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【5】

あれから、また1ヶ月が経った。



「いらっしゃ~い」



夕方から夜に掛けて、定食屋は居酒屋に変わり、お酒を注文する客が増える。



「シーリィちゃん、こっちにも麦酒(ビール)おくれーー!!」

「はーい!ちょっと、待ってねー」



ここは、城下町でも外れにある、定食屋“栗鼠(くりねずみ)亭”。


私は、ここでバイトとして働いている。



「シーリィ」

「はーい、女将さん」

「これ、セドさんの麦酒(ビール)

「はーい!」



元の世界で、ウェイトレス経験が有って良かった。


すぐ採用されて、こうして働く事が出来たんだから。


まぁ、半分は、カイルのお蔭なんだけど。



「セドさん、お待たせ」

「シーリィちゃんも一緒に、飲もうぜ!」

「え、いいんですか?貰っちゃいますよ」

「一杯、おごってやるぜ!」



仕事中とは言え、折角なので、頂きます!



「ただいま」

「お、カイル、今日も帰って来たか!」

「父さん、今日もって…」

「何だい、カイル。シーリィに会いたいからって、毎晩、帰って来なくてもいいんだよ」

「母さんまで…」



そう、ここはカイルの実家。


結局、行く宛ての無い私はカイルに連れられ、ここで厄介になっている。


「お給金は要りませんので、寝泊りできる部屋と食事を頂ければ…」という事で住まわせてもらっている。


「ちょうど、カリナの部屋があるから、そこで休みなさいな」と、女将さんに言われ、「なーに、いずれ、ウチの娘になるんだから、遠慮なんて要らねぇさ」とご主人に言われ…。


かなり、誤解されてるな~と思ったけど、ここは、このままその設定で行く事にした方が都合がいい。



「すみません。今日はこれであがります!」



と言って前掛けを外し、カイルを連れてカリナさんの部屋へと二人で向う。


「シーリィ様、また、飲んでるんですか?」

「うん。いいじゃない!美味しいね、異世界のお酒は!」

「……、それより、すっかり私の両親は誤解したままなんですけど」

「仕方ないでしょう!!二人っきりにならないと話しが出来ないんだから」



ほろ酔い気分の私。


カイルのご両親には悪いな~と思うけど。


私は巫女として神殿に居たが、先輩の嫌がらせを受け、逃げて来たという事にしている。


それを助けてくれたのが恋人のカイル。


何んとも、陳腐な設定だ。



「それより、送還魔法、ちゃんと出来るようになったの?」



顔を合わせれば、毎回、同じ質問を私は繰り返す。



「そ、それが…」

「はぁ!!何やってんのよ!!カイルしか出来ないんでしょう!!召喚魔法は出来たくせに、送還魔法は出来ないっておかしいじゃない!!」

「シーリィ様…、私だけじゃないんです。送還魔法が使えてるのは…」



何よ!それ!!


そういう事は、もっと早く言うべきでしょう!!


今の今まで、黙ってるって、どういう事よ!!



「じゃあ、その人に頼めばいいでしょう!!」

「…だ……ん…ん…様…です」

「ぼそぼそ、喋っても聞こえん!!」

「送還魔法、大神官様から教わったんです」



ひーーっ!!


何じゃ、それ!!


八方塞りって、この事!!?


頭を抱えたくなる。髪をくしゃくしゃと掻きたくなる。



「でも、どうして、シーリィ様は、大神官様を避けるのですか?」

「どうして?って、分からないの?分かるでしょう!!分かれよ!!このぺっぽこがーー!!」



私の自分の荷物――リュックを掴み窓から出ようとする。



「シーリィ様!!ここ、2階ですーー!!」

「うるさいわ!!打ち所が悪くて死んだら、カイル、7代先まで恨んでやるーー!!」



私はティンカーベルのように空を飛べると信じてた訳じゃないけど、もしかしたらって、思うじゃない?


きっと、夢なのよ。


長い夢を見てるのよ。


異世界グローバーなんて、最初から無くって、女神エヴァンジェリンなんていうのも居なくて、私は聖女なんかじゃなくて――。


ほら、エヴァも“夢じゃない”ってあの時、言ってたじゃない。



どんなピンチの時だって、逆転一発!


私は“持ってる女”だって思ってた。


なのに、落ちた先は――。



「2度も私の所に、落ちて来るとは、シオリとは運命の糸で繋がってるのだな」



なっ!!


何で!?私は、猊下に、抱き留められているの!!??


しかも、運命の糸なんて、存在しないから!!


繋がってないから!!


切ってやる!


そんな糸が有るって言うなら、細切れに切ってやるーー!!



「げ、猊下っ!!!!」

「違う。イシュタルと」

「そういう事は、後で!!」

「では、先に何を?」

「降ろせーー!!」

「降ろせば、逃げるだろう」



当然じゃあーー!!










疲れた。


もう、そのひと言しか出て来ない。


精も根も尽き果てた。


カイルの実家“栗鼠亭”から連れ戻された私は、何故か、巫女や巫者、神官達から盛大な祝福を受けた。


意味が分からーーん!!


そのまま、巫女達に取り囲まれ、無理矢理着替えさせられ、聖堂へと放り込まれた。


中央に、イシュタルが一人、立っている。


窓からは明るい月の光りと蝋燭の火が聖堂内をほんのり明るくしている。


そして、聖堂内を埋め尽くすほどの多くの巫女や巫者、神官達が拍手をし、祝辞が飛び交う。



「シオリ」

「は?ちょっと、これ、何なの?どういう事っ?」



強引に私の腕を取り、自分の腕に絡ませるイシュタルに「説明しろー!!」と叫んでも「後ほど」としか返って来ない。


振り解きたくても身長差も有って、女神像の前まで引き摺られる。


まだ承諾もしてないのに、何故故に、この男なんかと結婚せねばならんのか!!


私の気持ちを無視して、勝手に婚姻成立させてんじゃないわよーー!!







――という事で、疲れた。


もう、そのひと言しか出て来ない。


精も根も尽き果てた。


冗談じゃない!!


しかも、このまま初夜よろしくって、突入してるじゃない!!



『エヴァ!!エヴァー!!エヴァーー!!』

『そう、何度も呼ばなくても、聞こえてるわよ~』

『これ、どういう事?どうなってんの?私、どうして、こんな事になっちゃってるの?』

『あれ~、私、言わなかったかな~?』

『な、何を?』

『聖女って、結構な割合で、神官ともカップルになるって』

「は?」

『シーリィの場合は、大神官だったけど、そのまま異世界で就職って多いのよ~』

「う、嘘でしょう!!」

『私、言ったと思うけど~、短期バイトから正社員も夢じゃないって~』

「ひーーっ!!!!」



就職って、正社員って、永久就職=結婚って事っ!?



「シオリ」

「なっ!!ノックも無しに、入って来ないでよ!!」

「ノックはした。女神と交信中だったのか?」

「………」



部屋に入って来るイシュタルとの距離を一定に保つ為、一歩二歩を後退する。



「シオリ、今夜は慌しく式だけ済ませてしまったが――休もうか」

「私の事は気になさらず、お一人でどうぞ」

「今夜は、シオリと――」

「うわわわわーーーっ!!!!その先は、言うなーーっ!!」



もう、後ろは壁だ。


退路はもう無いのか?


諦めるな!諦めたら、人間、そこまでだ!!


……あ!あった!!



「エヴァー!!シンクロ率、上げていいから、後はよろしくーー!!」






『期間限定聖女』 END

ここで、本編完結です。

でもあと少し続編が続きます。

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