混ざり合う真実
コーヒーの風味が漂い、いかにもカフェという雰囲気を醸し出す店
内で俺は放心状態にあった。
「あなたはスパルトイをどう思う?」
まさかの質問に理解が追いつかず、時間だけがすぎて行く。
目の前にいる少女の単眼の鋭さが増した気がした。
まず質問以前に何故こいつは俺のことを知っている。しかも能力名まで。
スパルトイの情報は近代化が進む現世と違ってコンピュータに情報を打ち込み、保存する訳じゃなく、数万冊とある本の中のひとつに個人情報などが記されている。
ちなみにそれはスパルトイに入る際に書く。 スパルトイをどう思う、という質問の意味がわからない。こいつは俺のスパルトイに対しての意見を聞いている。
では、何故?ここで俺がスパルトイに対して、満足、または不満を言ったところでどうなる。
彼女はそれでどうするんだ。
「ど..どういう意味だよ。」
重い口を開いた俺だが、彼女は軽々しく返した。
「君がスパルトイに対しての抱いている感情を教えて。」
「何故?」
「その答えによって私の行動が決まるから。」
何なんだこいつは。何がしたいんだ。俺がスパルトイにいることは暴露ている。今更白を切ることはできない。
「まずあんたは誰なんだよ。何故俺のことを知っていて、何故そんなことを聞く?」
「そうね。そういえば私の自己紹介がまだだった。」
少女は深く被っていた帽子をゆっくりと上にあげ、その全貌をようやく見せた。
長く伸びた漆黒のロングヘアに奥深いブルーの右目。左目が見えないのは先程は前髪で見えないと思っていたが、それは違い、目が覆いかぶさるように黒い眼帯をつけていた。
そして少女は小さく可愛らしい唇を動かした。
「私は春宮澪。Sparnese所属よ。」
「スパル....ニーズ?」
そうよ、と言いつつ、来たばかりの紅茶を口に運ぶ。
「スパルトイじゃなく、スパルニーズ?何だよそれ。」
少し驚いた様子でレイはこちらを見直す。
「スパルトイの情報伝達速度がここまで遅いとは。これだから。」
呆れたと言わんばかりにため息をつく。
流石にこれは頭にきた。
「なんだよその言い方。スパルトイ(俺たち)に不満でもあんのかよ。」
「不満があるから...別れたようなものよ。」
「え?」
別れた?
「私たちスパルニーズは元をいえばスパルトイのメンバーだったのよ。」
「元?」
「そう、元。少し話を逸らすわ。君、日本にスパルトイのチームが幾つあるか知ってる?」
「幾つって事は俺たち以外にもスパルトイっているのか!?」
今度はさらに呆れた様に言った。
「君、本当に何も知らないのね。」
そんなこと誰かも聞いていない。この一ヶ月の間にいろいろな事をみんなに教えてもらった。
魔物の弱点、双頭門の出し方、日常での生活に於いての注意点。
他にも地獄についてなど、沢山の事を頭に詰め込んできた。
それでも、スパルトイに他の支部があるなんて聞いていない。勿論スパルニーズについても。
俺はまだスパルトイについて微塵も分かっていないのか?
澪は再度紅茶を飲み、話を続けた。
「スパルトイは全都道府県に1支部。だいたい全チームに10人程。全国で470人程いるわ。対してスパルニーズは1支部だけ。人数も120人だけ。」
澪は少し寂しそうに言った。
「でも、なんでそんな少人数なのに独立しようと思ったんだ?その後敵視されたら危ないんじゃ。」
敵かもしれない相手に心配する必要はないと後から気づいた。
「スパルトイが魔女の一部と協力してるって知ってる?」
「あぁ、だから魔法の能力が生まれるんだろ?」
それは玄道から聞いていた。
昔のスパルトイの能力は、剣、斧、槍、銃、弓矢など物理的攻撃系しか無かったらしい。昔のスパルトイはそれ以外の能力を会得しようと思った。
そこで目に付いたのが「魔女」。
多様な魔法を使い、古くから存在し、スパルトイを苦しませてきた魔女の一部に接触したのだ。互いに殺し合う関係だった両者は、今後協力してくれた魔女をスパルトイは攻撃しない、それと魔女は今後スパルトイに攻撃しない事を条件に承諾し、能力の研究が始まったとされている。
「それは今も続けられているの。けど私たちはそれに反対した。継承されてきた能力が魔女によって穢されることが耐えれなかった。そこで何度も討論を繰り返し、結果スパルトイは研究を続けることになった。それに不満が爆発した数人がスパルトイを脱退して新たな集団を作った。それがスパルニーズ。」
俺は飛んだ話に頭をフル回転させ、必死に整理する。
今も研究が続けられている。研究の話を聞いた時はまだスパルトイが他にいるなんて知らなかったから、ここでやってないってことはもう研究はされていないんだな、と勝手に思い込んでしまっていた。
けど違う。研究は続いていた。違う支部で。
確かにつじつまは合う。けど、何故こいつはそんなことを俺に話す?
「そしてスパルニーズができたと知った研究反対側派が少しずつ集まり、今の人数になっているの。」
「そこまでして反対するもんなのか?確かに伝統を崩すのは嫌かもしれないけど、人数も少ないし、諦めるべきだったんじゃないか?」
「確かに、人数差は大きいわ。けどね、私たちは彼らの研究を少し調べたの。何をしているかってね。」
俺はごくりと固唾を混み混んだ。
「彼らはね、スパルトイのメンバーで人体実験をしていたの。成功するかもわかんない魔法陣の中に人を立たせ、そのまま発動。中にいた人は時には手足から腐って行き、あるときは手足からまるで爆弾の様に破裂したわ。一番酷かったのはある人が魔法を発動させて、二分程すると突然魔物に変化したの。それを周りで待機していたスパルトイが無残に殺した。容赦なく。こんなことが他にも何回も行われた。けど後にメンバーを減らすのは良くないと言った人がいた。その人はどうしたと思う?現世から人を連れてきたの。現世に行けば人なんて腐る程いるしね。私たちはそんな事をしている奴らと共に戦うのは嫌。だから抜けたの。」
俺の想像を遥かに上回る壮絶な物語に返す言葉も無かった。そこまで酷いことを繰り返しているのか?スパルトイが?
「そこでね、私はあなたをスパルニーズにスカウトしに来たの。」
「え?何故?」
「スパルニーズの加入条件のひとつに「物理的攻撃系能力者」と決まっていてね、人数の少ない私たちは結成されてからずっと勧誘行動をしているの。成果は微妙だけど。」
「そんな得体のしてないものの集まりに入るなんて御免だね。俺はスパルトイだ。他の支部がどうだろう関係ない。俺の支部は他とは違う。」
少し澪を睨むように鋭く言った。
すると澪は大きくため息をつき、もう一度俺を見つめる。
「本当に何も知らないのね....。」
先程俺に見せた手帳を再びめくり、何処かのページで止まる。そこのは一枚の紙が四つ折りにされ挟まっていた。
澪はそれを取り出し、机に広げた。
紙は何かの提案書の様なだった。俺はそれを見た途端に息が止まった。大きく見開いた目でその提案書を凝視する。
「魔女との合同能力開発について
」それは先程澪が言っていた内容と被っており、題名の通り魔女と協力して能力開発をする、という物だった。
そして読み進めるうちに見てはいけないものを見てしまった様な気がした。真っ白の頭に澪の優しい声が槍のように突き刺さった。
「この研究の提案者は、」
俺の吐息が凍りつく。
「あなたたち東京支部の司令官、絛恩寺玄道。」