第十一話:約束を果たす
私は、叶えられる範囲内なら、約束は守る方だ。
「よし、やるか」
「んー」
何せ、真剣は疎か木剣を持つことすら久々なので、軽く振ってみていたのだが、特に異常も無さそうなので、頷いておく。
「間に合った?」
「今からだな」
魔導演習場に居たはずのララたちが、慌ただしく演習場に入ってきて尋ねた後、ウィルがそう返す。
「演習場、念のために結界張っておく?」
「手加減できないほど馬鹿じゃないでしょ。……けどまあ、しておこうか。一応」
ララとクリスさんが結界を張ったのが分かる。
というか、あの二人による結界を張られるとか、何という贅沢……いや、遠回しに文句言われてるのか? これ。
「あいつら。結界を張るとか大げさだし、心配性なんだよなぁ」
「でも、範囲を決めてくれたようなものだから、この範囲内で動くことにしようよ」
「絶対、嫌味に決まってる」
「分かってるなら、言わなーい」
笑みを浮かべて返してやる。
「じゃあ、先攻をどうぞ。こっちは後攻で良いから」
「後悔するなよ?」
にっと笑みを浮かべたかと思えば、次の瞬間、向島君が木剣を構えたまま、有り得ない速度で突っ込んできた。
あれでこっちが避けなかったら、互いに激突して、大怪我だったことだろう。
「相変わらず、お前の“危険回避”は凄いな」
「いや、今のはマジで危なかったって。下手したら死んでたし」
つか、“危険回避”に関しては、いやでも習熟度が上がるような奴が居るからな。
「けどまぁ、それで終わりなわけじゃないこと、分かってるよね?」
向島君に木剣の切っ先を向けつつ、私が今発動できる属性のそれぞれーー火の玉、雷の弾、氷の球を浮かべる。
「さぁて、最初に命中するのはどれかな?」
言い終わるか言い終わらないかのうちに、三つの『たま』は向島君の方へと向かっていく。
彼が捌き始めたのと同時に、木剣に雷を付与させ、近づいていく。
「囮を三つも使うとか、質悪ぃぞ、鷺坂っ!」
「卑怯と言ってくれないだけ、まだマシだけどね」
「っ、」
左手で“炎刀”を作りだし、雷付与の木剣と上手く組み合わせたつもりだったけど、向島君の前髪が焦げた程度だった。
「つか、マジであいつの選択ミスだろ。何でその三つが残ってんだよ!」
「それは、本人に直接聞いてみたら?」
今度、来るんだし。
「ああ、そうして……みるよっ!」
どうやら、左手で“水刀”を作り出していたらしく、木剣とともに振り下ろしてきた。
けどねーー
「こっちは雷の付与なんだけど」
「あ」
すぐに気づいたらしく、“水刀”からは手を離したから、痺れずに済んだみたいだけど、“炎刀”対策はどうするつもりなんだろうか。
「属性の相性っていうのは、魔法の基礎知識を習うときに教えられるはずなんだけど、記憶が飛んだか。あの馬鹿は」
クリスさんがそう告げれば、向島君が顔を引きつらせていた。
仲間とはいえ、容赦ない。
「クリスの奴、好き放題、言いやがって」
「けど、使えないよりは使える方が、まだマシじゃん」
そう言いつつ、屈んで彼の足を蹴って転倒させようとするのだがーー
「甘い」
ジャンプして躱された。
「にゃろう……滑れや、この野郎」
「言葉遣い、悪くなってるぞ」
足場を凍らせても、火属性の魔法で溶かされる。
「チッ」
「舌打ちって……お前、そんな短気だったか?」
「うっさいよ」
“炎刀”から“氷刀”に切り替える。
「げっ……!」
「あー……メインや得意分野って、破られるとイラッとするもんね」
何か勘づいた向島君を余所に、何やら外野がうるさいが、無視するとして。
“氷刀”を地面に突き刺せば、そこを中心に氷が広がり、吹雪が起こる。
「『我が声に答えよ』ーー来い、“氷狼”!」
『クォォオオン!!』
「やっぱりかよぉぉぉぉ!!!!」
雄叫びを上げながら、吹雪の中から白銀の狼が姿を現したことで、予想が当たったのか、向島君が顔を引きつらせる。
「やっぱお前、メインは氷だろ」
「さぁ? けど、この子はちょっとやそっとじゃ倒せないよ?」
「だろうな」
氷属性の召喚獣の中だけでなく、他の属性の召喚獣の中でも、この子ーーフェンリルは、私と一番付き合いが長かったりする。
「つか、召喚とか、卑怯じゃね?」
「だから、私に魔法使わせるなって、言ったじゃん」
天候変化はフェンリルの降雪だけじゃない。
「本っ当、お前の魔法、嫌いだわ」
雷鳴を轟かせる空を見上げながら、向島君が言ってくる。
「だったら、好きなだけ放ってあげるよ」
“氷刀”から手を離したことで空いた左手に雷属性を付与させれば、左手がバチバチと火花を散らす。
「そう簡単に食らうかってんだ」
左手の雷を放とうとした私に、向島君が木剣を持ったまま両手を地面に付けたかと思えば、ぐらりと揺れる。
「ちょっ……!」
「バカ椿樹! もうちょっと、範囲限定しなさいよ!」
被害は、ララやクリスさんたちの方まで行っていたらしい。
「鷺坂ぁ! そいつを早く止めろぉっ!」
「んな無茶な!」
自分が相手してないからいいと思ってないか?
つか、そう言うぐらいなら、本人に言えってんだ。
「フェンリル!」
『クォォォォン!!』
フェンリルに声を掛ければ、天に向かって遠吠えを響かせる。
「榛名! 威力操作、ちゃんとしてよ!?」
ララが何か叫んでるみたいだけど、きっと制御云々じゃないかなぁ。
「『開け氷の華、轟け雷鳴』ーー“氷華爆雷”!」
「ちょっ、鷺坂ストップ! ストォォォォップ!!!!」
向島君の制止よりも魔法の発動の方が早かったためか、術者である私にも、もう止められない。
……と思っていたら、フェンリルが袖を引っ張ってきた。
「え? 何?」
『クゥゥン……』
「だ、大丈夫じゃないかな? 向島君、強いし」
『クゥゥン……』
何て言っても、フェンリルが心配そうに見てくる。
もしかして、何かに勘づいてる?
「さぁ~ぎぃ~さぁ~かぁ~」
名前を呼ばれたので、そちらに目を向ければ、ぼろぼろの向島君がそこに居た。
「や、やぁ、無事そうで良かったよ」
「俺、ストップ、って言ったよな?」
「はい、言いました。けど、発動後に止めるのは、さすがに無理です」
ララやクリスさんでも無理じゃないかな?
『クゥゥン……』
「もう、本当にどうしたの?」
また引っ張ってきたので、とりあえず撫でて宥めてはいるのだが。
「何だ?」
「さっきから、何か落ち着かないみたいで。何かを感じ取ってはいるみたいなんだけどね」
「主であるお前が分からないなら、俺にも分からんぞ」
ですよねー。
「……もしかして、あいつが来るの?」
表情からすると、どうやら違うらしい。
「苦手なものが近くにあるとか?」
向島君がそう聞いてくるが、この子の苦手なものって、この場には無いはずなんだけど。
天気だとして、今はもう雷鳴付きの雲は晴れて、太陽は出ているのだが。
『クゥゥン……』
「戻る?」
『……クゥゥン』
「ありがとうね」と言って帰したけど、結局、何に反応していたんだろう?
「で、だ。勝敗はどうする?」
「もう、引き分けで良いんじゃないかなぁ」
そもそもこれは模擬戦だったし、きっちり勝敗を付ける必要はないと思うんだ。
「それにしても、火属性だけは木剣に付与させるの、避けてたよな」
終わったと判断したのか、ウィルがこっちに来ながら言う。
「だって、燃えたら嫌だし」
たとえ、燃えなかったとしても、後悔はしたくないから。
「それより、榛名。それ、サーリアンにあった奴じゃなくて、持ってきた奴でしょ」
「あ、分かった?」
フィアーナ殿下たちにはバレていたらしい。
「にしても、長持ちしてるわよね」
私がこうして使う前からあったわけだから、フィアーナ殿下の言う通り、長持ちしていると思う。
「こうやって、集まって話してるところ悪いけど」
クリスさんが珍しく割り込んでくる。
「話についていけてない面々が居ること、忘れてない?」
「あ……」
桐生君たちが居るの、すっかり忘れてた。
そんな彼らといえば、不思議そうだったり、呆然としていたりと様々である。
「さぁて、どう誤魔化す? ノーウィストの勇者様」
「少し黙っていようか。イースティアの勇者様」
こっそり言ってきた向島君にそう返せば、ニヤリと笑みを浮かべられた。
「まぁ、この状況を鷺坂がどうするのか、楽しみにしてるよ」
そのまま、クリスさんやアスハルトさん、レアちゃんを連れて、演習場から出て行った。
ただーー
「見事に、後処理を任されたわね。榛名」
「ぐっ……」
私たちの模擬戦で出来た穴などの処理を、私( たち)に丸投げして。
「いつか仕返ししてやる……」
「はいはい、私たちも手伝うから、物騒なこと考えなーい」
ララさん。貴女の方が物騒なこと、考えそうなのは気のせいですかね?




