られるように、依頼を差し出す。
だって、指定ランクはCランク。危険度に応じて、上がったとしても、Bランクだ。
「つまり、上位ランカーでも対処できない何かに発展した、ってことか?」
「じゃないの?」
真相は分からないが、この依頼を受けたせいで人が減ったのは間違いない。
「それって、俺たちが受けることは……」
「無理だろうな。指定ランクに届いてない上に、ギルドへの登録もまだだろ」
言い出すだろうな、と思っていたことを言い出した桐生君に、向島君が冷静に告げる。
確かにそれは間違ってはないが、これは何か嫌な予感がする。
「それにしても、嫌な『気』がするわね」
「これ、魔法職の人なら、誰も受けようとしなかったんじゃない? クリスの真似をするみたいだけど、何か『気』が凄いし」
「あ、やっぱり二人も感じたんだ」
クリスさんもララも気付いていたらしい。
「そういう榛名も、気付いていたんでしょ?」
「まあね」
依頼書を触る程度には問題ない。
「だったら、登録して依頼を受ける」
「あのな、いくら召喚されてチートがあるっつったって、限界は有るんだし、俺も今の強さを得るまで、それなりに掛かっている。すぐに強くなったわけじゃない」
「珍しく大声出してるとか、何事?」
「ギルドに登録して、この依頼をクリアしたいんだと」
なるほどね。
「登録は良いんじゃない? 依頼受理に関してはランクでストップ掛けられるだろうし、何より、国王陛下が許すかな?」
桐生君たちは、この国の勇者だ。実力もまだ無いに等しい彼らを危険地帯に送り出して、何か遭ってからでは遅い。
ーーたとえ、私たちが同行したとしても。
「そもそも、君たちは国に召喚された勇者でしょ。少しずつ実力を付けるならまだしも、相手の手の内も分からないし、何の準備もせずに突っ込むようなことは、私でもしたくないんだけど」
言い換えれば、RPGを攻略法とか見ずに攻略するようなものだ。
「とりあえず、せっかくギルドに来たんだし、登録してきたら? そして、そのまま下のランクの依頼を何個かやればいいんじゃない? 初心者でも、何とかなる討伐依頼もあることだし」
「それも、そうだな。このまま、ずっと手を拱いていたくもないし」
そのまま、受付に行く桐生君たちを見送る。
「随分、優しいな」
「私たちだけだったら、必要な道具を用意するだけで良かったかもしれないけど、彼らはそうは行かないでしょ。この騒動の裏に四天王や親衛隊が居れば、尚更。最悪、全滅は免れない」
「……」
「ま。もしもの場合は、聖剣も起動させるつもりだけど」
念のために帯剣はしているが、使わないに越したことはない。
「……鷺坂」
「奴らの襲撃が先か、この依頼の達成が先かは分からないけど、そう簡単に殺られるつもりはないし」
むしろ、相手が四天王か親衛隊なら、まだ良い方だ。こっちは奴らの手の内と顔は良く知っているのだから。
「怪我は負わせても、誰一人として、死なせるつもりはないから」
「それは頼もしいな」
「そうよ? うちの勇者様は頼もしいんだから」
フィアーナ殿下が「羨ましいでしょ」とでも言いたげに言う。
「あ、ギルドへの登録終わったみたいだね」
桐生君たちが戻ってくる。
「待たせて悪かったな」
「鷺坂さんたちは、ギルド登録しなくて良いの?」
「俺は良いかな。もうあるし」
「私も、しなくても良いかなぁと思って」
だって、もうあるし。
「まあ、本人の自由だから、良いんだけど……身分証明にもなるらしいから、早めにゲットしといた方が良いと思うよ」
「あー、うん。そうするよ」
「よし、じゃあ次は依頼だな」
今度はみんなで、依頼の貼ってある掲示板に見に行く。
「やっぱり、最低ランクスタートだと、討伐系よりも採取系が多いな」
依頼を見ながら、頭の中で地図を展開していく。
「鷺坂、何かあったか? ……って、こっちは無理だろ。指定ランクがAランクとかだし」
「いや、少し見ていただけだよ。討伐系が多いなぁって」
「ああ、そういうことか」
隣に来た吾妻君も掲示板に目を向ける。
「しかも、上位ランカーが居ないから、依頼が溜まって来ちゃってるし」
お陰で、Bランクリストの方にAランクの依頼が食み出しているし、Bランク依頼がAランクやCランクの方にも食み出している。
「さっきのさえ無ければ、賑わっていたんだろうけど」
「けど、上位の奴らが勝てないって言うのに、勝てる奴なんているのか?」
「さぁね」
勇者なら、とは思っても口にしない。
それは、言った張本人である私にも返ってくるものだから。
「けど、方法次第じゃ、可能なんじゃない?」
頭を使って、今までの経験を活かして、得た力や道具を使って、相手に立ち向かう。
「私たちには今、どうにかできる方法が山ほどあるんだから」
考えて、考えて、考えて。勝利できる可能性がある限り、諦めずに頑張って。
「みんなで力を合わせれば、どうにかなるよ。三人寄れば文殊の知恵、なんて言葉もあるぐらいなんだし」
「どこ行くんだ?」
「向こうで座って待ってるよ。依頼受理したら教えて」
吾妻君にそう言って、待合いスペースに向かう。
「……さて、この依頼をどうするべきか」
そして、待合いスペースに座ると、問題の依頼書を見る。
能力が制限されてなければ、今すぐにでも依頼受理しに行きたいのだが。
「……返しに行こう」
待合いスペースから立ち上がり、受付へと向かう。
「あの、これ返しにきました」
「ご苦労様です。ですが、やっぱり、このような依頼は受けませんよね」
「引き受けても良いとは思ったんですが、こっちの事情も事情ですからね。内部事情が落ち着かない限りは、どの依頼も引き受けられないんですよ」
苦笑いである。
「大変なんですね。まあ、あれだけの人数だと、納得ですが」
「ああ、半数は付き添いですよ。何せ、ギルドの利用は初めてですから」
桐生君たちの方に目を向けた受付のお姉さんに、私も彼らの方に目を向ける。
「それでは、次回のご利用をお待ちしておりますね。勇者様」
「彼らのことも対応してくれたのが、貴女で良かった。これからも、迷惑を掛けると思いますが、よろしくお願いします。カノンさん」
そう言い合いながら、互いに噴き出し、笑みを浮かべるのだった。




