3
その日の夕刻。
アイリッシュは依頼を果たすべく、写真の中の人物の顔をじっと見つめていた。
ターゲットを間違えない為だ。
失敗したからと言って誰かに咎められることはないが、似ている者を殺しても、この仕事は完遂されない。
仕事を失敗してしまっては、信頼がなくなるのだ。今まで一度たりとも殺し損ねた事はないからこそ築き上げられた信用を、ここで手放したら食いぶちはなくなる。つまり、死んでしまう。
不幸にも、この森に食べられそうなものはない。
食べようと思えば木でもなんでも食べられるが、食べたくないのが本音だろう。
また、そこらじゅうに生えたキノコは、野生のシカが口にしてすぐ泡を吹いた程。その名のとおり、魔物ぐらいしかまともに住む事のできない森なのだ。
「麓の小屋に一人で住んでいる……あの集落の者にしては派手な服装だから、すぐわかるか」
派手な服装。
アイリッシュがそう評価したものは実際には豪華な服装と称する方が正しいもので、国家や貴族の事になんの関心もないアイリッシュだからこそ、口にできた言葉だった。
なぜなら、そこに映る人物こそがこの国の第一王子、シュラス・アーガイルなのだから。
金髪碧眼の、絵本の世界から飛び出してきたような彼は、国民からの人気もあつい。だからこそ、恨みも多くこうして彼を始末しようという輩も少なくはないのだ。
無知という事が、これ程恐ろしいものはないだろう。
失敗すれば、今までの生活どころか、打ち首、張り付け、拷問……口にする事さえ恐ろしいものばかりだ。
現に、王族を手にかけようとした者で、死刑にならなかったものは居ない。
そんな恐ろしい事とは知らずに、アイリッシュはもくもくと支度をはじめた。




