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午後のランチタイム

「今日のところはこんなところにしといてやる。早く休め。」


「は.....はい...。」


とても返事などできる余裕はなかったが、言わないとまたぐちぐちと言われる気がしたので頑張った。


最後の力を使い切り、俺は新しいマイルームに着いた。ユニットバスに少し大きいベッド。

ランプが一つ置かれただけの寂しい机に椅子。どこかビジネスホテルをそのまま移してきた様な部屋だった。


「まぁ、悪くはないよな。」


一言目の印象をぽつりとこぼし、ベッドに身を投げる。

低反発のそれはとても気持ちが良く、ついそのまま寝そうになる

が、その前に風呂を済ませようと体を起こす。

するとコンコン、とノックの音が聞こえた。


「楓だけど....いる?」


ふんわりとした優しい声が聞こえた。

とりあえずドアを開ける。自分の部屋から出たら美少女が立っているという場面はもちろん人生初だ。

僅かに頬を赤く染めているのは気のせいだろうか。


「ど、どしたの?」


妙に緊張してしまう。


「もうすぐご飯の時間だから、マサト君誘って行こうと思って.....。」


「あぁ、そゆこと。ごめん、すぐ支度するよ。」


「早くしてね。私お腹空いちゃった。」


すぐに明日香に渡してもらった服に着替える。

何の柄もない、黒の上下。少し寂しい気もするが仕方が無い。 あの戦闘服で食事するわけにはいかない。

相棒のにゃんたを肩に乗せ、ドアを開ける。待ちわびたと顔に書いてある楓と食堂に向かった。


「この少年がマサト君ですか?」


聞き覚えのない声に体がびくっと震える。


「そうよ。で、パートナーがにゃんたちゃんよ。」


楓が誰かに話しかけている。よくよく楓を見ると、胸元が妙に膨らんでいる....。

そしてにょこっと白い顔が生えてきた。


「まさか....お前のパートナーって....。」


「そう。この服の中。」


あっさり言うのんだから反応が一瞬遅れるが、素早く立て直す。


「何お前なんで服の中にいんだよ!?出て来い!」


もぞもぞと服の中で動きだし、ファサ、と勢いよく飛び出した。

鳥のような体で色は真っ白い。俺のにゃんたもそうなのだが、目は紅い。しかし顔出しは鳥と言うよりも、ドラゴンに似ている様な気がした。


「これが私のパートナー、ピースちゃん。種類はよくわかんない。」


「そうか.....よろしくな。けど女性の服に入り込むってのは.....」


「人じゃないからいいじゃん。襲うってわけでもないし。」


呆れた顔で大きくため息をつく。

見た目が良いのだから、もう少しばかり自覚して欲しいものだ。


「さあ、着いたよ。」


「ここが食堂....か。」


食堂と言うよりも超豪華なホテルの宴会場なみに広かった。

他の部屋と変わらず、ロウソクが壁にいくつもかけられており、天井の中心に一際大きいシャンデリアが部屋を明るく照らしていた。

しかしこれだけ大きな部屋にも関わらず、机は一つしかない。長方形の机に10脚程の椅子が並べられている。人はまだいなく、俺と楓だけだった。


「じゃ、待ってようか。」


「おう。早く来ないかなー。俺も腹減った。」


くすりと小さく微笑む楓の隣に腰を下ろす。

楓と今日の訓練のことや、パートナー紹介などをして、スパルトイメンバーが来るのを待った。



「楓ってさ、どんな能力(スキル)使うの?」


「私は攻撃系魔法なんだけどちょっと特殊でね。このピースを使うの。」


「その鳥というとか、ドラゴンというか....そいつで攻撃するってことか?」


「うん。名前はドラゴン・マスタリー。まぁ、見てからのお楽しみね。」


美少女と二人っきりの状況に今だ緊張がほぐれない俺だが話が盛り上がるにつれ、それも徐々に消え失せた。

するとドアの向こうでガタンッと音がした。嫌な予感。


「見てくる。」


席を立ち上がり、近づくと音の原因がわかった。


「馬鹿!押すなって言ってんだろ!」


「あんたが一人で見ようとするからでしょ!」


「お二人とも、静かにしないとばれちゃいますよぉ。」


「何をしているんですか?」


呆れ5割、怒り5割の声で言う。びくっと震えた明日香、竜二、真里亜。そして俺と同じく呆れる礼矢。


「いいいいや。別に二人っきりにしてあげようーとか、そういう風に思ったわけじゃないよ?ね?」


礼矢を除く残りのメンバーが首を縦に急いで振る。

はぁ~と大きく息をついてから、


「面倒くさいんで、早く入って貰えますか?俺お腹空いたんで。」


ささっと急ぐように席につく。まったく、中学生かっつーの。

全員揃ったと思ったのだが、一人いないことに気がつく。


「あれ、玄道さんは来ないんですか?」


「あの人がみんなと一緒にご飯食べるってのも想像しにくいでしょ。」


あーなるほどと納得しているといつの間にか礼矢の後ろに大きな人影がいた。

殺気を感じたらしく、身動き一つしない礼矢。


「私が複数人と一緒に食事をすりのは不自然かね。」


「いいいや。全然普通だと思います。はい!」


「そうか。」


いたのは言うまでもなく玄道だ。玄道が歩き出すと解放されやように礼矢に生気が戻る。

席についた玄道がパチンと指をパチンと鳴らすと廊下からカチャカチャと食器などが運ばれてくる音がした。

きっとこの部屋にあう、紳士で立派なコックがいるんだろうなと一人で想像を膨らませているとドアが壊れる勢いで開かれた。

口を開けたままの俺の前に現れたのは高校生の様な女性だった。

格好は一般的なコックの制服。ロングストレートな髪と瞳は澄み切るようなグリーン。くりんと丸い瞳が可愛らしかった。大きく膨らんだ胸は男なら誰でも目についてしまう。


「今日は新人さんが来ると聞いたから、スペシャルメニューにしてきたぞー!」


甲高い声で叫ぶ彼女がここのコックか。想像が砕けちった。

すると隣に座る明日香に肘でつつかれた。自己紹介をしろということか。

立ち上がって自己紹介をする。


「桐崎真聡です。よろしくお願いします。」


「よろしくぅ~。で、そちらのお嬢さんは?」


急いで席を立ち楓も自己紹介をした。


「結城楓と言います。よろしくお願いします。」


急接近してきたコックにまじまじと観察され、少し緊張したが、すぐに離れ自己紹介を始めた。


「私は村井奈津流(むらいなつる)。ナツルでいいよ。見ての通り、ここのコックだよ。よろしくぅ!」


よろしくお願いしますと一礼し、席についた。

ナツルが皿や食器を配り出したから、俺も手伝おうとしたが断られたのでおとなしく座る。

あとで明日香に聞いたのだが、彼女は自分の仕事を絶対に人にはやらせないらしい。見かけによらず、真面目でいう人だと肝心した。

とりあえず全て配り終えたナツルも席につき、手を合わせた。


「いっただっきまーす!」


『いただきます。』


恒例の挨拶をし、待ちに待ったと全員が料理を口にし始めた。腹ペコだった俺も片っ端から口に運ぶ。

ナツルの料理はどれも絶品で、まさにほっぺが落ちそうなくらい美味しかった。

ステーキは噛むたびに肉汁が染み出るし、野菜はシャキシャキと新鮮で甘い。

他にもピザやカルボナーラ、寿司やラーメンと洋食、和食、中華のオンパレードだった。

デザートに出てきた苺ケーキは、今まで食べたどのケーキよりも美味しかった。一通り食べ尽くし、お腹も膨らんできた。

残りを全て食べ尽くす勢いで竜二が食い漁る。

他のメンバーはもう終わったのか、飲みもので最後をシメている。俺もコーヒーをゆっくり口の中に流し込む。暖かい。こんな温かいな料理は初めてだ。


「どうだった?私の料理は。」


笑みで尋ねるナツルに俺もできる限りの笑顔で返した。


「最高でしたよ!こんな美味い料理初めてです。」


「私もとっても幸せでした~。」


本当に幸せそうな笑顔で楓が言った。

途轍もない量だった皿も今や全て綺麗に食べ尽くされている。これだけ美味しければ当然だなと思う。

しかし、この量の皿を片付けるのは難しいんじゃないか?


「ナツル....さん。この皿ってどう片付けるんですか?」


コーヒーを飲み、一服していたナツルがカップの中身を飲み干すとカップを机の上に置いた。


「ナツルでいいって言ったでしょ。片付けはねぇー。竜二、もういい?」


「いいぜー。」


するとナツルは立ち上がりポンポンと手を叩いた。

すると床にいくつかの魔法陣描かれ、地面の中から羊の顔をした人が現れた。


「羊!?」


「執事よ!」


現れた羊執事はものすごいスピードで皿を片付け始めた。


「私ってさ、料理作るのは好きだけど、片付けるのは嫌いなんだよね。」


ナツルによって呼び出された羊執事のおかげ皿は即座に片付けられて、机の上は料理が運び込まれる前の状態に戻った。


「こーやって片付けるの。」


ナツルがにやりと笑ってこちらを向く。こんなところにも魔法を使うのとは...。便利だけどな。


「で、玄道さぁん。何で今日はこちらで食べたのぉ?」


相変わらずの甘い声で真里亜が言った。


「特に理由はないが、新人が二人も来たしな。いろいろと話をしたくてな。二人も聞きたいことがあるだろう。」


玄道が俺と楓に顔を向けた。


「あぁ。たっぷり質問させてもらいますよ。」


にやりと笑った俺に玄道も不敵な笑みを浮かべた。


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