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魔物の森。
そうよばれている大地に、アイリッシュは住んでいる。誰に強要されたわけでもなく、自らそこに腰を据えたのだ。
彼女は、黒色のローブを身に纏い、今日も森を散歩していた。その行動こそが彼女の仕事であり、
絹糸のように細い生命線を繋ぐ方法に他ならないからだ。
森を歩いていると……ほら今日も声をかけられた。
「炎の魔物に、こいつを食わせてくれないか?」
それは仕事の依頼。
ご丁寧に写真付き。
そう、アイリッシュは人を殺める仕事をしている。炎の魔物となって、たくさんの人を襲うのだ。
今まで手にかけてきた人の数は、もう数える事をやめてしまった。少なくとも、両手両足を足したところでその足元にも及ばないだろう。
「引き受けた」
そう言ってアイリッシュは片手を差し出した。
握手なんて馴れ合いをするつもりはない。この仕事の対価をもらう為だ。
森に住むアイリッシュには、お金の価値がわからない。
なぜなら、お金使う為のお店が人の忌み嫌うこんな土地にあるわけがないのだ。
だから、彼女は独自の価値観でものを見る。硝子玉でも、金銀財宝でも、アイリッシュが価値あるものと見定めれば、それは一級の価値を持つ。
今回彼女に与えられた報酬は、誰もが喉から手が出る程欲する、国宝級の宝石。
手のひらに収まり切らない程の質量と、そのものの価値をそのままに表したかのような重量感。
だが、そんな事を知らないアイリッシュは、綺麗だからまあいいかと、それを乱雑にカバンに詰め込んだ。