【セール】
おばあちゃんとわかれたあと駅から出た勇記は目的地を探すが、あまりこの街に慣れてないため、周りをキョロキョロ見回したり立ち止まって建物を見上げたり、挙動不審な行動が目に付く。
『やっぱ都会は慣れないなー。どこだっけなー、なんとかってデパートのすぐ横って聞いたんだけど、、、ん?』
歩き出そうとしたその時、少し離れた所からこっちに手を振ってくる男がいる。すると今度は勇記の名前を呼びながら近づいて来る。目をこらしその男を良く見ると少しいかつく大柄で見覚えのある顔が目に入るととっさに勇記の頭にある行動が思い浮かんだ。
『よし、無視しよう。』
段々近づいて来て周りを気にせずに
『おーい!谷ーー!俺だよ俺ーー!』
っと声を出している男の横を目も合わさず何事もない様に勇記はすれ違う。するとその男が、
『ちょいちょーい!待たんかこら!このタイミングで先輩を無視とは何事よ!』
『んーーとー、見えませんでした。』
『んなわけねーだろ!自分で言うのもなんだけどこの体格見落とすか普通?しかもお前の名前呼んでたじゃん。』
『‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。』
『だから無視やめよーか。相変わらず谷も調子いいなー!俺には負けるけど。』
漫才みたいな会話をしているこの人は同じ会社の先輩、高野さん。この人とは会社で会うと毎回こんな会話をするのがいつの間にかお決まりになっている。
『高野さん何してるんですか?』
『あー、俺?俺はお前、あれだよ。嫁さんの荷物持ちだよ。新婚とはいえあんなに優しかったあいつも今じゃ鬼だね。口ごたえするとかもってのほかって感じ。嫁は先にデパート行ってるみたいで。』
『なるほど。完璧尻に敷かれてるんですね。御愁傷様です。』
『うるせーよ!しかも笑ってんじゃねーよ!お前は何してんの?』
『俺ですか?俺は服買いに来たんですけど、あんまこっち来ないんで迷っちゃったんですよ。なんとかってデパートのすぐ横のショップで今日セールらしいんですけど。』
『おっ!それ多分嫁が行ってるデパートの横だぞ。道分かるからついてこいよ。』
鼻息を荒くして自信満々に高野さんが先を行く。、、、10分、20分と街中をグルグル歩きキョロキョロと高野さんは周りを見渡す回数が明らかに多すぎる。まさかとは思うが一応聞いてみよう。
『高野さん、もしかして迷って、、、』
『今頃気付いたんかーーーーい!』
高野さんが大声で迷った事をツッコんできた。
『この人を信じた俺がバカだった。』
高野さんはこの状況を気にせずゲラゲラ笑っている。
『とりあえず周りの人に聞いて行くしかないか。』
勇記は近くのコンビニで道を聞きようやく行き方が分かった。教えてもらった道を高野さんと話しながら歩いていると、
『そういえば、お前は今日1人なの?』
『今日は1人ですよ。服買い来ただけなんで。』
『いーなー。結婚した今じゃ服買うのも許可いるからなー。谷は彼女いないんだっけ?』
『いませんよ。もう3年ぐらいになると思いますけど。』
『そうなの?お前モテそうだから彼女の1人や2人簡単にできるだろー。』
『いやー、女はまだいいですね。結婚とかもまだ考えたくないしこの歳でまだ今の高野さんみたいに女に尻にしかれたくないし。』
『なるほどねー。さりげなく先輩のこと馬鹿にしてるよ。ん?あのお店お前が言ってた店じゃない?』
こうして笑い話をしているうちに探していたショップも見つかり、先輩と別れることになった。
『じゃあな谷、また会社でな。』
『うぃーっす!ならまた会社で!』
高野さんと別れた後、勇記は高野さんとの会話の中で出てきたある言葉が胸に引っかかっていた。
『、、、、彼女、、か。』
まだ女はいい、胸に引っかかる。その理由は勇記の過去にあった。