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緊迫した空気だというのにもかかわらず、少年の頭の中はぶっ飛んでいた。
目の前にいる現実離れした彼女を手に入れたい。その願望だけが強く疼く。
それは所謂、一目惚れ。
だから死ぬわけには、いかなくなった。
「アイリッシュ」
少年は彼女にはっきりと声をかける。
「アイリッシュ」
今度は独り言のように、かすかな声で。
「何?」
アイリッシュが口にしようとしたその言葉は、一瞬の隙をついて襲いかかってきた少年の手によって遮られてしまった。
立っていた身体は足元をすくわれ背中を床に打ち付けられることとなり、刀を持った右腕は彼の足によって押さえつけられてしまった。
「形成逆転だね?」
アイリッシュのお腹の上でニコニコと怪しく笑う少年。彼をひどく不気味に感じたアイリッシュは、仕事の事など気にせずに"逃げなければならない"。頭の中では警報が鳴り響く。
もともと生きる事に執着はなかったが、こんなことになるとは思っていなかったのだ。
アイリッシュは唇を噛み締め、これから起こるであろう行動に無言で耐える覚悟を決めた。
何度も何度もやってきたことだ。いつかは自分に罰が下るともわかっていた。それが今だった、ただそれだけだ。死ぬことに悔いはない。
「殺すなら、殺せばいい」
半ば諦めてでたその言葉。
アイリッシュにとって、それが本心なのかはわからない。ただ、それしか言葉が出てこなかった。
「嫌だ。僕は君と暮らしたい。アイリッシュ、君を僕のものにしたいんだ」