【『勇記』の過去。】
『……………記!』
『……い!勇記!』
『おい!起きろって勇記!』
『……んぁ?』
誰か俺を呼ぶ声が聞こえる。
すると……『ゴツッ!!!!!』
『あっ!!!!!!』
『いってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』
頭に激痛が走り飛び起きるとそこには女性が教科書を持って立っている。
『谷くんおはよう。』
『あ、おはようございます先生。』
そう、担任の先生だ。性格と毒舌に難があり30歳にして独身。
『毎日毎日朝っぱらからその調子じゃ進学できないわよ。』
『あー、大丈夫っす。俺就職するんで。』
『谷くんの成績だとちょっとした大学なら普通にいけるのにー。まぁ自分の人生だから後悔しないようにねっ。』
『うぃーっす』
まだ頭の痛みが取れない……教科書の角で叩かれるのは何回やられても慣れるものじゃない。頭をさすりながら渋々教科書を開く。
『お前せっかく起こしてやったのにー。今日もだっせーなー!』
隣の席から肩を叩いて声を掛けてくる。
『うっせーよ良樹、くっそーマジいってー。』
こいつはお調子者の朝倉良樹。
幼稚園からずっと一緒で、俗に言う幼馴染。幼馴染でもありなんでも話し合える親友。
『勇記はいいよなー、授業中そーやって寝てても頭いいからさー。俺なんかテスト来る度に憂鬱だわ。』
とは言うものの俺もやる時はちゃんと勉強してるんだけどな。
『良樹は進学だっけ?』
『おう!夢は大きく東大!!!とか言ってみたいけど残念ながら俺の脳みそ出来が悪いもんで第一志望の大学も今のままじゃまったくダメなんだわ。』
『そっかー。んまあ良樹のペースで頑張れよ。俺は眠いから寝る。』
この時期みんな就職か進学かでピリピリしている中、ここまで緊張感がないのは俺と良樹ぐらいだろう。そして、12時のチャイムが鳴り休み時間に入ると良樹が
『なぁ勇記、購買いこーぜ!』
『財布出すからちょい待って。』
2人で歩いて一階の購買に行くと良樹はいつもの焼きそばパン。俺はパンの中で一番好きなメロンパンを探すが見つからない。
『おばちゃん、メロンパンないの?』
『ごめんねぇ、最後の一つちょっと前に売れちゃったのよ。』
『あぁ、そうなんだ。なら俺も焼きそばパン一つ。』
俺も焼きそばパンを買い三階の自分の教室に戻ろうと歩いていたら、
『ゆーーうき!』
後ろから聞き慣れた声で呼ばれるのと同時に後ろ頭を軽くつつかれる。振り返るとやっぱりこいつだ。
『なんだ、やっぱり美妃か。』
こいつはこの時付き合っていた俺の彼女。中二の時から付き合っていて明るく元気で凄く気が利く奴だ。すると美妃が笑いながら
『なんだとは何よー。寝癖付いてるって事は今日も寝てたでしょ!もー、就職も近いんだからしっかりしてよねっ!あ、そーだ。はい、メロンパン!買っておいたよ。』
そう言うと美妃はメロンパンを俺に渡す。
『おっ!ありがとう!このご恩は一生忘れません!!』
『ならば一生を掛けて私に恩を返してもらおう。ハッハッハッハッハ!』
俺と美妃のやり取りはいつもこんな感じでゆるい漫才の様な感じだがそれが妙に心地いい。
『じゃあまた放課後ねっ!』
そう言うと美妃は走って友達の所に走って行った。教室に戻ろうと良樹に目をやると、じっと美妃の方を見ている。どうしんだろう?
『おい、良樹?』
声を掛けると良樹が小さな声で
『いーなー彼女。』
とつぶやいた。良樹はいい奴なんだが生まれてこのかた彼女が一度も出来た事がない。俺から見れば凄くいい奴なんだが、お調子者の性格が災いして恋愛対象として見られずに面白い友達として終わるパターン。
『まぁ焦るなよ、そのうち気付いたら出来るもんだよ彼女の一人や二人ぐらい。』
『くっそー。勇記は頭良くてスポーツもできてオマケに彼女もいる。羨ましい事だらけだわ(笑)。今に見てろ!!勇記も驚くほどのスーパーモデルみたいな彼女作ってみせっからな!!!』
俺は良樹のこういう落ち込まない所が好きだ。でもスーパーモデルは無理だろうけど………(笑)
『なら半分期待しとく。うん。』
二人で笑い話をしながら教室に戻った。