【『勇記』の過去。〜帰り道〜】
『キーン、コーン、カーン、コーーーン。』
チャイムが鳴り今日の授業も全て終わった。
勇記は背伸びをしながら、
『ん〜、終わったー。』
横にいる良樹も同じ様に背伸びをしている。放課後は良樹と美妃、三人で一緒に帰る事が多い。今日もいつもの様に三人並んで河川敷を歩きながら帰っていた。
茜色の夕日を眺めながら馬鹿話をする三人。しょうもない話で盛り上がり笑いあっている毎日。この時間がなにより勇記は大好きだった。そんな中、良樹がこんな話を切り出した。
『こんな風に一緒に帰れるのもあとどんくらいだろうなー。』
当たり前の様に過ごしてきた高校生活もあと一年間。それに重なって、こうして三人で馬鹿話できる時間も少なくなってくる。勇記は就職で良樹と美紀は進学。
そして二人の進学先はたまたま県外の同じ大学。高校卒業後も、こうして一緒にいられる時間も限られてくる。こんな事を考えていたら勇記はちょっと寂しくなってきた。
『大学卒業したらこっちに戻って来るつもりなんだろ?そしたらまた三人でこうして集まれるだろうし、そんな気落ちすんなよ。』
自分の寂しい気持ちを隠す様に笑いながら言った。美紀も寂しそうな表情をしていたが今の言葉で安心したのか笑顔で口を開く。
『そうよね。またこうして三人で笑って過ごせるよ。卒業しても、またこの河川敷でこうやって三人一緒に馬鹿話しよ!はい、約束!。』
美紀はピョンピョン跳ねながら笑顔で小指を突き出してくる。
その様子を見ながら勇記と良樹は顔を見合わせ笑顔になり三人寄り添い小指を結んで美紀が声をかける。
『卒業してもいつかまた三人一緒にこうしてこの場所で楽しい時間が過ごせますように。』
三人笑顔で指切りをし、そのまま良樹とわかれ勇記は美紀と一緒に帰っていった。いつも二人になると美紀の家の近くの公園で少し話してから美紀を送って、勇記は自分の家に帰っている。
美紀と公園での会話は自然に進路の話しになった。
『勇記は地元に就職だけど私は県外の大学に進学するから寂しくなるね。』
また美紀は寂しそうな表情になった。うつむいて顔上げようとせず鼻をすするような音が聞こえる。いつもは明るい美紀だけど今日はいつもと様子が違いよっぽど高校卒業後が不安なのだろう。普段まったく見せない表情がよく目に付く。勇記は元気付けようと美紀の頭をなでる。
『美紀はそんな事でくじけるような奴じゃないし強い子だから大丈夫だよ。良樹も合格すればだけど同じ大学だから気楽に話せるだろうし。まだだいぶ先だけど、大学卒業したら2人で決めた夢叶えるんだろ?四年間頑張ったら大きな楽しみがあるんだから一緒に頑張ろっ。なっ!。』
美紀は小さくうなずきながら、少しずつ顔を上げ勇記に一言、
『本当にありがとう。これから一緒に頑張ろうね。』
と声をかけてまた二人で歩き出す。
そしてそのまま美紀を送って勇記は家に帰っていった。