紅と漆黒
「そうと決まったらまずは修行だね!」
明日香が子供の様にはしゃぐが、俺も正直ワクワクしていた。この俺の相棒になった黒白二本の剣を使って見たかったのだ。
「待て。その前にすることがあるだろ。」
礼矢の問いかけに気づいたのか、真里亜が「そうでしたわっ」と手を叩く。
「何なんだ?それ。」
「"ブラッティ・パートナー"を決めなきゃね。」
何故か楓が言った。
「何故楓が知ってるんだ?」
「さっきやったもん。」
そうだった。いつまでもぐーすか寝ていた俺とは違って、しゃっと起き、しゃっと説明を理解したんだ。
ぐちぐち言ってた俺が恥ずかしい.......。にしても今度は血のパートナー...。嫌な予感が....。
「じゃ、行こか。」
明日香が先陣をきって移動を始めた。
今いた部屋の隣にあり、先程よりも随分小さな部屋に着いた。
椅子に座れと言われ、大人しくそれに従う。するとまた玄道が俺の前に現れた。
「始めようかね。」
相変わらずの突き刺すような視線に僅かながら体が下がる。
「その前に、どうしてパートナーがいるんだ?」
「パートナーは多くの能力を兼ね揃えている。君の代わりにレーダー役となり、周囲の索敵を行ったり、戦闘中のアドバイスをする。」
「なるほどね。」
納得した俺は作業に移る。
「で?どうやってパートナーを?」
「度々済まんが....君の血だ。」
「やっぱり......。」
「君の血を使うことには理由があるのだ。自分の血、つなり体の一部を使うことによって、もっとも君に適した姿になるようになっている。」
まぁ理解できないわけではないが....。
「さぁ。手を貸しなさい。」
はい、と自分の手を差し出す。本当は手なんか刺されたくないが、仕方が無い....。もう後戻りできない。
先ほど同様に、刀身になにやら文字が書いてあるナイフを俺の手の差し込んだ。ここからは剣を作ったと同じ。
血が垂れるごとに床の魔法陣が輝き、最後また視界が光で覆われた。
頭にずしりと重みを感じる。一体どんな姿をしているのか、ドキドキしながらゆっくり瞼を開ける。
だが....いない!俺のパートナーがその魔法陣にいないのだ。みんなが俺を見ている。
そして楓が俺の頭を指差す。
「え?」
頭のものを両手で持ち上げ、目の前に持ってくる。
ふわふわの体。上にちょこんと生える耳。くるりと丸い目。そして左右に嬉しそうにふりふりしている尻尾。間違いない。猫だ。
「.......この子が俺の?」
「そうだにゃ。」
手の中の子猫が喋った。
「日本語話せるの?」
「当たり前だにゃ。僕はあなたから生まれたのにゃ。あなたの記憶も所有してるにゃ。」
開いた口が閉じてない。
ぽかーんとその猫を眺めていると、楓が目が輝かせながら、貸してと言うものだから、渡すとその猫を抱きかかえながら、顔を猫になすりつける。
「ふわっふわで気持ちいい~。」
「.....そう。」
唖然とする俺の元に楓がやってきた。
「名前付けなきゃ!」
「そうだなぁ。うーん....。」
猫。雄。にゃん。これくらいしかキーワードが浮かばない。あれだこれだと悩みに悩んだ結果一つの名前が浮かんだ。
「にゃんた....ってどう?」
静まり返る室内。
「も、もうちょっと捻ったほうがようのでは?」
いつになく、消極的な真里亜。さすがにこれはなかったか....。
「にゃんた....いんじゃないかにゃ?」
きらりと僅かな希望が生まれた。
「まじで!?」
「真聡さん。あなたが決めてくれた名前。それがどんな名前ににゃろうとも、僕はあなたからの贈り物だと思い、大事にするにゃ。」
少しだけ涙が出そうになったのは内緒。
「よし!お前は今日からにゃんただ!よろしくな!」
「はい。よろしくだにゃ~。」
一人と一匹は互いに違う形の手でがっちり握手を交わした。
これからの人生を共に生きていく
パートナーとなるにゃんたを肩に乗せ、楓と一緒にパジャマに変わる服を選んでいる。
「色的には黒が好きなんだよね。」
「あんた服まで黒にしたら、全身一式黒じゃない。」
「明日香は真っ赤なんだろ?だったら黒一式でもいいだろ。」
服についてぐちぐち言う親とそれに反抗する子供のような関係になりつつ俺と明日香。それを冷たい視線で眺める真里亜。
数々の服を却下され続け、
もう明日香の言うとおりにする以外は手立てがないのかと、諦めかけたとき、
「これだ!」
おっと待ち構えていたかのようなスパルトイメンバー。
「着替えてくるから待ってて。」
そうして、着替えるべく服をもって更衣室へかけた。
数分して着替え終えた俺は待ちに待ったという皆の前に出た。
黒のレザーパンツに、同じく黒のロングコート。そして左右の腰には二本の剣を収める鞘が掛けられていた。
「相変わらずの黒だけど......まぁいんじゃない?」
取りあえず納得した明日香。他のメンバーもまぁまぁと反応も悪くない。
「真聡君似合ってるよ。」
本気で思ってくれてるなら、最高に幸せなのだが、楓の顔はいまいちと物語っていた。
「まぁこれで決定ってことで。剣の位置も良いし。」
「よしっ!やっとだね。」
「何を?」
首を傾げてた俺ににやりと笑いながら明日香が答えた。
「特訓だよ。」
「おお。」
ついにか!何だかんだ言ってた俺だが、訓練と聞くと男ならここは盛り上がらずにはいられない。
「で。何をするんだ?」
「うーん。初めての戦闘だし....竜二辺りがいいかな。」
「そりゃどう言う意味だ?俺がこいつのレベルに丁度いいと言ってんのか?」
いやいやと明日香が首を横に振る。
「能力的に、ね。同じ近距離武器だし。」
「竜二さんも剣何ですか?」
「まぁな。あとで見せてやるよ。」
ついて来いとだけ言うと、竜二は大きな音を
たててドアを開け、そのまま廊下に出た。少し歩くとその部屋があり。
中に入ると小さな空間になっており、椅子や机、ソファーなど以外には何も置いていなかった。
そして部屋の奥の壁にもう一つドアがあるのに気づいた。あれがまさか.....。
「あの部屋が特訓部屋だ。あの中で俺と一対一で戦ってもらう。」
「俺今までに剣なんか振ったことありませんよ?」
「大丈夫。あなたは既に力を覚醒させている。考えなくても本能が体を動かしてくれるわ。」
明日香の胸にくるアドバイスを聞き、ようやく戦場に行くスイッチをオンにする。
「じゃ、行くか。」
部屋の中は全て白で塗りつぶされた空間だった。縦横50m程の正方形の立体のようだ。
俺は竜二が初めて会った時の服装と違うことに気づいた。
普段着の様な服ではなく、上半身は薄い鎧のようなものを着ており、どこからともなく降り注ぐ光がそれを照らしていた。
腰には金属でできた垂を装備し、こちらもまた金属の籠手をはめている。すると竜二が右腕を右肩の方へ持って行った。
途端に何かが光りながら形成されて行くのが見えた。
少しずつ出来たそれは190cmはあるという竜二よりももう少しばかり大きい巨大な両手剣だった。俺の華奢な剣とは違い、刀身は太く、輝くほど磨かれたそれは、人一人をひねり潰すには十分過ぎる力があるに違いない。
「俺の能力はレイヴン・スワード。見ての通り、両手剣だ。そしてこいつが俺の相棒、佐陀丸だ。」
ちょこんと竜二の頭の上に乗った猿が見えた。
「そういえば俺の能力って名前は何て言うんだ?」
呆れ顔でにゃんたがはぁと小さくため息をつく。
「真聡さん....今更ですか。」
「いいじゃん!教えてよ。」
仕方が無いという様子でにゃんたが俺の能力名を言った。
「能力名はファントム・クロウ。今手にしている通り、二刀流です。」
ファントム....クロウ。我ながらたいそれた名前だ。
「さて!お互い準備はバッチリだ!始めようか。」
「戦闘経験ゼロだからって甘く見ないでくださいよ」
ついに、この剣を使う時がきた。
互いに地面を蹴り、剣と蹴りがぶつかり合うぎゃいんっという金属音が部屋中に鳴り響いた。
地を抉る勢いで突き進んでくる竜二が、両手剣を大きく振りかぶった。
大き過ぎるほどの両手剣はまともに食らえばただではすまない。
俺は咄嗟に両手の剣を交差してガードした。激しい衝撃が全身に響き、数メートルも吹き飛ばされる。
手を地面につき、必死に勢いを殺そうとする。
その後も敵の連続攻撃は続く。目を凝らしながら、両手の剣をガードに徹した。
左右上下から殺到する攻撃を弾き続ける。
今まで剣での戦闘なんて人生で経験したこともない俺は向かってくる剣を、防ぐので精一杯でとても攻撃をする余裕もない。
早くも受け続けた両手は痛み始める。
「そんなもんかぁ?まともなのは見た目だあけか?」
「....そんな...こと...言われても....。」
息がきれ、途切れ途切れに言う。
「そんな甘えこと言ってると、いつまで立っても弱いままだ、ぜっ!」
最後の一言で、超高速で突進をかける。大きく振りかぶった両手剣が宙に紅い残像を残し、容赦なく俺に襲いかかる。
このスピード。受けたらまずい!今までの速さよりも数段鋭い斬撃。細身の俺では受けることなど無理だ!
なら躱すしかない。が、生憎、剣先はもう間近に迫っている。躱せる距離でも、受けられる斬撃でもない。なら.....。
「うおおおおぉおおおぉぉぉ!!!」
雄叫びをあげながら、右斜め上から迫りつつある剣、を持つ竜二の左腕に右手に握る漆黒の剣を向けた。
このまま行けば、竜二は剣を避けるため、左腕を引くしかない。
ふと視界に入った竜二の顔、その顔は勝者の余裕を表すようだった。
俺の剣が竜二の左腕に当たる瞬間、竜二は空中で剣を手放した。
そして信じられない速さで右腕が剣をがっちり掴んだ。
驚愕の出来事に目を見開く俺の目の前に両手剣が寸止めで止まった。
まだ体が動かない。空中で左から右に持ち帰るだと!そんなことが....。
すると竜二が近くに歩み寄ってきた。
「合格。」
「え?」
「合格だっつってんだろ。」
「でも、俺やられっぱなしで、何もしてない.....。」
「確かにはじめは酷かった。だが最後の反応は良かったぜ。たいしたもんだ。」
べしっと頭を叩かれた。嬉しいには嬉しかった。
けど、あんなふざけた連中にしか見えなかったスパルトイとこれだけ実力差があるとは....。
「おう、どした。いくぞ。」
「は、はい。」
何とか一回目訓練終了。
ドアを開け、休憩所のような部屋に真里亜と楓がいた。
「お疲れ。大丈夫だった?」
椅子に座った俺の隣に、コップに水をいれ、楓が持ってきてくれた。
「ありがと。大丈夫だけど、やっぱ強いな....。」
「そう...。次私たちたちだからいってくるね。」
「楓もやるのか!?」
「勿論、私も戦闘員よ。」
「でも....」
「大丈夫だって。じゃ、いってくる。」
駆け足で真里亜の元へ行き、共に修行部屋に入って行った。
するとこんこん、とノックの音が聞こえた。
ぎいと開いたドアの奥には礼矢が立っていた。
「竜二。もう終わったのか?」
「ああ。もう合格だ。次頼むわ。」
「ああ。」
「まさか、次の練習相手って礼矢さんですか?」
「ああ。よろしく頼む。」
「はい、よろしくお願いします。」
戦闘向けにはとても見えないその細身の眼鏡がまさかあんな事になるとは、この時思ってもなかった.....。