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聖女様の乙女心 ①

「史織って、黙ってたら可愛いのに」



女友達にも男友達にも、言われる言葉。


付き合い始めた彼にも「思ってたのと違う」と、振られた事もある。


私は、私だ!


言葉遣いは悪い。


食事だって、美味しく食べられたらいいじゃない!


服装も、最新のお洒落をする必要って無いでしょう!!


そんな私が、聖女として異世界グローバーへ召喚。


しかも、強引にイシュタルと結婚させられてしまった。


こんな私のどこが良くて、結婚したいと思うの?


あれだけ、私の言葉遣いやマナーに、嫌味なほど注意していた人が、私の事を――?


好きになる要素なんて、私には全く無いのに。


私の何がイシュタルをそうさせたのか。




本当に、何もかもが夢で…。


夢なら早く覚めてしまいたい。


後になればなるほど、辛い想いをするのは私の方なんだから。




エヴァに丸投げした初夜は、何も無かった。


無かった、という安心感と、じゃあ、今夜は?という不安感。



朝、起きると、やっぱりここは異世界で、巫女達が揃って「昨夜は、おめでとうございます」と祝福され、私の着替えが始まる。



「大神官様は、新国王のローランド様にご結婚の報告に出掛けられています」



と言われ、訊いてもいないのにイシュタルの事を教えてくれる。


一人、朝食を済ませると、カイルがやって来た。


いつもの「何か、ご不都合ありませんか?」というお決まりのセリフではない。


今なら「あるに決まってる!!」と言えるのに、今日に限って「ご結婚、おめでとうございます」といつもに3割増しの笑顔で挨拶された。



「この顔を見て、幸せそうに見える?」



眉間に刻まれた皺。


目付きは悪く、口はへの字。


イライラ感全開のオーラを放ち、ソファに座る私は貧乏揺すりをしている。



「大神官様は、シーリィ様を望まれたのです」

「意味が分からん!!」

「大神官様は、シーリィ様をお傍に置きたいのです」

「置物か私は!!飾ってどうする!!」

「大神官様は、シーリィ様を大切にしたいとお考えです」

「私は天然記念物か!?保護指定動物か!?」



どうせ、違う世界から来た珍しい生き物でも飼ってみるかって感じなんでしょうよ!!



「シーリィ様…」



私の徹底した反論に、カイルは眉を下げ、しゅんとする。


だけど、どんなに耳障りのいい話を聞かされても、私には簡単に信じる事が出来ない。



「――カイル…、私って残念な女なのよ」

「…残念、ですか?」

「ほら、見た目通り、女子力ゼロ」

「…そ、それは…」

「残念な女の中でも底辺を行く女なのよ」



自分で自分の事をこんな風に改めて言うと、結構、凹む。


でも、私は昔からこんな感じだし、今から変えようとは思わない。



「結局、男の人って、大人しくて、控えめで、従順な女の子が好きなんでしょう」



私は、その真逆を行く女だ。


落ち着きが無くて、黙っていられない、強情で、女の子特有の柔らかさが無いというか…。



「シーリィ様は、可愛らしい方です」

「……」

「大神官様はシーリィ様のどこが良くてご結婚されたのかは私には分かりかねます」

「……」

「でも、シーリィ様の言葉や行動には嘘を感じだ事がありません」

「…嘘って、面倒だもん」

「いつも、本音でお話されていて、同様に、大神官様もシーリィ様に対して、ありのままに接しておられます」

「…あ、あれで?」

「シーリィ様の事が大神官様にとって、どうでもいい人間なら、お会いになる事も、お話される事も、中庭へご一緒される事も、お怪我をされた足の手当ても――多少、強引でしたが、ご結婚を望まれる事もなかっ――」



「カイル」



私もカイルもお互いちょっと話に入っていたせいか、この部屋にイシュタルが入って来ていた事に気が付かなかった。



「カイル、お前の話はそこまでにして貰おうか」



カイルは、それ以上何も言わず、イシュタルと私に礼だけして出て行く。


残された私は思う。


ここは退いてはダメだと、今まで逃げて有耶無耶にしてきてしまった付けが、昨夜の“結婚”という事になってしまったんだから。



「――イシュタル、私…」

「先に私から謝罪を――シオリにとって、望まぬこの世界への召喚、聖女としての役目、私一人の身勝手な想いの押し付け、本当にすまない…」

「…イシュタル」

「だが、この歳になって本気で想う女性に対して、どうして良いのか分からず、シオリにも周りの多くの者も巻き込んでしまったのも事実――私は、どうすれば許されるのだろうか」



イシュタルとの身長差のせいで、私は首が後ろへもげるかと思うほど顔を上げ、イシュタルの顔を見上げる。



「その前に、私も、訊きたい事がある」



どうして、私のなの?


私みたいなのの、どこがいい訳?


どうせ「これほどまでに残念な女とはな!」って言って捨てちゃうんでしょう!


私だって、一応、女の子なんだから、別れの言葉に、そんな風に言われたら、恋愛なんて2度とするかって思うわ!!



「――シオリは、強く、逞しい」

「は?」

「シオリは、どんな苦難の中でも負けまいとする強い心を持っている」

「……」

「女神エヴァンジェリンに選ばれたとは言え、見知らぬ異世界に召喚されても目標を見失わずに、こうして前だけを見て立っている。その姿は輝いて見える」

「はぁ…」



初めてだ。


私の事をこんなにも熱く語ってくれる人は。


私が強い?逞しい?輝いている?


熱は無いか?視力検査したか?頭は打ってないか?


もしかして、妄想癖があるとか!!



「どうすれば、私の想いがシオリに届くのだろうか」



イシュタルの言葉は私にではなく、自問自答するかのように――。



「シオリの願いを叶えれば――確か、シオリの願いは――」

「…っ!?」



いきなり腕をイシュタルに掴まれ、部屋を出る。


身長差があるんだから、足の長さだって違う。


そんなに急いで大股で歩かれたら、私は走っても追い付かない。


転ばないように必死で、これから向う場所なんて考えも付かない。


何が何だか、分からないまま、聖女の間に連れられ、私は床一面に浮かび上がった紋様の中央に立っている。



「シオリを私の手で元の世界に送ろう」

「ちょ、ちょっと!!イシュタル!?」

「そうすれば、私の想いが伝わるだろうか」

「な、待って!!早まるな!!」

「シオリの願いが、元の世界に帰る事なら、」

「イシュタル!!」

「シオリが幸せなら、それで―い―…」

「こら!人の話を、っ!!」

「あ―い―――て―る」



最後のイシュタル言葉は、たぶん“愛してる”。


最後の最後に言うか?


人の話を聞け!!と言うのに。


そういう私も今までちゃんと話をしてこなかったくせに、最後の最後に話を聞けって勝手過ぎるか。







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