第一話:巻き込まれ召喚された
言葉を発せなかった。
それはもう、叫びたかったし、説明を要求したかった。
だが、言葉を発せなかった。
呆れ、そして、嫌な予感。
そう説明すれば、気持ちは理解できるだろうか?
白く光る魔法陣の上には、五人の男女。
「貴方がたが、勇者様ですか?」
一歩前に出た白いドレスを着た少女の問いに首を傾げる四人だが、そのうち一人は、この状況について、すぐに理解した。
(私、巻き込まれたな)
とーー
☆★☆
鷺坂榛名、十七歳。異世界へ召喚されました。
「……何故だ」
思わず呟くように、尋ねてしまう。
そりゃあ魔法があるから、召喚魔法ぐらい、ねぇ? あってもおかしくないし、されてもおかしくないのだが。
召喚者の少女の隣にいた魔導師から魔法を掛けてもらい、言葉や話が通じるようになると(というか魔法陣に仕組んでなかったのか)、召喚者の少女から現在の状況を説明された。
「魔王が復活したという噂やその影響もあるせいか、魔物や魔獣は今までよりも強くなり、放たれる瘴気も影響しているのか、作物などが育たなかったりと被害が大きいんです」
困ったものです、と召喚者の少女は溜め息混じりに言ったかと思えば、それに、と彼女は付け加える。
「はた迷惑なことに、他国で召喚された勇者たちが、魔王を早く倒さないため、今言ったような被害がこの国だけではなく、全国各地で出ているんです」
わぁ、ごめんなさい。
何て言うと思ったか。勇者にも勇者の都合ってものがあるんだよ。
大体、全員が全員、すぐに魔王を倒せると思うなよ。こっちは戦いとほとんど無縁の世界からこの世界に来てるんだから。
では何故、私が些細な疑問も持たずにそんなことが分かるのか。
そんなの、私が他国の勇者だからだ。
さて、少しばかり、この世界と国、私について説明しようか。
世界名……は知らん。気づいたら喚ばれてたから。
現在地となるこの国は、やや南に位置する『サーリアン』といい、私が以前喚ばれた国は北東に位置する『ノーウィスト』という国だ。
ノーウィストでは、今いるサーリアンと同様に現在の状況を教えられたが、私側の事情も考慮し、召喚魔法と送還魔法を利用して、少しずつ旅をしてほしいと言われた。
私は勇者活動のために、元の世界で土日の休日と長期休みを利用して、召喚魔法と送還魔法により、それぞれの世界の間を行き来していた。
そして、旅する中で付いた称号らしきものが『期間限定勇者』である。
間違ってはないので、否定はしない。
この世界には冒険者という者たちがおり、ギルドもある。
さすがに勇者としてだけでは旅を続けられるわけもないため、勇者として顔が広がる前にさっさとギルドに登録し、ギルドカードを作ったのだが、そのカードには名前やランクなどの欄以外にも様々な欄がある。
その一つが、『称号』である。
受付のお姉さん曰く、その人の経験などから『称号』は付けられるとのこと。
『称号』の欄に『勇者』とあったときは正直びっくりしたが、受付のお姉さん曰く、『勇者』は『勇気ある者』の略であり、自分より強敵に遭遇した時、撃退・討伐・勝利または完全勝利・生きていた場合という条件でギルドカードに『勇者』として反映されるらしい(ただし、自分から吹っ掛けた場合、反映はされない)。
仲間との旅も、節約やギルドで依頼を受けながら、進めていった。
中には、四天王や魔王の親衛隊とかいう連中と戦ったこともあった。
でも、結果は敗北。惨敗じゃないだけマシなんだろうけど、最悪なことに四天王の一人から呪いを掛けられた。
その『呪い』というのがーー……
「メインとなるのは、火と雷と氷のようですね」
ある程度、世界や状況の説明が終わり、私たちが来たのは魔力と属性検査をするための部屋。
そして、先程言った『呪い』というのが、今言われた通り、使用できるのが『火』と『雷』に『氷』という三つの属性のみであり、勇者であるために必要な『光』が扱えないことである。
使えないと発覚したときに、ノーウィストからの旅の仲間たちは気にするなと励ましてくれたけど、それでもいざこうやって調べられて、はっきり言われるとなぁ。
「さすが、勇者様です!」
「そ、そうかな……」
召喚主の少女ーーではなく、この国のお姫様は、『光』を出した彼に対し、頬を赤く染めながら褒めていた。
そして、他の面々も次々と勇者であることを示す『光』を出していた。
「……」
何、この仲間外れ感。
別に、悔しいわけじゃない。
それに、『呪い』が干渉したのは属性のみで、魔力に干渉してないと分かったのは、仲間の魔導師のおかげだ。
だからーー
「測定器が壊れた……」
『火』と『雷』、『氷』以外の属性が復活するまでは、この膨大な魔力は宝の持ち腐れのようなものだ。
「勇者様たち以上の魔力量……」
あ、お姫様固まった。
というか、『勇者様たち』の中に、私は入ってないんだ。
「う、嘘に決まってます! 何らかの陰謀です!」
小刻みに震えていたかと思ったら、人差し指をこちらに向けて、そう言ってきた。
というか、何らかの陰謀って……召喚されてから数時間しか経ってないし、ほとんど一緒にいたのに、魔法関係で何かを仕込んだりすることなんて出来るわけがない。
「でも、お姫様は見てたわけだよね」
「うっ……」
私の魔力量を疑うということは、お姫様は自分の目を疑っているということだ。
「まあ疑うなら、気が済むまで疑ってくれてもかまいませんよ。こっちは気にしませんし」
「そ、そうさせてもらいます! 絶対に見破って見せますから!」
どこの推理小説だとツッコミたくなるような台詞とともに、お姫様は再び指を指してきたけど、お好きにどうぞ、と返しておく。
そして、私たちは、今更ながらの自己紹介と魔法習得のために、その場を後にするのだった。