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人っ子一人いない。
そう形容する事が正しい程に、そこに生活があるようには到底思えない閑散としたとある麓の村。
そこは、悪い噂ばかりが立ち込める魔物の森のすぐ側に位置していた。
日が落ちて当たりが静寂に包まれた頃、森でかすかに木の葉が揺れた。
かさり。
夜行性の動物でも歩いているのだろう。そう思い、気にも留めなかった少年は、小屋の中で静かに眠りにつこうとしていた。
それが動物でなく、炎の魔物と呼ばれるものだとは知らずに……。
かさり、かさり。
音は次第に大きくなってゆく。
かさり、かさり。
迷いもなく、まっすぐ小屋へ近づいてきた。
動物だろうとなんであろうと、襲われたらひとたまりもない。そう思った少年は、枕元に潜ませていた短刀へそっと手を伸ばす。
かさり、かさり。
のっしのっしと、ゆったりしたペースで近づく何か。未知であるそれに、刃物が通用するのかは定かではない。それでも少年は畏怖する事はなく、ただひっそりと息を殺して音の方を睨みつける。
かさっ。
壁の向こう。
たった一枚しかない木の板の向こう側に、それは居る。気のせいなどではない。
人か獣か化け物か。
そんな事はたいした問題ではない。敵か味方か。ただそれだけが知りたいのだ。
双方とも動きは止まり、風の吹き抜ける音だけがそこに広がる。
その音に紛れて魔物が動き出した事を、少年は知らない。